第16話 属性相性
「逃げましたね?」
「逃げてな──」
「二 ゲ マ シ タ ネ ?」
「……はい」
怖い! カナタさんが非常に怖い!
なんでこんな目の光を無くして迫ってきてんの?
「私のスクの実談を聞かない人は……。お仕置きですね」
俺に手を向けるカナタ。
「ちょっと待ってくれ」
俺は両手でカナタに静止するよう意志を伝える。
そしてカナタは目に光が無い状態で「何?」と今までで一番低い声で言ってきた。
「俺は逃げたわけじゃないんだ。さっきはいって言ったけど嘘なんだよ!」
本当だ。俺は逃げたわけじゃない。抜け出しただけだ。
「へぇー。それで?」
こいつの機嫌を一瞬で治す方法は無いのか? いや、あるはずだ。普段使わない頭をフルに使って考えろ。
そしてたどり着いた答えが……。
「お前の話を聞いていたらスクの実が食いたくなってきてな……。ほら買ってきたんだ」
そう言って俺は籠に入ったスクの実を見せる。
実はあの後、バンフーさんが受けてくれたお礼にと土産でスクの実をくれたんだ。最初は要らないって言ったけど、結果的に貰っておいて良かった。
しかしカナタは俺を訝しげに見てくる──ダメかぁ……。
自分でも変な事を言っているとわかっている。自分でも怪しいと思っている。
しかしカナタならと言う思いを込めて言い放った。
すると急にカナタは物凄い笑顔になって「それならしょうが無いですね」と言った。
俺もこうなることを期待してはいた。だが、いざ思った通りにこうなると驚いてしまう。カナタが物凄くスクの実の事が好きなのは知っていたが、怒っているカナタを和ませるほどの威力とは──恐るべしスクの実。本気でスクの実教入ろうかな? スクの実教には本当に神が居る気がしてならない。俺をこの世界に送った似非神様とは違って。
「でも珍しいですね。あなたなら面倒くさがって行かなさそうなのに」
俺はテーブルにスクの実を置こうとしたところでそんな言葉を聞いてピタッと止まった。まさか買ってきたのが嘘だってバレたか?
「でもスクの実の為だと言うならその理由も分かります」
良かった。こいつが馬鹿で……。俺がどんなにその食べ物のことが好きだとしても絶対に自分では買いに行かない。
って言うか俺の面倒臭がりなこの性格がそんな理由で解決してしまうなんてスクの実好きすぎだろ。ちょっと引くわ!
「そうだ。お昼に一緒に食べるつもりだったんですが、こんな時間になってしまったので夕食に食べましょう」
そう言ってカナタが取り出したのはカレーだった。というかこの世界にもカレーってあったんだな。
何故カナタが俺にカレーを持ってきたかと言うと礼らしい。律儀なやつだよな。それで結構な頻度で飯を持ってきてくれる。
そしてカレーの入った容器にカナタが手を翳すと詠唱を始めた。すると手のひらから魔法陣が──
「って何しようとして!」
「何って温めようと……」
「え? 魔法で温められるの?」
「はい! 見ててください。ホット」
しかし目では何も起こっていないように見えた。
しかし容器の蓋の隙間から湯気が出てきているのが見えた為、中のカレーが温まってきているんだということが分かった。
そして温めること五分。ついに温まった。
「ふぅ……疲れました。やっぱりなれない属性魔法は使うものではありませんね」
と言って肩を回すカナタ。
「属性?」
「はい。魔法には属性という物が存在します。属性の種類は七つ。火木土風水そして光と闇です。そして属性には相性というものがあります。相性とは正面から違う属性の魔法同士がぶつかり合ったらどっちの方が勝ちやすいか……という事ですね。火は木に強く水に弱い。木は土に強く火に弱い。土は風に強く木に弱い。風は水に強く土に弱い。水は火に強く風に弱い。これで五つ。光と闇はお互いにお互いが有利なんです。なので先に放った方が勝ちます。この光と闇は独自の進化を遂げた属性で他の五つとは少し違って特殊なんです」
そうか。魔法でお決まりの設定。属性か。
有利不利があるからそれも考慮して魔法を駆使して戦う訳か……。
「そして得意じゃなくても光と闇以外の属性魔法は誰でも使えます。しかし得意な属性とは違って二倍の魔力を消費します。苦手なら三倍です」
なるほど……。なら得意属性で戦った方が戦いを有利に進められるってことか……。
「因みに私は風属性です。しかし今使ったホットは火属性なので疲れました」
そこまでして俺と暖かいカレーを食いたいのか。いざと言う時どうすんだよ。
「そう言えば俺が無意識に使ってたブースト? とか言うのはどうなんだ?」
「あれは風ですね。ですがその魔法は風が得意な人でも使ったらものすごい勢いで魔力が無くなります。なので得意じゃない人や苦手な人が使ったらそれはもう恐ろしいことに……。ちなみにヒロの減り方は得意な人のそれじゃ無かったので風ではないと思います。そして苦手という訳でも無さそうだったので水でも無いと思います。魔力があるってことは属性があるのは確かですが……」
そうか。じゃあ俺も将来、自分の属性で魔法を放てる日が来るかもしれないってことか。
話している間にカレーを盛り付けたカナタは俺の前にカレーの入った皿が置かれる。
そしてカナタの料理の特徴といえば……。
「………………これまた美味しそうなスクの実カレーだな」
皮肉を込めて言う。
言わせてもらおう。カナタの料理は決して不味い訳では無いし、寧ろ美味いほうだと俺は思っている。
だが、カナタの料理には必ずと言っていいほどスクの実が入っている。それも大量に……。正直、スクの実は食い飽きた……。
そう言いながらも腹減ってるから食うんだけどな。
そして俺とカナタは声を合わせて「いただきます」と言った後、スクの実カレーを口の中に運ぶ。
ん? これは!
食い飽きたと思っていたはずなのに入る。入る。入る! 入るぞこのカレー。食い飽きていてあんまり食えないかと思ったが食えるなんてもんじゃ無い。このスプーンを握った右手が勝手に動いて俺の口にこのカレーを運んできているような感じだ。
具材はスクの実だけと言うカナタらしいカレーなんだが、何故かいままで食ってきたどんなカレーよりも美味く感じる。
まず感じるカレーのスパイス。そこにクリーミーでほんのりと甘いスクの実がカレーの辛さをマイルドにしている。
そしてこのスクの実のコリコリとした食感も楽しい。
具はスクの実だけのカレーだと言うのに──止まらない。カレーを掻き込む俺の右腕がカレーを口に持ってくるのをやめようとしない。もはや俺の右腕は俺には制御不可能だった。
「慌てないでください。多めに作ってきたのでまだありますから」
優しい声で言うカナタ。
そんなこと言われたらもう。
「おかわり!」
おかわりせずには居られなくなるだろ。
そしておかわりしたカレーも制御不能な右腕がカレーを掻き込み、直ぐにカレーを全て食ってしまった。こんなに食ったのは久しぶりだった。
こんな美味いカレーを食ったこと無かった俺はカナタに聞いてみたら独自の調合でやっと見つけた味だとか。カナタの得意料理がまさかカレーだったとは驚きだ。




