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第29話 街の精鋭

「せいかーい! 僕の魔術は気に入ってもらえたかな?」

 とてもこの場の雰囲気には似合わない陽気な口調でそう語りかけてくる。

「あぁ、そうだな。気に入った。お礼に良いものを見せてやろう」

 そして俺は右手をやつに向ける。


「良いでしょう! この僕、ジフェニール・ファドラールにダメージを与えられると言うなら与えてみなさい!」

 もちろんだとも。これは大技らしいけどやってみるしか無いよな。

「深遠よ。我が力に答え、我がモノとなり我の力と成せ!」

 これは本当の詠唱では無いだろう。こっちの世界のみで通じる言語で詠唱してるらしいからな。今言ったのは詠唱を翻訳したものだ。


 そしてこの詠唱は大技の一つ。

「暗黒の波動!」

 叫ぶように技名を言う。

 しかし何も起こらない。何故? 俺、だいぶ間抜けだったんじゃ? ヒロの攻撃。暗黒の波動。しかし何も起こらなかったって文面が見えるようだ。


 しかしこれが使えないってことは闇じゃない。

「ガッカリだ。そんな使えない技を出してくるなんて」

 そして俺に右手を翳してくるジフェニール。すると詠唱をし始めた。俺のとは違う完璧な詠唱を……。

「暗黒の波動!」

 奴の手から波動砲が放たれた。

 紫色で禍々しい。これまでに無いくらい俺は恐怖を感じた。

 俺はブーストを忘れて走り出した。

「そんなスピードじゃ逃げきれないよ!」

 俺の方を追って手を向けるジフェニール。だけど、やつは忘れていた。もう一人動ける者の存在を。

「水操作! そして水針(すいしん)!」

 ユユが魔法を発動するとジフェニールの周りの雨水一粒一粒が針状に変形して、そして──

「く、あぁぁっ!」

 刺さった! 水の針、水針がジフェニールに刺さった!


 そして刺さったところから血を流すジフェニール。痛みからか暗黒の波動を解除してしまう。

 ユユにお礼を言うと喜んでいた。ユユが居なかったら多分やられていただろう。

「さて、先に血を流したのはお前だったようだな。ジフェニール」

 そう言うとジフェニールは笑いだした。不気味にフフフと笑いだした。そしてやがてその笑いは大きな笑いに変わっていく。

「この位の傷はどうって事ない!」

 そして地面に降りてくるジフェニール。

「お前ら人間は私達には勝てない!」

 そしてジリジリと近寄ってくるジフェニール。真っ黒なオーラを纏っているからか俺は威圧感に気圧されてしまう。

 これが魔力だと言うのか。


 隣を見てみるとユユも目を見開いて怯えていた。

 足が動かない。恐怖で足が動かない。

 俺達がこんなんだと言うのにカナタは平然と雨乞いを続けている。精神力が強いんだ。これに気圧されずに……。

 そして俺は一歩前進する。まるで向かい風の突風でも吹いているかのように押し飛ばされそうになる。


「死ねえぇぇっ!」

 俺に手を向けてくる。暗黒の波動か。今度は避けきれる自信が無い……。

 その時──

「お前がな」

 そんな声が背後から聞こえて突風が後ろから吹いてきた。

 するとジフェニールが切り傷だらけになった。

「誰だ!」

 ジフェニールが聞くと物陰から一人の人物が出てきた。

 あの人は!

「俺の名はカイズ・クラタガ。風の剣士さ」


 少しキザっぽく口に加えていたバラを人差し指と中指で挟んで手に持つ。

「魔族ねぇ……。君のさっきの力を見させてもらったよ」

 とキザっぽいポーズのまま続けるカラタさん。

 ユユは何故かさっきからずっと「ヒロさんの方がカッコイイのでやめてくださいそのカッコイイポーズはカッコイイヒロさんのためにあるのです」とかいう風に呟いていて狂気を感じた。

「ふーん。見てたんだ? で、どうだった? ま、勝負にもならないと思うけど」

「そうだな。勝負にならないな」

 そう言ってカラタさんは背負っていた剣を地面に投げ捨てた。


「貴様! なんのつもりだ!」

「なんのも何も、勝負にならないからな。ハンデだ」

「なに? 僕があんたなんかに負けると?」

「ああそうさ。瞬殺でな」

 すると明らかにジフェニールの顔に怒りが現れた。

「君はこのバラにさえ勝てないのさ」

 そう言って煽るようにバラの香りを嗅ぐ仕草をする。

 カラタさんが強いのは認めている。だけど、ユユの話を聞いたあとだからやはり不安だ。

「後悔するなよ!」

 ジフェニールがカラタさんに向かって走っていった次の瞬間だった。


 急にバラの花びらがジフェニールへ飛んでいって体を切りつけた。そしてブーメランみたいに帰って言ってバラの元あった位置にまたくっつく。

「そのバラは一体!?」

「普通のバラだよ」

 そう言えばカナタが読んでいた魔導書にあった。恐らくこれは──

「木属性の魔法、戦う植物(バトルプラント)だ」

 カナタは土属性が弱点である自分の属性をカバーするために木属性の魔導書を借り込んでたな。

 ジフェニールはさっきと違って冷静だった。叫びもしなかった。

「どうした? 威力が無いぞ?」

 そうか! カラタさんは風属性。だからあまり効かなかったのか!


「それが?」

 カラタさんは平然とそう言った。

「俺はわざと威力を落とした。すぐ終わってしまっては俺の怒りが冷めないもんでな」

 そう言ってカラタさんはバラをジフェニールに向ける。この人もおどけている様に見えるが、ちゃんとこの人もこの街に危害を加えられて怒ってるんだ。その心の中はあまり怒らない自分と怒ってる自分の感情でごちゃごちゃになってるんだろう。


「とりあえず、百発位殴らないと気が済まない」

 カラタさんはジフェニールを睨みつける。そのカラタさんの迫力はさっきのジフェニールを超えていた。

 そしてカラタさんがまた攻撃しようとすると「おーい!」と遠くから声がした。

 その方向を見てみるとそこには知らない人が立っていた。

「カイズ、俺の分も残しとけよ!」

 二人は知り合いなのか?

「ったく。ジュマイお前は来るのが遅い!」

 ジュマイ? ってことはあの人は街の精鋭部隊の一人。ジュキック・マイアーさん!?


 ユユは口を開けて唖然としてしまっている。

 街の精鋭がここに二人も揃った。ジフェニールにとってもこれは想定外の出来事だったらしい。

 そしてジュマイさんはカラタさんの隣に来てマントを翻した。

「俺の名前はジュキック・マイアー。貴様を倒す者だ!」

 そう言うとジュマイさんは杖を取り出した。


 ちゃんと杖を持ってる人を見たのはこの世界に来て初めてだ。それと剣も持っている。

「取り敢えず全力を放っていいか?」

「お好きにどうぞ。俺はあいつに無数の傷を付けれて満足だ」

「そうっすか。じゃあ……」

「さようなら」小さくそう呟くとジュマイさんの杖の先から大量の水が飛び出した。水の波動砲みたいな感じの見た目で渦を巻いている。


「僕がこれしきの事でやられるとぉぉぉっ!」

 まともに食らったジフェニールは悲鳴を上げながら消滅して行った。案外あっさりと終わってしまって拍子抜けだ。

「ありゃりゃ。やっぱり一撃で消えちまったか……」

「お前の無詠唱魔法は鬼畜だからな。あれを魔族に当てて耐えられる魔族なんて居ないだろ」

「たりめーよ。俺の激流の波動(ウォーターブラスト)に叶うやつァいねぇぜ」

 やはりこの人達は凄い! 俺は改めてそう思った。

 それから一時間後──水属性の皆様の活躍によってようやく火は消された。

 あの時カナタが雨乞いをしたお陰で酷い火災にならずに済んで燃えた家等もあるけども復興まではそうかからないだろうとの事だ。


 これにてめでたしめでたし……かと思ったら……。

「これより洞窟に攻め込む! 戦える者は着いてこい!」

「ヒロさん行きましょう! 今こそヒロさんの出番です」

「ユユちゃん。この男に何言っても無駄だと言うことを早く覚えたら?」

 人生で一番面倒い。

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