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第336話 小さな剣と思い25

 俺たちは今、屋敷に来ていた。

 里長、レオンと戦った屋敷であるからして、すこし来るのには抵抗があったが、この屋敷は代々里長が使っていた屋敷というということもあって、里長になったユキが次は使うこととなる。


「ユキ、良かったな。認められて」

「うん!」


 あの後、ユキは里長になるという推薦を受諾した。これにより、ユキは正式に里長となったのだ。

 俺としては反対派もいそうだと思っていたのだが、満場一致でユキが里長になることを推してくれたのだ。これで俺も少しは安心というものだろう。

 それに俺もユキが里長にふさわしいと思う。


 今までいくつもの経験をし、一緒に旅をしてきた。そんなユキだからこそ、この里を任せるのに一番安心だ。

 そして、ユキだからこそ、俺たちの交流もしやすい。ユキになったことによって貿易の懸念は解消されることとなるだろう。これによって俺たちは依頼完了だ。もうこの里にいる必要はない――そういったはずなんだけどな。


「皆さん! この人が私の大切な人です!」


 里の住民全員が屋敷の前に集まってユキが就任したということで演説を聞いていたのだが、その最中にユキは俺を連れ出してとんでもないことを口走りやがったのだ。

 事実なのだが、この大勢の観衆の前で言ったら面倒なことになるのは確実だ。


『おーっ!』


 沸き上がる観衆。どうやら俺の予想通りになりそうだ。

 監修達に混ざってユキの演説を聞いていたみんなは「やっとか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 大体、他のみんなは下で聞いててもいいけど、「私一人じゃ不安だからヒロトは一緒に来て」と言われた時にはもう嫌な予感がしていたのだ。

 まさか、こんな形で的中することとなろうとは……。


「ヒロト、何か一言頼むよ」

「断る。俺はただ付き添いに来ただけだからな」

「……ヒロト」

「わかったわかったから泣くな」


 ユキってこんなやつだっただろうか。

 涙目で目を潤ませながら上目遣いで見てくるユキに俺は屈服してしまった。

 ったく、なんで俺がこんなことをしなくちゃいけないんだよ……それに、こういう時はなんて言えばいいのか分からない。俺はこういう大勢の前で喋るという事が苦手なのだ。

 だと言うのにこのタイミングで俺に振りやがって、こいつは悪魔の生まれ変わりなのか?


 でも、仕方がない。振られてしまったんだからここで何か言わないと俺の印象だけでなく、こんな俺を選んだというユキの印象も悪くなってしまう可能性がある。


「えー咲ヶ谷裕斗だ。今まで俺はユキとたくさんの旅をしてきた。その中で危険なものもあった。だが、そんな修羅場を一緒に乗りきってきた仲間だからこそわかる。ユキは信用に値する。この里を一番任せて安心だろう」


 ユキのことに関しての演説をした。先程までユキは何をするかとか言うことしか喋っておらず、自分のことに関することは一切言っていなかったので、俺が付け足してやった。

 すると、隣でユキが恍惚とした表情で俺を見てきていた。


 この表情を見ていると俺はなんだか嫌な予感がして一歩、また一歩と後ろに下がっていく。

 その時だった。


「ヒロト!」

「ぐはっ!」


 俺に思いっきりだきついてきた。

 俺の傷はまだ治っておらず、今の一撃はなかなかの骨に響いた。そして、そのまま俺に顔を近づけてきて――


 ――俺の唇に柔らかいものが触れた。


 観衆からは黄色い声援が飛んでくる。

 この状況、俺にとってはものすごく恥ずかしいのだが、ユキには羞恥心というものがないのだろうか。

 全く……でも、唇を離した後のユキの表情はとても幸せそうで、その表情を見た俺はもうそんな細かいことはどうでもよくなった。


「これで演説を終了します。ご清聴ありがとうございました!」


 ユキが観衆に向かってぺこりと頭を下げたところで演説は終了した。

 俺はこの演説が始まる前にユキにのこのこと着いてくるのではなく、逃げればよかったと後悔していた。

 だけど、俺も見たかったのだ。なにせ、大切な人の演説だ。見逃す手はない。


「ヒロト、ありがとうね。今まで私のわがままに付き合ってもらって」

「あんなもん、わがままに入らん」


 俺の気まぐれだ。

 気まぐれでユキの事を助けたいと思ったからこそ、今まで一緒に旅を続けてきたのだ。

 まぁ、今ではこんなことになってはいるけどな。


「私はしばらくこの里から離れることは出来そうにないや」

「そうか。まぁ、そうだよな」


 里長となったら色々と忙しいのは当たり前だ。そうなったら今まで通りに俺たちと行動することは出来なくなるだろう。

 確かに寂しいが、俺はもうユキの事を応援すると決めている。


「まぁ、たまに遊びに来るからな」

「本当!?」

「あぁ、俺の可愛いお嫁さんだからな」

「えへへ」


 本当に最初に出会った頃から比べると印象が変わったな。

 第一印象は頭おかしくて、でもなんだか暗くて、寂しそうだった。だが、今はこんなに明るくてかわいい女の子になった。

 色々な経験がユキをここまで変えたんだろうな。そう考えると、今まであったことは全て必要な過程だったのかも知れない。


 ユキにとっては辛い過去だったのかもしれないが、もしユキが追い出されることがなく、俺たちと出会わない可能性があったとしたらユキはどうなっていたんだろう。

 そのことは誰にも分からない。


 だが、確実に言えることは今までの辛かった過去を乗り越えたからこそ、今のユキが居るってことだ。

 これにて第三章は終了となります。


 この章ではユキの過去に触れました。そして解決へと言う感じですね。


 次の章が恐らくこの第三部の山場なのですが、部を追うごとにどんどん話数が少なくなっていっているような気が……。


 まぁ、第一部を引き伸ばしすぎたってだけですがね。


 では、次の章をお楽しみに!

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