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第215話 剣の達人4

 飯を食べ終わった後、再び闘技場で稽古を始めた。

 と、稽古をつけてもらう前にハバロンさんから説明が入った。どうやら今朝見せてくれた豪王英斬に関してらしい。


「風を越えるんだ」

「風を越える?」


 意味が分からなくて俺は聞き返してしまった。そんな俺にハバロンさんは丁寧に教えてくれた。


「風を越える。この技は風を断ち切る斬撃。故に風を越える必要があるのだ。君は我々が風の民って呼ばれていることは知っているか?」

「はい、以前にカラ――カイズさんに教えてもらいました」


 確かこの風の民ってカラタさんのスキル、風の民の由来にもなっていたはずだ。

 風の民は風を操るのが得意な民。故に風属性が多いんだとか。だからカラタさんもマイも風属性なんだろう。風属性魔法は彼らの右に出る者は居ないとすら言われている。


「俺は風を越える。その力が無いと剣士としてやっていくには厳しいとすら思っている。だからこれからお前に教えるのは風の民式剣術だ」


 風の民式……。

 だけどカラタさんの剣術はそういうのは関係なしだったと思う。つまりカラタさんは自分で剣術を編み出したのか。


「とりあえず素振りをしてもらおう。素振り100回だ」


 いきなり素振り100回か……。でもこれを越えなくてはならない。だから俺は必死に素振りをすることにした。

 素振りなんてしたことが無いため、ずっとやっていると腕がパンパンになってくる。今まで酷使したことの無い筋肉が酷使されているのがよくわかる。

 戦闘なんかでもずっと剣を振り回していることは無い。だから、これは俺にとってはかなり辛いものだった。

 でもこれはとても重要な事だ。一振一振、敵を想定して斬る。イメージトレーニングも兼ねてのことだ。

 すると素振り100回は1時間かかって漸く達成した。それに対してハバロンさんはとても満足気に頷いた。


「うむ、初めてやったというのに30分程度しかかけなかったら追い出していた」


 え、今の試されていたの?


「一振一振大切にだ。適当にやっていたのでは強くはなれん。絶対にな。だが、君はそのことをわかっていた。確かに決して速いタイムではないが、君のその姿勢はとても重要なものだ。大事にするといい」


 ハバロンさんが俺を褒めてくれた。俺はただ単にに自身の思った通りにやっただけなんだが、どうやらそれがハバロンさんにとってはとても良かったらしい。


「じゃあ、次の修行を始める。次はここに立て」


 素振りが終わって次に指定されたのは何やら白い線、チョークのように見える円の中に立てというのものだった。

 円の中心に経つとチョークの円の周囲から案山子人形のようなものが約八体程出てきた。その人形は少し不気味に笑っているような見た目のデザインだった。

 その案山子には赤い線が引かれており、人形一つ一つの線の向き、位置がバラバラになっていた。

 この状況に困惑しているとハバロンさんは説明を開始した。


「今からこの案山子人形を斬ってもらう。しかし、この案山子人形には赤い線が書いてあるのが見えるだろう? そこが案山子の弱点だ。そこ以外で斬ったら弾かれる。そういう仕組みだ」


 つまり、的確に弱点を見切って相手を倒せって事か。でもこれは止まっていたら簡単すぎないか? そう思っていたら急に案山子人形が右に左にと俺を中心にして複雑に回り始めた。なるほど、そういうことか。

 つまり、この回る案山子人形を的確に斬る。これがこの鍛錬の内容って訳か。


「それじゃあ、始めだ」


 始めの合図と同時に俺は剣を構えた。

 案山子をじっくりと観察する。なかなか速い動きなので弱点を掴むのはなかなか難しいが、目で追えないことも無い。だから後は体が着いていけばって感じだけどな。

 案山子の弱点は一体一体違う。視界の赤い線の位置が目まぐるしく変わる。


「そこだ!」


 まずは一体、そう思って剣を振ったのだが、なんと少し位置がズレていた為、斬れる事は無く逆に弾き飛ばされてしまった。

 これは想像以上に難しい鍛錬のようだ。少しでもズレれば斬ることは出来ない。

 でも今の一撃で掴むことが出来た。

 なので次の一撃、確実に外さずに案山子を斬り捨てる。これで一体目だ。残りは七対。

 そこでなんと少しだけ速くなったような気がした。もしかして一体斬る度に少し速くなるのか。

 だとしたら最後の一体になったらどれほど早いんだろう。


「うむ」


 ハバロンさんは横で腕を組みながらみている。何やら難しそうな表情をしていて、何かを考え込んでいるようだ。

 そのハバロンさんを横目に俺はどんどんと案山子を斬り捨てていき、後二体まで来ることに成功した。ここまでかかった時間はおよそ20分だ。

 その間に何度も弾かれたものの、その度に感覚を掴んで斬ってきた。

 しかし、今の速さはなかなかな物だ。もうそろそろ俺の動体視力も限界に近づいている。

 もう残り二体の赤線が被って見えるレベルになっている。かなりぼやけて見える。


「うむ」


 それにしてもハバロンさんはさっきから何を悩んでいるんだろうか。

 難しい顔で唸っている。時折、剣を見つめているし、なにか剣に関係するのか?

 そして俺は何とか残り二体の内、一体を斬って残り一体。しかし、タイミングを狙うのも難しいレベルになり、胴体の全てが赤く見えるくらいに速い。

 ここでミスったらかなりの勢いでぶっ飛ばされるのは確定だ。もう一度のミスも許されない。

 俺は目を閉じた。視覚があると頭がこんがらがってしまう。だから視覚を遮断したのだ。

 音を聞く。案山子は速すぎて風を切る音が聞こえるのだ。なのでその音で位置を特定する。目で追えなくとも風の音の位置は正直だ。

 後は赤線、でも赤線に関しては大丈夫だ。もう見えている。

 俺はここで気がついた。ここまで来ると赤線の位置を視覚から読み取るのは不可能だ。だけどもう一つ読みとる方法があった。

 それは魔力だ。赤線から若干の魔力を感じる。それによって赤線の位置、形がわかった。

 しかし、この魔力は集中しないと気が付かないレベルだ。だからさっきから視覚の情報に囚われて気が付かなかった。しかし、目を閉じ、余計な情報を遮断した結果――気がついた。赤線に含まれる若干の魔力に。


「ここ……いや、まだだ」


 真っ暗な世界で案山子の位置を正確に読みとっていく。そして――


「ここだ!!」


 俺は目を閉じたまま剣を振った。案山子に当たった感触だけが腕に伝わる。そのまま剣を線に沿って一瞬で動かす。

 すると、音が風が斬れる音しか聞こえなかった部屋にスパンと気味良く案山子が斬れる音が響いた。

 目を開けてみると最後の一体も斬れて、その斬れた案山子が目の前に落ちていた。


「終わった」


 最後はかなり神経を削った。これは体力的にでは無く、精神的に疲れる鍛錬だった。俺の動体視力は残り二体で限界だったから、このやり方じゃないといけなかったんだけどな。

 かかった時間は25分。最後の一体に5分も(つい)やしてしまった。

 そして俺が案山子を斬り終えたことを確認するとハバロンさんは近づいて来た。でもやはり難しい表情をしていた。

 そんなハバロンさんが次に俺にはなった言葉はと言うと――


「速すぎる。君は動体視力、思考回路の化け物だ」


 何故か化け物扱いされてしまった。

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