第214話 剣の達人3
帰る時も再びあのルートを通る。しかし、さっきと違うのは登りだってことだ。
登りは降りとは違ってかなりの労力が必要だ。普段ならアンチグラビティーで登っていくのだけど、ここは魔法無効化エリア。アンチグラビティーなんて代物は使えない。なので登りはかなりの時間がかかる。
ハバロンさんは圧倒的ジャンプ力で登って行ってしまったが、俺はアンチグラビティーが無いとジャンプ力に関しては一般人だ。いや、一般人よりも低いかもしれないな。
しかし、これを早く登らないといけないよな。
俺は必死に階段をクライミングして登っていく。しかし、この長さの階段をこうやって登っていくのはかなり時間がかかるな。どうにか一気に登れるようにならないと毎回こんなに時間がかかるんじゃ体が持たない。
そして俺が登ってきた時には一時間も経っていた。ハバロンさんは一瞬で登ったというのに俺はかなりの時間がかかってしまった。息も上がり、滝のような汗が出てきていた。
登るとそこにはサキとユキ、そしてマイが居た。
「お兄ちゃん、お疲れ様です」
「ジャック、ものすごい汗」
「これ、使ってくださいお兄さん。それとお水です」
みんな労ってくれてマイは俺にタオルと水を渡してくれた。なのでありがたく受けとってタオルで汗を拭き取って水を飲む。
マイの好意はありがたいのでお礼を言ってコップを返却した。
「これは洗って返すな」
日本には洗濯機ってものがあったけど、この世界ではそんな代物は無いので手洗いをするしか無かった。なのでアルケニアにいた頃から手洗いをしていたから慣れている。
だから手洗いをして返す。
「いいですよ。私たちで洗っておき……いえ、そのまま渡してくだされば結構です」
「いや、でも」
そしたらマイに無理矢理タオルを奪われてしまった。どうしてそこまでして俺からタオルをとったんだろう? そんなに大事なものだったんだろうか。でもそんなに大事なら俺に貸したりなんかしないか。
するとマイはタオルを大事そうに抱きしめた。その顔は少し嬉しそうに微笑んでいる様に見えた。
サキとユキはそんなマイを見て不機嫌そうな表情に変わった。
「まぁ、そこまで言うなら頼もうかな」
「任せてください! お兄さんのお世話をするのも妹である私の仕事です!」
「妹の座を取らないで!?」
サキは妹の座を取られそうで焦っていた。確かにマイも大事だが、サキも大事だ。どっちかだけって言うのはありえないから心配は無用なんだけどな。
でもサキは不安そうにしているので頭を撫でてあげた。
「あ、お兄ちゃん」
「はは、お前は変わらないな」
「ムッ、それはどういう事ですか?」
サキは俺の言葉にバカにされたと思ったのか、頬を膨らませてむくれた。俺はそんなサキを宥める様に撫で続ける。
するとサキは気持ちよさそうにえへえへと声を出し始めた。
本当にサキは昔から変わっていない。こうやって撫でてあげると嬉しそうな声を出したり、機嫌よくなったりとよく懐いてくれて可愛いものだ。
でもこの数年で変わっているかと思ったけど、今でも変わっていないようだな。
「お兄さん! 私にはしてくれないんですか?」
「えと」
「ジャック……」
「そんな目で見ないで!?」
二人の妹に囲まれていたらユキからの視線が痛くなった。ユキの視線がこんなに痛くなった事がないのでものすごく怖く感じる。
ユキの視線に恐怖して少しづつ後退りしていたそんな時、救済の声が聞こえてきた。
「あなた達、ご飯が出来たわよ」
どうやらスイはサチさんの料理の手伝いをしていたようだ。だからここには居なかったのだ。
でもこのタイミングは助かった。おかげでユキの視線から逃げることができる。普段怒らない人が怒ると怖いとよく言うようにユキの視線もかなり怖かったからな。
そして席に着く。今日の朝も結構豪勢なものが集まっていた。
「おはよう」
「おはようございます!」
サチさんが挨拶をしてきたので挨拶を交わす。
とっくの当に登ってきていたハバロンさんは優雅に茶を飲みながら新聞を読んでいた。あれが俺の目指さなきゃいけない人。
「いや、あそこまでは目指さなくていいと思いますよ」
俺の思考が読めたのか、それに対してツッコミを入れてくれた。でもあれを目指したいよな。
あそこまで行ったらどれほど強くなれるんだろうか。そしたら今までよりも強い敵から仲間を守れるようになる。考えただけでも嬉しくなってきた。だからあそこを目指して頑張ることにする。
それよりも今は朝飯だ。あの階段を朝一番で登り降りしたせいでめちゃくちゃ腹が減っている。
「これ、スイちゃんが作ってくれたのよ」
と言ってサチさんが指を指したのはチャーハンだった。この世界には中華料理って概念はないけどチャーハンはあるんだったな。
それにしても見事なチャーハンだった。俺よりも断然上手い。見ただけでパラパラしていて美味いって事が伝わってくる。
「スイって料理出来たんだな」
「失礼ね……でもそうね。私はこれくらいしか作れないのよね。いつもサキが作ってくれていたから」
なるほどな。俺もだいたい同じようなものだ。中華料理しか作れない。でもサキは喜んで食べるから俺はよく作ってあげていた。サキが喜んでいる姿が好きだからな。
「じゃあ、食べましょう」
そう言って全員で席に座って料理を食べ始めた。その間もユキの視線はそのままだったが……。




