第3話 あと少しという言葉は嘘である
俺はカナタと言う少女にこの世界をを案内されています。と言っても一面何も無い平野を歩いているだけなんだけどな。
可愛い美少女の隣を歩けてハッピー──なわけが無い。よく思うのだが転生物のラノベ主人公って大抵引き篭ってコミュ障やってるじゃないですか? だと言うのにあの体力はおかしいと思うんです。
高校に行かずに自宅で引き篭って読書していただけだから体力が全く無いんだ。
少しは転生特典が着いてきて体力なんかも上がってるかなと思ったらこれだ。こんなクソゲー見た事が無いレベルだ。
「頑張って下さい。確かに街までは遠いいですが頑張って下さい! そんな所で倒れていたら魔物の餌食になりますよ」
そんな事を言って俺に危機感を覚えさせようとしているが、俺としてはそんな事はもうどうでも良くなっていた。
魔物……か。まぁ、魔王が居るならそれくらい普通に居るわな。
これから面倒な事になるくらいならそっちの方がマシかな? って思うレベルの徹底っぷりだ。
それにしてもこんなに体力が無いとは思わなかった。
偶に本を買いに行っているが、こんなに息が切れて肩で呼吸したことは無い。
「頑張って下さい」
そうだな。動くのがクソだりぃ現状ではあるけど街につかないと落ち着いて休めないってのはあるからもうひと頑張りしてみますか。まぁ、異世界転生なんてさせられなかったらこんな事にもならないんだけどな。
俺は神なんて信じない派なんだが、今だけは神を恨む。
「あとどれ位なんだ?」
そう聞くとカナタは道を見てからこういった。
「あと少しですね」
俺は知っている。あと少しなんて言葉は信じてはいけないということを……。それで何度騙されたことか……。
それと、ついさっきまだ遠いいって言っていたのを俺は聞き逃さなかったぞ。遠いいのにあと少しって凄い矛盾だな。
「とりあえず行くけど先に断わっておく。俺の体力の無さは異常だ」
「分かってますので大丈夫です。と言うかさっきまで倒れていた人はどこの誰ですか?」
そう言えばそうだった。
しかし……辺りどこを見渡しても真っ平らな平野があるだけだ。この真っ平らな世界に街があるとは到底思えない。
俺はここを知らない。だから騙されているって可能性もあるっちゃある。
「こんな平野に本当に街があるのか?」
「…… まさか疑ってるんですか?」
「いや、そういう訳じゃないが、あまりにも何も無いもんで」
「まぁ確かに初めて来た人なら疑うのも無理はありません。だってここは端から街まで最短距離で歩いても600km位はありますから」
それを聞いて俺は顎が外れたんじゃないかって位口が開いてしまった。
現代日本で東京から岩手までの距離で約530kmらしい──つまり東京から岩手より少し長い位の距離だ──完全に車で行くレベルの距離である。
「あの……歩行以外の移動手段は?」
一応聞いてみる事にした。どうせここまで歩いてきたんだ。他には移動手段は無いだろうと思いながら聞いてみる。
「テレポートならありますが」
そんな言葉を平然と言い放ってきたカナタ。
それを聞いた瞬間俺は思考が停止してしまった。移動手段があるならなんでそれを使わなかったんだよ。
「本当に徒歩しかないと思ったんですか? こんな長い距離、歩いていたら何日かかると思ってるんですか?」
ぶっ飛ばしたい。
だけど俺は人を殴るなんてエネルギーの消耗が激しい事はしない。命拾いしたな。俺が殴るような人じゃなくて。
「とりあえずそのテレポートとやらを使って連れてってくれよ」
「はいはい。じゃあ唱えますよ」
カナタはそう言った瞬間、意味不明な言葉を唱え始めた。
これが詠唱ってやつか。初めて見た。
言い終えたら両手のひらを広げた。
すると、手のひらから魔法陣が出現して魔法陣が回転する。
「さあ私達を彼の地まで送り届けよ!」
そう言うとカナタの手のひらの数センチ先の空間が割れて、その中から空間が出てきた。
テレポートと言うよりワープゲートみたいな感じだ。
「これで行けるはずです」
そう言って空間の中へ腕を突っ込むカナタ。
「さぁ行きましょう」
そう言ってカナタは先導してワープゲートの中に入って行った。恐らく安全生を伝えるために実践したんだろう。
気遣いが出来るんだな。俺とは全く正反対だ。
これでやっと街に行けるんだな。
そして俺はその空間の中へ腕を入れる。
──不思議な感覚だった。
確かに腕の感覚はあってそこにあるのに、視界には写っていないと言うのは普通、現実世界では体験出来ないことだ。
そして頭を入れてみると、そこには西洋風の街並みがあった。
看板にはなんて書いてあるかは分からないが、見る人が見たらかなりワクワクする光景だった。
そして全身が通り抜けると、自動的にそのワープゲートは閉じて何も無くなった。
街は相当賑わっている。
あちらこちらで声が聞こえてくる。
現代日本ではあまり見かけない光景なため、俺は気後れして立ち尽くしてしまう。
「ここがアルケニアの街です」