第111話 幻の街と死闘30
「って言うかこの高さを本気で登る気か?」
「それしかねぇだろ」
確かに壁とか穴を開けられないならば登るしかないのだろうけど、これを登るのはかなりの物だな。
とは言え魔法が使えないならばどうしようも無いのだが、俺はそんなに体力がある方では無い。どちらかと言えば自分で戦うよりも指揮する方が得意だ。だからロッククライミング的な運動とかは苦手なんだ。
「って言ってもなぁ。辺りにあるのは剣山の破片だけか……」
破片を一つ持って観察してみると何でも切れそうな位に鋭くとがっていた。
試しに壁を掻いて見ると壁がかなり脆かったようで簡単に崩れ、中の土が見えてきた。
確かにこの穴は整備がされていなさそうで所々ひび割れたり砂みたいになっている所もある。
「てめぇ、何してんだ」
「ちょっとな。このままクライミングを続けんのはキツイだろ?」
「だな、少し諦めかけていた所だ。俺もたいして体力がある訳じゃないからな」
そう言ってハルトは登るのをそこで諦め、飛び降りてくると俺の真横に立った。
とりあえず壁をぐるりと一周削ってみると全ての方向から土が出てきた。
やっぱりハルトの言う通り、横に空洞なんて無いようだ。となればここを登るにはどうすればいいんだ?
「おい、どうすんだ?」
辺にあるのはこの剣山の破片だけ……。だと思っていたらある物を見つけた。
「これはロープだな」
「ああ、前からここはトラップにと掘ってあったんだが、ここに物を落とすと構造上取れないからこんな所にあったんだな」
でもロープか……。ロープと破片……何に使えんだ?
確かにロープを掴んで登る方がロッククライミングをするより楽なんだが、上に引っ掛けられないからな……。
「それを寄越せ」
「え?」
「良いから寄越せ」
急にハルトが少し強い口調で言って来たので何か思いついたのだろうとロープを渡す。
するとハルトは地面にあった破片を一つ手にするとナイフを取り出して欠片を削り始めた。
削った欠片にロープを括り付けると、そのまま破片を真上に向かって放り投げた!
「魔眼奥義『グレートプレス』!」
ハルトは手を放り投げた破片に手を向けるとスキル奥義を放った。すると、その投げた欠片はロープを引き連れてどんどんと上の方へと飛んで行く。
微調整をしている様で時折手を動かして圧力の方向を変えているようだ。
「は!」
気合いを入れて最後の一発。張り手をすると、ハルトは魔眼を解いた。
解くと地面に残ったロープを引きながらうんうんと何回も頷いた。多分成功したのだろう。大体の予想は着くが、俺は何をしたのかが理解出来なかった。
あんなの壁に指しただけじゃこんなに丈夫にはならないだろう。多分ハルトがそこら辺の細工をしたのだろうけど全く分からなかった。
「まぁ、とりあえず登るぞ。こんな所にいてもしゃーねぇし」
ハルトは躊躇い無くロープに身を委ねて登っていく。少し不安だが、今はこれしかないと考えてクライミングよりはマシだと俺もハルトに続いて登っていく。
落下した時、あんなに下に着くのに時間がかかった道を登るのかと思うと気が遠くなりそうだったが何とか気力で一歩、また一歩と登っていく。
登っている途中、ハルトは俺に話をふってきた。
「お前は何故あの連中と居る」
「あの連中? ああ、あいつらの事か」
あの連中とはカナタ達の事を言っているのだろう。
ハルトに問われ、少し考えてみる。しかし自分でも少し不思議だった。あいつらと居ると危険は付き纏うし、死ぬ可能性がある。勿論俺だって死ぬのは怖いし、出来るなら自宅警備員をやっていたいくらいだ。
だけど俺はいつもあいつらに連れ出されたりして結局死にそうになっている。
「まぁ、馬鹿だってことだ」
「馬鹿か、俺はお前がかなりお人好しだからだと思う」
「俺はお人好しじゃねぇよ。全て自己満だ」
いつも助ける時は自分の事しか考えてない。こいつが死んだら悲しい。もうあんな思いはしたくない。全て自衛のためにやっている事だ。
「俺さ、妹が居たんだ」
「ほう?」
「その妹はさ、もう死んじまったんだけどさ、あの時の悲しみをもう一度味わいたくねぇんだよ」
会って間もないハルトに昔の事を話した。
弓が居たからこそ今の俺が居る。そう思っているんだ。
「なるほどねぇ。お前さ、」
「ん?」
「いや、何でもねぇ。気にするな」
そう言われると一番気になるんだけど!?
そんな話をしているとあと少しで上にたどり着くくらいの高さまで来ていた。話しながらだと時の流れが早く感じる。
そう言えば結構長い間下に居たけど他のみんなは大丈夫か?
☆☆☆☆☆
一方、裕斗達が穴の底で奮闘していた時にカナタ達は?
「落ちてっちゃった」
スイが小声で呟いた。
二人で落ちてった事に驚いて誰一人として反応出来なかった。
ユユはあわあわとルルは顔を真っ青にして慌てる。何せ敵と共に落ちて行ったのだ。危険でないはずが無い。
「うーん」
そこでパイプが目を覚まし、起き上がる。
パイプは全く状況が理解出来ておらず、首を傾げるばかり。
サキは徐ろに転移石を取り出すと使おうとするが、それをスイが押さえ込んだ。
サキは「離して」と暴れるが、スイが宥めながら取り押さえる。
なぜなら今飛んで行くと落下中なので何があるか分からない。だからここで使うのは絶対だめだ。
結局誰が一番取り乱しているかと言うとサキだった。サキはずっと「お兄ちゃんが!」と叫びながら後を追おうとする。
「あの二人は多分大丈夫。みんなでもう少し探索を――」
「どこへ行く気だい?」
カナタが仕切ってその場から離れようとすると、頭を何者かに掴まれてしまった。
みんな顔を真っ青にして驚いている。その光景にカナタも恐怖を抱くが、恐る恐る後ろを振り返ってみる。
するとそこには――オーライが居た。
「早速だけど寝てもらう」
チクッ。首筋に何かが刺さった感覚が走った。
カナタはそれが何かに気がつく前に意識を闇の底へと落としてしまった。
「そいつに何をした!」
「安心しろ。ただの睡眠薬だ」
オーライは更に白衣の中から数十本の注射器を取り出した。
にたぁと笑った後、目にも止まらぬスピードでみんなの間を縫うように通り抜けていく。
「何だか眠く……」
「お、兄ちゃん……」
「さっきーは私がまも……」
「私としたことが……」
「く、そ……」
その次の瞬間にはみんなはシンクロするように同時に床に倒れ込んでしまい、眠ってしまった。
オーライの持っていたのはただの睡眠薬。命に危険があるとかいうものでは決してないものだった。
「これで奴らが帰ってきたとしても目の前で殺して絶望を……ふははは」




