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第335話 小さな剣と思い24

 ユキと結婚してあげて。その言葉が俺の耳の中で木霊する。


 カナタの口から出た言葉はそれくらいに俺にとっては衝撃的なものだったのだ。

 俺は放心状態に陥ってしまう。


 え、俺とユキが……結婚?


「いやいや待て待て。俺にはお前がいる」

「……一夫多妻でもいいと言っているじゃないですか」


 確かにそうなんだけどさ! 確かにそうなんだけど俺の心情的にそういうのは出来ないってのは察して欲しいんだけど!?

 ユキの気持ちはしっかりと伝わった。なにせ、あそこまで直接的に好意を伝えられてしまったら気づかないわけがない。


 あんなに直接的に好意を伝えてくれたユキの告白だ。確かにあれを断るのは良心が痛むが、元いた場所ではこういう時は断るのが常識だったから、俺はそんな簡単にユキと付き合う訳にはいかない。

 そんな感じで悶々としているとカナタは昔と同じく呆れた顔をした。


「ヘタレ……」

「ヘタレとはなんだ! 俺だって色々と考えて――」


 いや、確かに俺はヘタレなんだ。だから俺はこんな風に言い訳をして、それで自分のこのヘタレなのを棚に上げているだけだ。

 この世界では一夫多妻制は正式に認められている。だと言うのに俺がごちゃごちゃと言っているのは俺がヘタレなのが原因だ。


「でも、カナタは本当にそれで――」

「しつこいです。私はいいって言っているんですから」


 それもそうだな。さっきからカナタは俺に結婚することを勧めてきているもんな。


「ユキが俺に好意を持ってくれているのは知っている。だけど、その好意に答えられる覚悟が俺自身にあるのかがまだはっきりとしないんだ」


 俺だってユキのことは大切に思っているし、ユキが願うのだとしたらできる限り叶えてあげたい。だが、本当に軽く決めてしまっていい事なのか?

 俺にとっては何人とでも結婚できるから軽く決められるものでも、ユキにとっては相当悩んだんだと思う。俺に告白してきた時の表情を見ればその事は一目瞭然だ。


「そんなに深く考える必要は無いんじゃ無いかな?」

「え?」

「たしかにあまり考えないで行動するのは良くない。だけど、そこまで思いつめる必要は無いんじゃ無いかな? 今のヒロの……ヒロトの気持ちを聞かせてよ」


 俺の本当の気持ち。

 ユキは俺にとって大切な仲間で、パートナーで……かけがえの無い大切な人。

 俺の事を知っても嫌悪感など抱かずに一緒に戦ってきてくれた。


 あの旅でいつも辛い状況でサポートしてくれたのはユキだった……。


 そこで気がつく。

 もう俺にとってユキはただの仲間でありパートナーではなくなっていた。カナタと同じく大切な人。


「その表情、分かったみたいだね」

「あぁ……正直、今でも迷っている。だけど、もう決めたよ」


 それだけ言って俺はカナタのもとをあとにした。

 カナタに背を向けて歩いている最中、背後から頑張ってねという言葉が聞こえてきた。


 俺にはこの道が正解なのか不正解なのかが分からない。だけど、自分がこうだと思った道に進むべきだと、そう教えてもらったから。だから俺はこれを選択する。


「ユキっ!」


 俺はユキの後ろ姿を見つける無いなや叫んでユキの事を呼ぶ。

 すると、一瞬ビクッと肩が跳ねたユキだったが、直ぐに弾かれるようにこちらを向いた。

 そして、俺の顔を見て顔を紅潮させるユキ。恐らく先程の事を思い出しているのだろう。


「ユキ。俺と結婚してくれ」

「え、え、え……?」


 ユキは俺の言葉にまだ状況が掴めていないようで、目を白黒させている。恐らく、このような結果になるとは思っておらず、驚いてしまったのだろう。

 だが、そんなことは気にせず、俺は更に続ける。


「ユキ。俺はお前が好きだ。仲間として、パートナーとして……そして……」


 俺は口下手なせいで上手く言葉を紡ぎ出せない。しかし、できる限りの思いを込めて俺は一言一言放つ。


「俺はつい最近まで自覚していなかった。と言うよりも自覚したのはついさっきだ。だけど、はっきりと俺はユキの事が好きだと言える」

「ヒロト……ありがとう」


 ユキはお礼を言うとだきついてきた。

 今までにも何度も抱きつかれたことがあった。しかし、それは全て俺の剣の匂いを嗅いで自分を落ち着かせる鎮静剤のようなものだったのだろう。

 しかし、今回の抱きつきはそれとは違うというのがわかる。なにせ、ニコニコと嬉しそうにしながら俺に頬ずりしてきているのだから。


 そんなユキを抱き締め返して俺はユキの頭を撫でる。


「ねぇ、ヒロト」

「なんだ?」

「私、里長になるよ」

「……そうか」


 里長になるという判断。俺は間違ってはいないと思う。なにせ、この里の人達が推しているのだから、ここで里長になるチャンスを逃すのは絶対だめだ。

 だが、少し寂しくなる。なにせ、この里長になると今まで通りに一緒に冒険に出ることが難しくなるだろう。常に公務が回ってくるはずだ。

 だが、俺はそれでもユキの選んだ道を尊重する。


「でも、大丈夫なのか?」

「どうして?」

「里長になると狙われるんじゃないかって」


 里長をよく思っている人もいれば思っていない人もいる。つまり、そんな人達に襲われたりしないのかが不安なのだ。


 そんな心配をしているとユキは自信満々に言った。


「大丈夫」

「大丈夫って……お前なぁ」

「だって、私には心強い旦那様兼、ボディーガードがいるんだから」


 全く……ユキにも勝てそうにないなと思った瞬間だった。

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