第209話 『HOPE』9
「それなら良かったです」
安堵の表情を浮かべるマイ。それに対して少し不満そうなスイ。スイも真剣に怒っていてすぐにでもボコボコにしたいのだろうが、今の俺たちだと逆に俺たちがボロ雑巾のようになってしまうのが関の山だ。
だから今は準備をして万全の体制でクラン戦に挑む。これしか無い。スイの気持ちもわかるが今は我慢してもらおう。
「ところでマイ」
「なんですか?」
「凄腕の剣士とか知らないか?」
剣術を学びたい。そう思って凄腕の剣士を聞いた。
カラタさんが生きていたらカラタさんに教えてもらいたかった。しかしもうカラタさんはこの世には居ないのだ。
剣を使って戦う上で剣術がないと厳しい。ユキの為にも剣術は上達しないといけない。
「剣士ですか……一人居ますよ」
「本当か!?」
「じゃ、ジャックさん近いです」
どうやら俺は興奮して近づきすぎていたようだ。反省だな。
「えと、私のお父さんが剣士でして、田舎で小さく道場をやっているんですよ」
道場か。懐かしいな、カラタさんも道場を開いてパイプって弟子を取っていたっけな。
今はあの場所はアライスタ道場となってパイプがカラタさんの後を継いでいたっけな。
「そうか、少し案内してもらっていいか?」
「いいですけど……はぁ、『ブレンド』やめたことをどう説明しましょうか」
「その後、俺たちの『HOPE』に入ったからいいじゃないか」
「「ほーぷ?」」
そういえば『HOPE』のことはスイとサキには説明していなかったっけか。そのせいでスイとサキは意味がわからないと言った表情をしている。
「実はクランを作ったんだ。名前は『HOPE』」
「えぇぇぇぇぇっ!?」「なるほどね」
サキはものすごく驚いた反応をしているがスイは相変わらず素っ気ない。吸いにはどんなドッキリでも通じない気がする。あと、あまりにも反応が薄すぎて絵にならない。
「クランねぇ……ってことはそこで?」
「まぁ、そうなるな」
さすがは察しがいいスイだ。俺の言った言葉で俺の意図を察してくれる。多分この力はカウンセラーとかに向いているよ。相手の考えていることを察するのは重要な事だと思う。
多分スイと居て居心地が良い理由はここだろう。
「クラン戦ですか……」
「俺らは個々の力はそこまでだけど、チームとなったら多分強いから安心ててもいいと思う」
「そうね、って言うかあなたは単体でも強いものね」
うそ……だろ? あのスイが俺のことを褒めただと? もしかして明日槍でも降るのか?
スイが俺を褒めるなんてそうそう無い。だから少しびっくりしてしまった。
でも俺が単体で強い理由はユキであったり俺の中のあいつであったりして純粋な俺の力じゃないんだよな。俺だけで強敵に勝ったことなんて一度も無い。いつも俺の周りには仲間が居たからな。
「ジャックさんってそんなに強いんですか?」
「まぁ、私たちの中で最強だからね。多分、単体で言ったらあの『SWORD』のメンバーにも負けず劣らずだと思うよ」
「それは言い過ぎだ」
最強クランのメンバーと戦えるくらいの力なんてあるはずが無い。精々スキルで対抗はするがユーザに少し教えてもらった程度、本当に強くなるにはやっぱり剣技を鍛える必要があるな。
「まぁ、そういうわけで案内を頼む」
「分かりました」
☆☆☆☆☆
「ここがお父さんの道場です」
案内されたその建物は見るからに普通の一軒家だ。日本の住宅街にあっても違和感の無い外見に逆に違和感を覚えてしまう。
でも確かに道場のようだ。表札となるであろう位置にクラタガ道場と表記されていた。……ん? クラタガ?
確かアルケニアにもクラタガ道場ってあったような。……そうだ、アライスタ道場になる前の道場、それがクラタガ道場だ。
「なぁ、マイ」
「なんですか?」
「カイズ・クラタガって知ってるか?」
「え、お兄ちゃんを知ってるんですか!?」
やっぱりそうだ。この子の名前はマイ・クラタガ。よく考えてみればカラタさんと同じファミリーネームだ。なんで今の今まで気が付かなかったんだろうか。
居たんだすぐ側に。カラタさんが最後に頼んできた妹、マイはここに居たんだ。
「お兄ちゃんのことを知っているなら教えてください! お兄ちゃん、急に出ていってしまって行方不明なんです!」
あの人、バスタガでは行方不明扱いをされていたのか。なんで何も言わずに出ていったんだろう。
でもこれからマイに言うことはとても残酷な運命だ。これはとても軽く言えるものじゃ無い。親御さんにも聞いてもらった方がいいな。
「その事については親御さんと共に話すよ」
「分かりました」
マイはそう言うとものすごい勢いで家の中に入って行き、中から「ただいま」という元気な声が聞こえてきた。
その直後、マイが戻ってきて俺の腕を引っ張って家の中に連行していく。マイが俺の腕に抱きついているような状態なので、ほんのりと膨らんでるものが腕に当たっている。少し役得かもしれない。
家に入ると厳格そうな男性と優しそうな女性がテーブルの向こう側に座っていた。
俺はマイにその反対側に座るように促されて正座して座る。とてもじゃないが足を崩せる雰囲気じゃなかった。
「俺はハバロン・クラタガ、この道場の師範を務めている。こっちが妻の」
「サチです」
「あ、どうも。俺はジャック・ステイリーです」
自己紹介をしたのは俺だけだった。ユキ、サキ、スイはこの雰囲気に怖気付いて玄関から一向にこちらに来る気配が無い。薄情者たちの集まりか!
「お父さん、お母さん。この人はお兄ちゃんを知っているみたいなんです!」
嬉しそうな声色でハバロンさんとサチさんに話すマイ。そんなマイを見て心が痛んでくる。何せ今からする話はとてもじゃないが喜べるような話じゃ無い。
行方不明者が見つかっただとかのハッピーな話では無いのだ。
「誠か?」
「はい、僕はカラタさん……カイズ・クラタガさんのことを知っています。今どこにいるのかも」
「ふむ」
ハバロンさんは厳しそうな表情をした。どうやら普段ポーカーフェイスだと言われる俺の表情から何かを感じとったようだ。
それはサチさんも同じようで暗い表情に変わる。さすが俺たちよりも長く生きているだけあって察知能力は高いようだ。
御家族の皆さんに言うのは辛いが言わないといけないだろう。
「カイズ・クラタガさん、彼は今アルケニア王国の墓場、その墓の下に居ます」




