第116話 幻の街と死闘35
カラタさんの放った威圧、それは物凄くて周りの物を全て破壊してしまった。ここの部屋には俺達以外は何もにない状態に。
しかし、オーライはそれでも怯まない。俺と同じく威圧体勢が高いのか、それともカラタさん程の人の威圧が全く通用していないのか……。
「まさかあれで生きているとは思わなかったぞ」
「あれくらいで死んでたら精鋭部隊は名乗れねぇよ」
カラタさんは剣を構え、そしてじっとオーライを見据える。
オーライは白衣の胸ポケットから魂の代弁石を取り出して、一瞬見てからカラタさんの方へと視線を動かす。
「なるほど生きてるからこれが発動しなかったんだな」
「魂の代弁石は死んでる人にしか効果がないからな。お前、一回俺に使おうとして失敗してただろ」
カラタさんはずっと威圧しながら話し、オーライはヘラヘラと何もされていないかのような態度で話し続ける。
そんな二人のやり取りは命のやり取りでもあった。少しでも失敗すればすぐに殺される。先に手を出そうとした方の負け、つまり我慢比べだった。
しかし、俺は見逃さなかった。カラタさんの胸からは赤い液体が滴って来ているのを……。
それはオーライも分かっているだろう。そして、このままずっとどちらも動かなかったら先に死ぬのはカラタさんだ。
そもそも、カラタさんが歩いた跡には赤が有るし、服もかなり染まって来ている。普通ならばこんなに血を出したらフラフラして戦うどころか会話さえ危ういだろう。
「どうしたカイズ……? かなり息が切れているようだが」
余裕の表情のオーライ。そりゃそうだ。なんたって幾ら強いカラタさんでもこんなに弱っていたらオーライに勝つのは厳しいんだから。
「なぁサキちゃん」
「なんですか?」
俺は気づかれないように小声でサキちゃんに話しかけた。
「俺はオーライの気を引くからその隙にバレないようにカラタさんの治癒を頼めるか?」
「分かりました」
出来るならなるべく長く余裕でいてもらいたい。そうすれば相手がミスをしてくれる事も増えるだろう。そうなったらこっちとしては万々歳だ。
だからなるべくバレたくない。
しかしこの状態でいきなり俺が突撃しても怪しまれるだけだろう。
ここはカラタさんの弟子として広く知られているパイプが先陣を切る事が一番自然な流れだろう。
「パイプ。師匠を助けるって体で先陣を切ってくれ。俺も後に続く。俺とパイプがオーライを引き付けたらその間にサキちゃんがカラタさんを回復させてくれる」
「まぁ、それはいいっすけど……ヒロト。そう簡単に何度も作戦が完璧に通るとは考えない方がいいっすよ。特に、複雑な作戦なら……ね?」
それだけ言うとパイプは腰に下げていた鞘から剣を抜いてオーライに向ける。
パイプの言葉は分かっているつもりだ。勿論毎回上手くいくとは思ってない。作戦を使って戦ったのにドラゴン状態のルルには一切手も足も出なかったのだから。
「師匠! 助太刀するっす!」
「パイプ!?」
パイプはカラタさんよりも先にオーライに突っ込み、剣で斬りつける。しかしそれはオーライが後ろに飛んだことによって呆気なく回避される。
今度は俺の番だ。ブーストで駆け出し、ジャンプ中のオーライを蹴り飛ば――せなかった。
オーライの白衣が全ての衝撃を吸収してしまったのだ。
「何かしようとしたかね? ん?」
蹴り飛ばせなかった俺はカウンターを受けそうになる。その時だった。
オーライの背後の壁が急に盛り上がってオーライを突き飛ばしたのだ。
「ったくよぉ。スキルを使わせんじゃねぇ。これ、効果時間が少ない上に体の負担がでけぇんだよ」
これはハルトのスキルだ。
多分オーライ本体に直接魔眼を使うことは出来ないから壁に圧力をかけたのだろう。
しかしかなり辛そうだ。苦痛は表に出していないが、声がかなり辛そうだ。
だけどナイス押し出しだ。その先には静かに佇む脅威がある。俺とハルトにしか見えてないからそのまま当たるはず。
――そう思ったのだが、なんとオーライは見えているかのような動きで白衣で全身を覆い、防御した。
オーライの白衣は攻撃を無効化する。だからその静かに佇む脅威は一瞬で消し去られてしまった。
「やっぱりダメか」
「やっぱりって?」
「オーライはその職業柄からか、暗記だけは得意なんだ。だからこいつ、最初の数秒間で丸暗記しやがった」
たったの数秒でこの数を暗記したとでも言うのか!? 平面だとしてもきついのに平面じゃないんだぞ!? この空間のあちこちに設置されているんだぞ!?
当たったらパイプでも無い限り、かなりの痛手を負うことは必至。だと言うのにオーライは暗記をするって言う手に出た。
「なんて奴だよ……」
力だけでなく脳の出来まで化け物だった。
だけどお陰でカラタさんを逃がすことに成功した。後は回復してもらうだけなんだ……が!?
今、俺はものすごい衝撃を受けた。
俺達の前にはオーライが居る。静かに佇む脅威を回避したオーライが佇んでいる。
じゃあ、あれはなんだ!? サキちゃんに手刀をして気絶させているあのオーライは。




