第210話 『HOPE』10
俺がカラタさんの居場所、つまり墓の下に居ると伝えるとハバロンさんとサチさんはやはりという顔をしたあと少し悲しげな顔をした。マイは石のように表情が固まってしまってさっきまでの嬉しそうな表情はどこかへ消えていってしまった。
それもそのはずだ。何せマイにとっては大切な兄、その兄とまた会えるかもしれないと思っていたのに死を告げられたのだから。
「俺のせいです。俺の力が及ばなかったせいでカイズさんを死なせてしまったのです」
「いや、おそらく君のせいではないだろう。カイズが弱かったせいだ。気にするでない」
ハバロンさんは自分の息子が俺のせいで死んだと告げられたのだが、一切怒ることはなく寧ろ俺のせいではないと言ってくれた。見た目は怖いけど優しい人のようだ。
でもカイズさんは俺にとってはとても強いひとだった。だから今はカイズさんに憧れているところがある。
「カイズは元々ここで剣の鍛錬をしながらここを継ぐ準備を進めていたんだが、あんな二人前の力で出ていくからそんなことになるんだ」
「一つ訂正させてください。カイズさんはとても強い方です。決して二人前なんかではありませんでした」
あのカラタさんが弱いと言われることがどうしても許せなかったのだ。俺にとってはあの人以上に色々な意味で強いひとは見た事が無い。そのレベルであの人は強いひとだったと思っている。
「うそ……嘘だよね。お兄ちゃんが死んだなんて、嘘ですよね!」
マイが縋るように俺に掴みかかって聞いてきた。その様子がどうにも痛々しすぎて俺は何も言えなくなってしまった。俺が可哀想だと思っても意味ないと思うけど、とても可哀想だと思った。多分、俺がサキを失った時も同じ感じになっていたんだろう。そしてまだ立ち直れていないうちにこっちに召喚された。
そんな俺を立ち直らせてくれたのは本人は自覚は無いかもしれないけどカナタだろう。カナタが居なかったら俺は今どうなっていたかどうか……。
でも俺は今は鬼にならなくてはならないだろう。俺はマイに対して首を横に振った。
するとマイの目から涙が零れ落ちた。ダントから何をされても弱音を吐かず、涙も流さなかったマイが泣いた。
「……っ!」
「マイ!」
マイはサチさんの声も聞かずに走って飛び出して行ってしまった。その後ろ姿を見て俺は止めることが出来なかった。何せ俺が原因なのだ。カラタさんが死んだ理由も、マイを悲しませたのも全て俺が悪いんだ。
そんな俺は今更どんな顔をして止めれば良いんだよ。
「ジャック君、カイズは確かに君の言う通り強かったのは確かだ。しかし、あいつは一人で抱え込んでしまう癖がある。悪い癖だな」
ハバロンさんはカラタさんの事を語り出した。どうしてここでなのかは分からないけど俺はその話を静かに聞くことにした。
「あいつが誰かの為に戦うって事は珍しい。つまり君はカイズの奴に気にいられたってことだ」
「と、言いますと?」
「君はカイズに託されたのだ。マイの事をな」
「マイのことを?」
カラタさんは一言もそんな事は言ってこなかった。
でもこの言葉には重みがあったので信じてみることにする。でもなんで出会って間もない俺を信用したんだろうか。
「あいつは人の為に頑張る人を好く性格だった。だからあいつは君のそんな姿に好かれたのではないか?」
人の為にか……確かにこっちに来てから俺は人の為に動いてばかりのような気がする。でもだいそれたことは何もしていない。みんなが頑張った結果、今があるんだ。それなのに俺だけが人の為に頑張っているというのはおこがましすぎるだろう。
「カイズの見込んだ男を俺達も信用してみよう。マイの事を頼んでもいいか?」
今更どんな顔をして合えばいいのか全く分からない。だけど、あの姿を見てどうにかしてあげたいとそう思ったのだ。だから俺はすぐにこう答えた。
「任せてください。マイの事は俺が何とかしてみせます」
全く根拠は何もなかった。俺が行ったところで更に悪化させてしまうかもしれない。そう思ったけどこう答えずには居られなかった。まるで以前の俺を見ているみたいだったからだ。
放っておけなかった。だから俺は答えてからすぐに立ち上がった。今すぐにでもマイのもとに向かいたかったからだ。
「ハバロンさん、サチさん。すみませんがこれで失礼します」
それだけ言って俺は走り出した。
マイがどこに行ったかは検討も付かない。だけど俺は走らずには居られなかったのだ。
サキ、スイ、ユキが途中で見えたが俺は構わず走り続ける。
敵意の無いマイが索敵に引っかかるはずが無い。だから手当たり次第に走り続けるしかないのだが。俺はここら辺の土地勘は全く無い。だから見つけられる可能性は低いだろう。
だけど俺は無我夢中で走った。
するといつの間にか俺は丘に来ていた。
そこは崖になっていて、崖から飛び降りたら海に真っ逆さま。命は無いだろう。
そんな所に彼女は居た。
マイだ。そんなマイは崖に向かってゆっくりと歩いている。あの精神状態はまずい、このままだったら本当に飛び降りかねない。
「マイ!」
俺は大声で声をかけた。するとマイはビクッと体を震わせてこちらを見た。その顔は驚きに染ったような表情になっていた。
「なんで」
「マイ、はぁはぁ……お前は俺の仲間だ。当然だろう」
「仲間ですか? でも私はもう生きる希望が無くなってしまいました。私が戦う理由はお兄ちゃんに会うためだったんです。ですけどもうどうでもよくなってしまって……」
これはやばいな、かなり自暴自棄になっている。この状態だったら本当に飛び降りかねない。何とかしないと……。
そう思いながら俺は一歩踏み出した。
「これ以上来ないでください。決心が揺らぎそうです。ジャックさんはいい人です。決してお兄ちゃんが死んだことはジャックさんのせいだとは思ってませんので安心してください」
「いや、それは良いんだよ。寧ろ俺のせいだと思ってくれていた方が気が楽だ。だけど死ぬって考えは否定する。死んじゃダメだ」
「いえ、それでも私は死のうと思います。私が死んでも誰も悲しむことは――」
「それは違う!」
「え?」
俺の否定に対してマイは驚いた表情になった。俺は自身をそんなふうに言うのは許せなかったのだ。どんどんと近づきながら言う。
「マイは少なくとも俺たちにとっては大切で必要な存在だ」
「こ、来ないでください」
俺のものすごい剣幕のせいでマイはどんどんと後ずさっていく。俺の必死の説得が逆に怖がらせてしまっているようだ。
その時だった。マイの立っていた地面が崩れ落ちてしまってマイが真っ逆さまに落ちて行ってしまった。
それを見て俺はブーストで駆けだした。剣幕でスピードで走り、マイのもとへと飛び降りた。
「ジャックさん!?」
「絶対に死なせない、来い! 『フックアンドショット』」
フックアンドショットでマイを引き寄せると俺はマイを抱きしめた。その状態で以前にルーダンでやったようにアンチグラビティーで落下の勢いを殺す。
マイは目を瞑って俺に強い力で抱きついてきている。そんなマイを安心させるために頭を撫でる。
どんな事があっても俺は絶対にマイを死なせたりなんかしない。その一心で俺は動いていた。
その甲斐もあって無事に静かに下に降り立つ事ができた。真横は波が荒い海、一歩でも間違えれば落ちてその荒い波に飲み込まれそうだ。
「なんで、なんで助けてくれたんですか? こんな私を」
「こんなってのを辞めてくれないか? 俺にとってはマイはこんなでは無いからな」
「でも」
「でもじゃ無い」
「ひぅっ!」
俺はマイの肩を掴んだ。そこから俺は必死になって言葉を紡いだ。
「カイズさんが君にとってどれ程の存在だったのかは分かる。だって俺にも妹が居るからな。君の気持ちは痛いほどわかる。でも俺だって兄なんだ。カイズさんが最後に何を思って死んで行ったのかが俺には分かる」
「それは?」
「マイの幸せを願って死んで行ったんだよ。そんな兄の願いを叶えてやってくれよ。なんで俺は最期に俺達に伝えるように頼んだのかが分かった。君が自分の死に気がついた時、心の支えになってやれるようにだ」
カラタさんはマイには死んで欲しくないはずだ。たとえ天国で会えるとしてもそれはカラタさんも望んでいないはずだ。
「あなた達じゃお兄ちゃんの代わりなんて……」
「ああ、だけど助ける事は出来る。辛い時に言葉をかけてやる事が出来る」
なんでここまでするのか、それは多分自身とマイを重ねているからこそこんなに必死になっているのだ。
「ジャックさん……ジャックさん!!」
マイは俺に抱きついて俺の胸で泣き始めた。
そんなマイを見て俺はそっと頭を撫でてあげる。気持ちが痛いほどわかるからこそこんな風になってしまうんだろうな。俺も随分と甘くなったものだ。
「とりあえず帰ろうか」
「はい……」
それから俺とマイはゆっくりと歩き出した。歩いている間も俺に抱きついて泣いていた。




