第108話 幻の街と死闘27
「パイプさん!?」
「あなた、死んだんじゃ」
「勝手に殺すなや」
目の前にパイプが現れた。それだけでカナタとルルの心に大きく影響を与えた。
パイプが二人の希望となったのだ。パイプが死んで無かったように他の面々も死んで無い可能性がある。
そう考えると段々とやる気が戻って来た二人は同時に立ち上がり、二人も戦闘態勢に入った。
三対一。不利だと言うのにハルトは余裕の表情。それにはスキルが関係しているのだろう。
ハルトのスキルはとても強力だ。だから三人で一気に攻めた方がいい。そう思った三人は手始めに一斉攻撃を仕掛けることにした。
「行くっすよ! クラタガ流、閃」
「くらえ! 龍の鉤爪!」
「エアスラッシュ!」
パイプはクラタガ流の居合斬り、ルルは両手の爪の模範を解いて龍の爪になると龍の爪を魔力で硬化して引っ掻き、カナタは早口で詠唱するとエアスラッシュを放った。
三人同時の攻撃。しかしハルトは全く顔色を変えずに剣を横凪するとパイプの剣とルルの爪は押し返され、カナタのエアスラッシュはかき消された。
僅か一撃。その一撃で全ての攻撃を打ち消してしまった。
まさかここまであっさりと全てを破られるとは思わなかったのか三人とも目を見開いて固まってしまった。
そんな三人の様子を見てハルトはケラケラと笑う。絶望の表情が大好物なハルトにとってはこの状況が楽しくて仕方が無いのだ。
「お前らが悪いんだぜぇ? 俺はきっちりとあのバカに『俺にはもう関わるな』って言ったはずなんだがなぁ。こうなる事が分かってたからな」
ハルトは真顔に戻り、剣先をカナタ達に向けた。
「だが、もう遅い。あのバカは俺を助けるとかほざいてたらしいけど簡単に人は死ぬんだよ。こんな風にな!」
すると突然剣を投げ捨てたかと思うとどこからともなくとある錠剤を取り出した。
それを見て三人は嫌な予感がした。
ハルトはその錠剤を口許へ運び、服薬しようとする。パイプは止めるべきだと考え、剣を強く握って飛び出した。
三人が考えた事、それはあの薬が――スキル強制発現薬だと言うことだ。
「もう遅い!」
ゴクリ。ハルトは薬を口に放り込むとそのまま一気に口に入れた錠剤を飲み込んだ。
パイプの走りでは間に合わなかったのだ。しかしそのままパイプは走るのを辞めない。
薬を今飲んだって事はさっきまではスキルを会得していなかったって事だ。そして薬にはその効果が現れるまで少し時間がかかる。だからその効果が現れる前に叩いてしまおうと考えたからだ。
「良い考えだ。だが、外れだ」
その瞬間だった。パイプが斬りかかろうとすると突如として物凄い圧力がパイプに襲いかかり、その圧力のせいでパイプはピクリとも動けなくなってしまった。
パイプはこの力を浴びてピンと来た。パイプも大会を見に行ってたのだが、その時に見た力。相手の行動を奪うその力。
「これ、スキルか」
「正解だ。お前の読みは外れたんだよ。この薬は即効性だ。確かに俺はスキルなんてもんは無い。この薬が無いとただの剣士だ。だからいつもこの薬を服用している。そしてこれはその最新版だ。今までのとは違って即効性がある」
ただし、欠点としては体への負担が尋常ではない事だ。
初めて飲んだ時、ハルトは生死をさ迷った。体に尋常じゃない位の激痛が走り、気絶してしまったくらいだ。
ハルトにとってこれは生きるか死ぬか五分五分の薬。だがしかし、ハルトはそのリスクを犯して今、その薬を飲んだ。
そしてその薬を飲んだと言うことは――ハルトの体は現在、激痛に蝕まれていた。
(クソ痛てぇ。あ、頭が割れるようだ。一瞬でも気を抜いたらそのままぽっくり行ってしまいそうだぜ)
ハルトは苦しみを表に出さないものの、激痛によって今にも倒れそうになっていた。
(だけど、これが俺の罪の重さってやつなのかもしれねぇな)
ハルトは投げ捨てた剣を手に取るとパイプに斬りかかる。
いつもなら斬りかかってきたら剣で受け止めるパイプだが今は違う。指先一本動かないのだ。
なのでそのまま受け止めることも出来ず、パイプは切り捨てられた。
「ち、うざってぇ身体してんなぁ。どうなってやがんだその肉体? なんで全力で斬ったのに深く剣が入らねぇんだよ」
パイプは斬られた事により気を失ったものの、身体には大した傷跡は残らなかった。それはパイプの肉体が鋼鉄並に硬いからだろう。
面倒だと思ったハルトはターゲットをパイプからカナタに変更した。それを悟ったカナタはハルトに掌を向ける。
カナタはハルトの強さを知っているから恐怖で怖気付きそうになったが、心が強かったのだ。足を踏ん張り、力いっぱい立つ。その姿は若干オーラが出ている。
「ち、火事場の馬鹿力ってか? だが面白い。やってみろよ!」
「言われなくてもやります!」
早口で詠唱を始めるカナタ。そんなカナタに向かって掌を向けるハルト。その仕草でハルトが何をしようとしているか分かったのだろう。ルルはハルトの目を狙ってその場に落ちていた小石を全力投球した。
ハルトはそれに気が付き、石をキャッチした。しかしそのお陰で自分で自分の目を隠してしまう結果となってしまった。
「しまっ!」
「遅いです! 疾風の波動!」
その瞬間、カナタの手から風属性の波動砲が放たれる。
ハルトのスキルは魔眼。目が見えないと使えないスキルなのでそのまま直撃するかと思われた。しかし、ハルトは予想外の行動に出た。
ハルトはニヤッと笑ったかと思うと剣を構えた。
通常、魔法を剣で防ぐなんて言う発想に至る人はそうそう居ない。しかし、さっきの横凪。あれでカナタのエアスラッシュを相殺しているのだ。ハルトならやりかねない。そう思って居たらハルトは波動砲に剣先を向けるだけで斬ろうという気は全く感じられなかった。
「まぁ、特別に見せてやるよ。俺の剣技、空間断裂!」
その名の通り、ハルトが剣を向けるとその剣先より先に波動砲が進まなくなってしまった。文字通り空間を二分割されてしまったかのように……。
カナタの魔法ではこれを打ち破ることが出来なかった。カナタは最高の魔法を破られただけあり、絶望に染まってしまう。
ルルもルルで何とかしなくてはと思い、足を踏み出そうとする。しかし、
(足が動かない? いや、体全体が動かないんだ。こっちに視線を向けている。これはスキルか)
ルルはスキルによって全く身動きが取れない状態に。その隙にどんどんとハルトはカナタへと歩み寄る。
カナタはペタンと座り込み、絶望の表情で俯いた。
「その顔だぁ。その顔を見たくて俺はここまでしたんだからよぉ。ぐっ、」
ハルトは胸を押さえた。激痛がまだまだハルトを支配していたのだ。しかしそんな事知るかとばかりにハルトは剣先をカナタの額にくっつける。そのまま一ミリでも進んだら突き刺さる状態。
「死ね」
カナタは死ぬのを覚悟し、目を閉じた。
(皆、今からそっちに行くね)
じっと待つ。今から殺される。そう思ってじっと待つ。しかし幾ら待っても剣が刺される様子は無かった。
カナタは恐る恐る目を開くと、
「ごはっ!」
「何してんだてめぇ」
ハルトはまた新しくこの場に現れた男に顔面に拳を受け、背後に倒れ込んだ。
それによってカナタに剣が突き刺さることは無かった。
カナタはまた新しく来たのは誰だろうと男を見ると驚いてしまった。なぜならそこに居たのはさっきまで死んだと思っていた人達だったから。
涙が零れてきた。また会えたのだからカナタの心が感極まったのだろう。
何せその人物は――
「ハルトを見つけたらさっさと報告しろ。ハルトが攻撃してくる可能性を考慮しての作戦なんだからよ」
「その人がハルトねぇ」
「お兄ちゃんのお仲間さんを殺そうとするなんて許せません」
「ヒロさんの仲間は私の仲間でもあります!」
先程ハルトが死んだと言っていた裕斗一行だったのだから。




