第115話 幻の街と死闘34
オーライは浮遊しながら俺の方へ物凄い勢いで近づいて来た。
近くまで来ると足を突き出し、蹴りの体制に入る。それを俺は剣を横にして受け止める。少し勢いが強くて背後に押されたものの、何とか踏ん張って押し返す。
踏ん張るって言っても足元は氷だ。なので押し返す力は出せたものの、足はあまり踏ん張りが効かなくて少しだけ背後に滑る。
しかし、あいつのスキルが浮遊だなんて……。これじゃあ、さっき用意した物の意味が全く意味を成さない。
氷のフィールドに炎の壁。そのどちらも地上に居る時に最大の効果を示す。しかし、今のオーライは空中に居る。
この場合、どうすりゃいいかな?
アンチグラビティやフックアンドショットを使えれば引き寄せることが出来るんだが、オーライにはそれらは効かない。
風? いや、そんな物で引き寄せられるとは思えない。水で叩き落とす? いや、空中に居る生物には水の塊なんて全く意味を成さない。
それじゃあ……。そうだ!
「弓矢。弓矢なら空中にいる敵にでもダメージを与えられる……。サキちゃん! 弓矢だ。弓矢で援護射撃をして!」
「わ、分かりました!」
サキちゃんは弓矢を構える。
多分それにはオーライも気が付いただろうが、まるで無視の様だ。お前如きの実力じゃあ俺を倒せないとでも言っているようだ。
だが、俺は知っている。サキちゃんの実力を、
それを見て俺は俺で行動を開始する。
「来い! 『フックアンドショット』!」
今のは勿論オーライに放った訳では無い。その周りの器具にだ。
オーライを挟んだ対角線上に引っ張れそうな物があったらそれを引き寄せる。だけどメインは下にある器具達だ。
これが直接攻撃に繋がるわけじゃない。だけどこれは攻撃の為の準備だ。
偶にオーライを挟んだ対角線上にある物を引き寄せるとオーライに向かって物が飛んでいく。
その度にオーライは蹴り飛ばして飛んで来たものを破壊する。だけど別に当てるつもりでやっている訳では無い。飛んできて破壊するその一瞬、隙が生まれる。それが大事なのだ。
幾ら当てるのが上手いとは言え、隙を作らないと飛んで動いてる敵に当てるのは難しいだろう。その為の行為だ。
そして次々に機材を引き寄せている内に、まだ足りない事に気が付いた。
これは別に機材じゃなくてもいいのだ。ただ、固形物ならばそれでいい。だけどもこれで引き寄せられそうな小さい物は引き寄せ終えてしまった。
……そういえばルルって全属性が使えたっけか。
「ルル、この場に何が何でもいいから固形物……えーっと10センチ角位の物を作り出す事って出来るか? 出来れば後十個位の欲しいんだが」
「うーん……土団子でいいなら」
「よし、それで頼む!」
「分かったよ!」
ルルはそう言うと次々と手のひらに土で出来た球体を作り出し、どんどんと俺が引き寄せたガラクタの山の上に投げていく。
ちょうどいい感じだ。
俺は今、ガラクタの山を作っていた。それは何故か? まぁ、引き寄せによる隙作りと似たような物だ。
これで足りるはずだ。
「何をしようとしてる!」
「さぁーって、なんだろな! 重力の奇跡『アンチグラビティ』!」
俺はガラクタの山の中心にアンチグラビティを発動。するとアンチグラビティを受けたガラクタ達は四方八方に飛んでいく。
俺達の周りにはアンチグラビティのバリアを設置。こっちには飛んで来ず、最大出力にしたので跳ね返って更に者同士がぶつかり合い、乱反射している。
そして空中に居るオーライだが、ガラクタ達が爆発するように物凄い勢いで四方八方に飛んだことで対処が間に合わず、幾らかダメージを受けている。
流石にこれを全て対処するのはオーライにとっても辛いことだろう。どんどんと体力を消耗させ、そこを一気に叩く。
「サキちゃん。この乱反射が終わったその瞬間を狙ってオーライを射ってくれ」
「はい!」
元気のいい返事だ。これなら安心だろう。
「ねぇ、私だけ何も役目が無いんだけど……?」
そう言えばカナタ、ユユ、ルル、サキちゃん、パイプには指示したけどスイちゃんには何も指示していなかったな。
それじゃあ、一番良さげな動き方は……。そうだ、攻撃要因だ。
スイちゃんは水斬、パイプは剣技。この二人も一緒に攻撃してくれたらかなり心強い。
「それじゃあ、スイちゃんは水斬で援護!」
「パイプは俺と一緒に剣で戦ってくれ!」
「分かった!」
「おう」
さて、準備は整った。あと少しで乱反射も終了するはず。その瞬間が勝負だ。
見極めろ。どのタイミングで攻めたら良いのか。
オーライを見るとだいぶ疲れた様で結構最初の頃から比べたらだいぶ動きの機敏さが無くなってきている。目で追える!
そこで俺はカウントを開始した。
「5……4……3……2……1……。スタート!」
その合図と共に俺はバリア用に張っていたアンチグラビティを解き、自分自身に強いアンチグラビティを使用してオーライに向かって飛び、オーライを斬りつける。
オーライは疲労からか一瞬反応に遅れて無理な体制で俺の剣を受け止めた。
その一瞬をサキちゃんは見逃さなかった。サキちゃんはオーライ向けて弓矢を射った。
それを見て俺はオーライから離れる。
食らいやがれオーライ。
「まさかたいした力も無いと言うのに戦略だけでこの俺がここまで追い詰められるなんてな。サキガヤ・ヒロト、君は総帥のセンスあるよ。だけどね、こんなのが通じるのは三流までだよ。結局は実力の世界なんだよ」
そこまで言うとオーライは左手で飛んで来たサキちゃんの矢をキャッチし、バキッと半分に折った。
すると何故かオーライは地上に降りてきて掌を氷の床につけた。
何故かは分からないがとても嫌な予感がした。
「てめぇら! 全速力でヒロトから離れやがれ!」
ハルトの声。何事かとそちらを見るとかなり焦った様子でそこに立っていた。
何があったか知らないが、俺は戸惑っている皆を俺から離れるようにアンチグラビティで突き飛ばした。これでいいんだろハルト。
すると急に体が熱くなり、激痛が走った。
体を見てみると紫のオーラが俺を包んでいるのが分かった。
「邪悪の『闇の殺戮』」
なんだよ。この魔法は……。いや、これは魔術か!? 魔力とは違う何かを感じる。
「その技は中から体をぶっ壊していく魔術。最初は精神から破壊し、どんどんとその闇は体を蝕んでいく。更に面白い所が、他人にも感染するって言う点だ」
なるほど、ハルトはこれを知っていて離れろって言ったんだな。でも良かった、俺以外に被害が出なさそうで。
俺はもう既に意識が朦朧としていた。確かに体を蝕んでいる。もう立っているだけで精一杯だった。
「だが、それで死んでもここでだってゾンビになれないってのが不満だ。だから今からお前にこのゾンビ化の薬を打たせてもらう」
オーライは注射器を取り出して俺に向けてきた。
俺は一歩も動けないし、抵抗も出来ない。もうダメだ……弓、今からそっちに行くぞ……。
その瞬間だった。
「ぐはっ!」
オーライが急に吐血した。
見てみるとオーライの胸からは剣の刀身が生えていた。背後から何者かに刺されたようだ。
オーライは流石に驚いたようでゆっくりと背後を見る。
「はぁ……くはは。何騒いでやがんだオーライ。うるさくてこちとら静かに眠れねぇんだわ」
「お前……何故……っ!」
「ああ? あめぇんだよ。ちょっと急所を外させてもらった」
背後に居た何者かが剣を抜くと、オーライは力無くそのまま前へ倒れた。その背後から出てきた人物とは――
「カラタさん!?」
「ちょ、おー声出すのやめてくんねぇか? 頭に響く」
少し脱力気味に言うとオーライに剣を向けて言い放った。
「俺の弟子に手をかけて……覚悟は出来てんだろうな」
その時に放った威圧は過去最大級だった。




