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第223話 昇格試験5

 サキが戻ってくるとスイは再び抱きついた。しかし今度は先程と違ってサキの合格を讃えているようだ。

 スイの感情表現が激しい。何やら情緒が不安定の様だ。

 でも確かに合格したのはめでたいことなので素直に賞賛する。あとは俺とユキだけか。俺に関してはそんなにやる気は出ないんだよな。でも出来るだけのことはやるつもりではいるが、問題はユキだ。

 ユキはサポート型の戦い方なので単独戦闘には向いていない。だが、アナウンスの声はそんなことは知るかとばかりな名前を告げた。


『お次は同じく『HOPE』のメンバー、ユキ』


 ユキに関しては心配しかない。スロームーブなんかも戦闘要員が居ることによって輝く魔法。ユキの単独ではそんなに驚異にならないのだ。

 だからユキまでこの試験を受けて良かったのか、そこが疑問だった。確かに他のみんなが上がって置いてけぼりになるのは嫌かもしれないが、不合格になったら一生ランクは上がれない。

 俺はランクにはあまり興味がないので上がった仲間に討伐クエストを受注してもらえればいいのであんまり深刻には考えていないが、ユキは上がりたいと思っているはずだ。なのにここで不合格なんかになってしまったら――そんな最悪の想像が止まらない。


「大丈夫」

「ユキ?」


 俺がユキを見るとユキは俺の耳元で呟いた。


「大丈夫だよ、私はヒロトが思うより強い」


 ユキは笑った。その顔を見た瞬間、なんだか何とかなりそうだと思った。ユキの力はよく見たことがなかったので、これは見る機会かもしれない。


「……頑張れよ」


 そう言うとユキは満足そうに微笑んでから控え室から出ていった。

 出ていくとやはり一瞬、誰こいつ? という空気になったものの、ユキが可愛いと観客席が盛り上がった。その歓声からしてまるでアイドルだ。その反応にサキとスイは少し不満そうな声を出した。二人の時は本当に誰こいつってだけだったけど、ユキだけ可愛がられているからな。

 だけど当の本人は鬱陶しいとでも思っている様子。


(私はヒロトにだけ可愛がってもらえればいい)


 ユキは部舞台に登ると言われる前に枠に親指を押し付けた。少し態度が悪い気がしたが、でもギルドマスターは笑っているのでもしかしてギルドマスターはあんまりきちんとしているよりもこういう荒い方が好きなのか?

 観客も盛り上がっているので特に問題は無いのだろう。

 そしてユキとギルドマスターは光り始める。ギルドマスターは今まで通りに腕を組んでいるだけだが、ユキは何をするのかと見ていると、なんと手を横に伸ばし、その先から真っ暗な空間が出現した。ずっと見ていると吸い込まれそうな、そんな黒さだった。

 その中に手を突っ込むと何かを引っ張り出した。その何かとは――長い棒だった。確かに今までユキが武器を持っていなかったからてっきり素手の魔法で戦うのかと思い込んでいたが、これのルールは剣魔法王者決定戦と同じ、武器を使ったとしてもおかしくない。


「それは?」

「これですか? 暗黒棒です」


 闇から取り出したから暗黒棒なのか。安直な名前だが、魔法で取りだしたんだ。なんか特別な力でもあるのだろうか。

 その数秒後、二人を覆っていた光が消えた。それが開戦の合図となった。この戦いは俺にとっても見ものだ。この戦い次第で今後の作戦の幅が広がる。

 今回先に攻めたのはユキだった。

 今まで先に攻めたのはギルドマスターの方だったのでユキもギルドマスターの動きを探るのかと思ったらユキがギルドマスターの方に走り出した。


 そんなユキをギルドマスターは迎え撃った。でも大丈夫なのか? 確かユキの得意な魔法はデバフ系だったはずだ。だが、デバフ系の魔法は自分から攻めたら効力を最大限に発揮出来ないのでは無いだろうか? つまり、自分から攻めることは自分を不利な状況に追い込んでいるって事ではないだろうか。

 多分ギルドマスターは一通り情報を見ているだろうからわかっているだろう。どうやら自分から攻める気満々だったようで少しギルドマスターも驚いている。

 しかし、ユキは関係ないとばかりに突っ走る。


「私は闇属性魔法使いだ」


 ユキはそう言い放つと棒をギルドマスターに向けた。そのギルドマスターに向けられた棒は闇を帯び始め、その闇がギルドマスターに伸び始めた。

 その闇はギルドマスターをぐるぐると囲み始めると、何やらギルドマスターに何かが怒ったようだ。ギルドマスターは冷や汗をかいている。


「これは!」


 ギルドマスターが驚いている間にユキはどんどん接近。気が付いたら棒の射程範囲内までに近づいていた。しかし、ギルドマスターは全く動く気配がない。

 そしてそのままユキは棒でギルドマスターを棒で殴った。それにギルドマスターは大ダメージを受けた様子。観戦側から見たらギルドマスターが自分から当たりに行ったように見えた。

 大ダメージを受けたギルドマスターはその場に力なく膝を着く。その様子からして今までで一番のダメージだったようだ。しかし、その直後――ユキもその場に倒れてしまった。その光景をこの目で見てもまだ何が起きたのか、わからなかった。

 そのまま言うとユキが何かの魔法を使って棒でギルドマスターを殴るとギルドマスターは大ダメージを受けたものの、ユキも大ダメージを受けたように見えた。と言うよりもユキの方がダメージを受けたように見えた。


「やはり……」


 ギルドマスターはそう言うとユキに対してヒールを放った。敵に対してヒールを放つ異常事態、会場全体が騒然とした。

 その事態を見て俺は控え室から飛び出した。そして決闘中に割り込むのはご法度というのも全く気にする事はなく、部舞台に上がり込むと俺も一緒にヒールを使用した。

 俺が部舞台に乱入したことによってざわめく観客。しかし、そんなことは関係ない。一心不乱にヒールをかけ続けた。

 決闘のルールは終わったらその被害全てが元通りになる、そういうものだと分かっていた。しかし、俺は何となくやらなくてはならない気がしたのだ。


「君が来てくれなかったらかなり危なかったよ。幾ら決闘と言えども自滅技の修復は出来ないからな」

「自滅技!?」


 ギルドマスターの言葉を聞いて俺は驚いた。まさかユキの使った技が自滅技だったなんて……。

 確かに以前に見た闇属性の魔導書にも確かに自滅技が多く記載されていた。しかし、今ユキがみせた技がそのひとつだったなんて……。

 俺とギルドマスターのヒールの甲斐もあってユキは目を覚ました。それを確認すると俺はユキを抱きしめた。


「ジャック……ごめんなさい。私の力ではこれが精一杯でした。自分の命を削ったとしてもギルドマスターを倒すことは出来ませんでした――」


 そう言って悔しそうな顔をするユキの頬を俺は平手打ちしていた。気が付いたら俺はユキを叩いていたのだ。だがそれは怒りから来るものではなかった。心配から俺はユキを叩いてしまったのだ。


「心配かけやがって……俺はユキがギルドマスターに勝とうが負けようが関係ない。お前が生きていればな。例え勝ったとしてもお前が生きていなかったら意味が無いじゃないか!」

「……ヒロト」


 俺はユキを抱きしめながら説教みたいなことを始めた。

 今回の事は本気で心配した。もしかしたら本当に死んでしまうかもしれないと直感した。

 もう二度と俺は仲間を失いたくないんだ。


「……ごめんなさい」

「ああ、もうこんな無茶はするなよ」

「分かった」


 しかし、とんでもない騒ぎになってしまったな。まさかユキが自滅技を使うとは思わなかった。

 ギルドマスターにも感謝だな。ギルドマスターがあの時咄嗟にヒールをかけてくれなかったらユキは死んでいたかもしれない。なのでギルドマスターには感謝してもしきれない。


「ギルドマスターさん、私の負けです」

「……いや、君の勝ちだ」


 ギルドマスターの返答は予想外のものだった。今の決闘は俺の乱入に加え、ユキの自滅技。それらのせいで今の決闘はユキの負けになった――そう思っていたのだが、ギルドマスターはユキの勝ちを宣言した。


「君は絶対に負ける訳にはいかないと思って自滅技を使ったのだろう?」

「はい、そうですね」


 そう言うとギルドマスターはまたニカッと笑った。


「確かに君のやり方は良くなかったかもしれない。だが、君はきっといい冒険者になれると信じているよ」

「つまり?」

「うむ、冒険者ユキよ。君は今日からDランク冒険者だ」


 その宣言によって会場は物凄く湧き上がった。これにてユキはDランク冒険者となったのだ。

 ユキは喜んで俺に抱きついてきた。そのユキを俺は優しく抱きしめる。それによってユキは助かったんだということを実感させることが出来て俺は涙が出てきた。

 もう、自滅なんてするなよ。


「しかし、ジャックとか言ったか?」

「はい?」

「君は不合格だ」

「「え?」」


 俺とユキの声が重なった。

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