第32話 蛇の王者
「すみません! 押してしまいました!」
お前だったのかユユ。
カナタもヤレヤレと首を振っている。俺と同じ事を思っているんだろう。
「でもこれ、どこまで落ちるんだよ!」
というか高すぎ! これ普通に落ちたら死ぬんじゃねぇの?
そして漸く地面が見えてきた。だがこれは死ぬんじゃ? そう思ったら急に風が俺を包み込むように吹いてきてゆっくりと着地した。
他の二人も同様に着地した。
「これも魔法か?」
「はい。エアクッションと言います」
カナタは補助魔法が多いんだな。今まで一回しか攻撃系魔法って使ってないよな?
そして俺は辺りを見回すと明るくて広い空間そこには広がっていた。どうやら真上の穴から落ちてきてしまったようだ。
そして奥の方にやばい物を見てしまった。
それは──。
クシャァァっ!
蛇型のモンスター。体のデカさは俺達の数十倍もある大きさだ。
「あれはキングスネーク! 蛇の中でも王様と言われるのモンスター! 牙に猛毒を持っている魔物です」
それなんてバジリスク? 蛇の王者で毒持ちってただのバジリスクじゃないですか。
キングスネークは舌を出しながらこちらを伺っていた。先に仕掛けたらカウンターでやられるパターンの奴だなこりゃ。
「私が殺る!」
そう言って前進するユユを俺は腕を掴むことによって止める。
「もっと観察してから」
「大丈夫。私なら近づかずに攻撃できるから」
自信満々にそういうユユであったが、俺は不安でしょうがなかった。
「水操作からの水針!」
そう言って洞窟内の水蒸気を凝縮させて水滴を作り出し、その水滴を針のように鋭くしてバジリスクに当てる。が、キングスネークの皮が暑すぎて刺さらない。
「そんな!」
すると物凄い勢いでこっちにキングスネークが体当たりしてきた。
あのスピードは走ってたんじゃ追いつかれる。そう思った俺は左右に居る二人の手を掴む。
「ひゃっ!」
「も、もう。ヒロさんこんな時に〜自重してくださいよぉ〜えへへー」
お前の方が自重しろ。
そして俺は足に力を込める。
「ブースト!」
思いっきり地面を蹴った俺はキングスネークとすれ違うように避けることに成功する。
すると俺とキングスネークはスレスレをすれ違ったからキングスネークからしてみれば急に消えたように見えたんだろう。キョロキョロと俺達を探している。
後ろだ。お前の後ろにいる。
さてここからが正念場だ。
見た所、一切抜け道は用意されていない。よくあるパターンだとこいつを倒せば出られるって奴だ。
そうなったらどうやって倒すかだ。
まぁ、奥の手はあるっちゃあるけど、確実に当てれる状況を作った上で賭けに出たい。
「よし! んじゃあ指示を出す!」
そして俺は指をさしながら指示を出す。
「ユユは右、カナタは左にスタンバイ。合図したら拘束できる技を放ってくれ! くれぐれも近づくな」
「了解です」
ユユとカナタは口を揃えて言った。
作戦名は──
「トリプルアタック!」
俺の考えたやり方はこうだ。
まず左右から高速技をかける。そうすれば流石の奴でも動けなくなるだろう。そこに俺が一発でかい奴を当てる。
そして俺は大きい石を持ち上げてキングスネークに投げつける。
するとやはり石が当たった瞬間、左右の二人に目もくれず俺の方を向いた。これならもし失敗してもほかの二人には被害が少なくて済む。俺から離したのもこれが理由だったりする。
「さぁ、やれ!」
俺が合図した瞬間、二人とも早口で詠唱し始めた。相変わらず詠唱はなんて言ってるかわからない。だが俺は二人を信じている。やってくれるって。
「高圧の檻」
「水蒸気の昇華」
するとキングスネークが凍り、その周りにカミソリみたいに鋭い空気の檻が出来上がった。上出来だ。
「さて、キングスネーク。動けない気持ちはどうなんだ? 蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかるだろ?」
こいつは蛇だが今だけは蛙だ。蛇に睨まれて動けなくなる蛙だ。
そして掌をキングスネークに翳す。
ここからが俺の仕事だ。一か八か……。出来るという保証は無いけど、やると言ったらやる。
「それが俺だァァっ!」
そして目を閉じる。
ここで失敗したら俺達は負ける。だけど、意外と焦りはなかった。心はいやに落ち着いていた。まるでこの俺の本能が出来るとそう感じているようだった。
「聖光よ。我が力に答え、その力を発揮せよ!」
そして目を開ける。
俺の掌には魔法陣があってクルクルと回っていた。
静かに深呼吸する。そして放つ。あの技を──
「聖光の波動!」
俺の腕が光る。その光が限界に達して一気に光を放出するように掌から波動砲が飛び出してきた。
成功だ!
その波動砲はキングスネークに真っ直ぐ伸びて行って……。そして──
クシャァァっ!
キングスネークの断末魔の叫びが俺たちの居るこの空間に響き渡る。
この魔法の特徴は魔物にもめちゃくちゃ相性がいいってのがある。しかし、消費魔力がデカすぎて一瞬で魔力を使い切ってしまう。
リラックス草を食えばもう一回使えるけども、今は一個しか持ってきてない。
しかしさすが蛇の王者。聖光の波動をくらい続け、そして凍った外皮は全て破壊されていると言うのにまだ動いている。
早くやられてくんないと俺の魔力が無くなる!
「疾風の波動」
彼方の方からも波動砲が放たれた。ジフェニールが使っていた風属性の波動砲だ。
しかしまだ奴を倒すまでには至らない。どうすれば……。
だが、何かあるはずだ……。檻を作って凍らすところまでは良かった……。ん? 凍らす? なんでユユは奴を凍らせれたんだ? ユユが昇華させたから? いや待てよ。圧縮してじゃなくても凍らせられるんじゃないか? だってユユは水を操れるんだから。
「ユユ! やつの体内の水分って凍らせられるか?」
「うーん……浅いところなら」
「浅いってどれくらいだ?」
「50cm位なら」
50か……。でもそれだけあれば充分だ。
「ユユ! やつの体内を凍らせてくれ!」
そして「うん!」とうなづいたユユは手をかざしてギュッと握りこぶしを作った。
「水操作 氷」
その瞬間、どんどんとキングスネークを凍らせ始めた。
さっきは表面に氷が出来てただけだが、今回は違う。皮膚の内側50cmまで凍っていく。
そこまで凍ったらこっちの物だ。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
表面の氷を削る度にユユはさらに深く深くを凍らせられるようになる。
そしてついにキングスネークは全く動かなくなって消滅した。
「やった……勝った……」
さっきまで焦りと緊張でどうにかなりそうだった心が一気に何とかダメージ無くして勝てた喜びと二人を守れたという安心感で満たされていき、脱力する。
だがまだ安心しきっちゃいけない。この洞窟の主を倒さなきゃな。
「大丈夫なんですか? あんなに魔力使って……。ヒロの魔力は私達より少ないんですから無茶しないでください」
怒られてしまった。
でも確かにちょっと無茶し過ぎたな。ギリギリまだ動けるけど魔法は使えそうに無い。
「多分大丈夫だろ」
そう言って俺はリリラックス草を半分噛じる。
すると体中の魔力が少し回復するような気がした。
リラックス草は一個丸々食べたら魔力を全回復する。しかし半分だと効き目が半分まで落ちる。だが半分もありゃ充分だろ。
ドゴゴゴゴ
一箇所の壁が急に左右に開いて道が出現した。
「開きましたが行きますか?」
「罠とかがありそうだけど……」
これでまたすぐトラップなんて体が持たねぇぜ。
「それじゃちょっと怪しい感じはするけど、そこしか他に行く所もねぇみたいだし行くしかないな」
そして俺が歩き出すと二人も着いてきた。
また先の見えない真っ暗な道だ。それを確認したら俺はまた懐中電灯を取り出して付ける。
すっかりあの人達とはぐれてしまったな……。そう思いながら俺達はこの真っ暗な道を進んでいく。