第212話 剣の達人1
「――という事があったんだ」
「そのオーライって人は確かに許せませんね」
俺は今までの経緯をアルケニアで指名手配にされていることを除いてマイに話した。
するとマイもやはりオーライの話のところで腹が立ったらしい。これに腹が立たないやつは居ないって言うほどの内容だからな。更にこれは言わないけど、オーライに仲をめちゃくちゃにされた。これだけは絶対に許せない。今度会ったら絶対に殺す。
「その人が唯一ジャックさんが殺したい人物なんですか?」
「ああ、そうだ。こいつだけは許しておけない」
オーライへの恨みはまだまだあるけど今はこれくらいにしておこう。これ以上この話をしているとサチさんが今作ってくれている飯が不味くなってしまう。
と、丁度そこでサチさんが沢山の料理を持ってテーブルに運んできた。
さすが外国、俺が今まで見た事の無い料理も沢山ある。
「出来ましたよ」
「む? ご馳走だな」
「お客さんが居るので張り切っちゃいました」
てへっと舌を出すサチさん。普通なら少し痛いなと思うのだが、何せサチさんは若いと言うよりも幼く見えるのでなんの違和感もなかった。見た目年齢が低すぎるのが問題だ。
実年齢は何歳なんだろうか。マイは恐らくユユと同じくらいの年齢だろうしそんなに低くは無いはずだ。でもあの若さを保つってすごいな。
「お兄さん一緒に食べましょう?」
「ん? ああ」
「!? じゃあ、私も」
すると妹(仮)が抱きついてくると、負けじと妹も俺に抱きついてきた。左右から抱きつかれているので両腕が完全封鎖されてしまった。
その様子を見てスイとユキはため息をついた。
「ヒロト、あなたはたらしすぎよ」
「そうだよ! たらしすぎ!」
別にたらしてなんか居ないはずなんだが? しかもたらすなんてイケメンにしか出来ない特権だろ? 全然イケメンなんかじゃない俺がたらせる訳ないだろ。
しかし、この状況困ったな。ハバロンさん、表には出していないけど眉毛がぴくぴく動いていて不機嫌なのが丸分かりだ。そりゃ目の前で自分の娘が男に抱きついているのを見て面白いはずが無い。
対するサチさんは何やら微笑ましそうに笑っている。なんかこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「それじゃあ、ご飯にしましょうか。マイもジャックさんから離れて」
「ほら、さっきーも離れて……私に抱きつきなさい」
「お前も相変わらずだな」
俺からサキを引き離すともう飯を食おうと言ってるのにスイはサキに抱きついた。あれは多分治らないからそっとしておくのが一番いいだろう。
そして俺たちはいただきますと言ってからご馳走を食べ始める。どれもこれも美味しい。さすがは一家のお母さんと言ったところか。
俺が今まで食べたことの無い料理、ザム。これもとても美味しい。シチューみたいなものなんだが、ほんのり苦味がある。しかし、その苦みは嫌な苦味では決してなく、その苦みが余計に食欲をそそった。
スクの実のサラダなんかもあった。これはアルケニアで散々食べさせられて居たので味を知っているので、その味のつもりで食べたら違った。何かが足りないような、そんな物足りなさを感じる味だ。
そこで俺はカナタのことを思い出した。多分、カナタの調理方が完璧すぎたせいなんだろうな。今久しぶりに食べたスクの実よりも、何度も食べさせられて開き始めていた頃に作ってくれていたスクの実の方が美味しく感じた。
でもそれ以外ではカナタに勝ってるかもしれないと思うほどの美味さだ。
「そう言えばお兄さん、なんで私の家に来たんでしたっけ」
そうだった。色々あって忘れるところだった。俺がここに来た本来の理由は――
「ハバロンさん。食事中に言うのもあれなのですが、俺に剣術を教えてください」
「確かに食事中に言うことではないな」
ハバロンさんは呆れたような声で返してきた。まぁ、これまでのハバロンさんの反応を見てあんまり俺を良く思って無さそうだから剣術を教えてもらうのは絶望的だろう。
そう思っていたのだが、ハバロンさんの答えは俺の予想外のものだった。
「まぁ、剣術を教えるのは別にいい。君もクランのリーダーとしてうちの子を守って頂かなければならないから強くなってもらいたい。だが――」
「だが?」
「うちの娘に手を出したら許さねぇからな」
その時にハバロンさんから放たれたのは威圧ではなく明確な殺気だった。
その殺気はさすがに俺にも効いたので絶対にマイには手を出さないと心に決めた。そもそも手を出す気は無いけどな。
「当然出す気はありません」
「ならいい」
でもさすがにさっきマイが抱き着いていた男を信じきる事は出来ないみたいで食事中はずっと疑いの目を向けられ続けた。
しかしやっとこれで剣術を覚えられる。しかもカラタさんに剣術を教えたであろうその父、ハバロンさんに教えて貰える。
カラタさんがあの強さだったんだ。ハバロンさんも相当なものだろう。全力で修行して今度こそは完璧に守りきってみせる。
もう二度と離れ離れにならないように。カラタさんやハルト、パイプ達と比べて恥ずかしくないように。




