第107話 幻の街と死闘26
「ハルトさん……っ!?」
「なんだって!?」
カナタ達の前に現れた謎のマント男。その人物がマントを取るとその中から出てきた人物は、今回の目的でもあるハルト・アルファだった。
ハルトはニヤニヤ笑いを浮かべ、まるで裕斗とハルトが控え室で初めて会った時のような表情だ。
服装はあまり防御力が高くなさそうなシャツ、それとボロボロのズボンだった。確かに顔立ちは良く、イケメンの部類ではあるが、服装のせいで大会時の様な好青年的な印象は受けない。
ハルトがいきなり出てきた事でカナタとルルはかなり動揺した。しかし気になる事が一つあったので冷静に戻ることが出来た。
その気になる事とは、ハルトがいきなり攻撃をしてきた事だ。更にはマントを羽織ってまで。
「ははは。あのバカ、ここまで来るとは思わなかったぜ。やっぱりあのバカは殺しておくべきだったか? バカは死ななきゃ治んねえってか?」
カナタはハルトの独り言とも思える様なセリフに少し疑問、と言うか嫌な予感が頭を過ぎった。
殺しておくべきだったってセリフ。まるで一度裕斗を殺そうとしたことのあるような口ぶりだ。
でもカナタは殺しておく『べきだった』って言葉に少し期待をする。殺そうとしただけでまだ殺してはいないんじゃないかって。
聞きたい。でも実際に聞いて殺したと言う返答が帰ってきた時が怖くてカナタはその質問を繰り出せない。
それはルルも同じだった。
カナタと同じ気持ちを抱き、苦虫を噛み潰したような表情をする。大事な時に一緒に居てやれなかった悔しさが二人を支配していった。
ルルにとっても、そして最初は裕斗の事を嫌っていたカナタにとっても今は大切な人だ。絶対に死なせたくない仲間だ。だから死んだと言う返答が帰ってきたら二人は平静を保てるかが分からなかった。
そこで二人はあることを思い出す。
((そうだ。報告札を使おう))
ここに来る前にとある決め事をした。それは、ハルトを見つけたら報告札を使い報告せよ。そして報告を受けたら直ぐにその者の元へ向かえと。
これを使ってもし裕斗がこの場に現れたならそれはまだ生きていることの絶対的証明となる。
二人は顔を見合わせ、同時にコクリと頷くと二人は報告札に手をかけ、縦に破る構えをする。
そんな二人を見てハルトは笑い始める。最初は小さかった笑いが徐々に大きくなり、最後には大爆笑をし始めた。
二人はハルトの突然の笑いに困惑し、動きを止めてしまった。何がおかしいんだろうか。じっとハルトを眺めていると急にハルトは冷静な口調で話し始めた。
「まぁ、お前らの考えは分かってる。どうせお仲間さんにその報告札で報告して? んでもって転移石かなんかで集合しようと考えてんだろう」
読まれてた。その事実に驚きを隠しきれない二人。しかしそれならばなぜハルトは笑ったのだろうか? 二人は疑問に思った。
ハルトが読んでいた行為、それは仲間を呼ぶ行為だ。仲間を呼ばれると通常、不利になる。だからこそ仲間を呼ばれる事は避けたいと考える筈だ。しかしハルトは違った。笑ったのだ、ゲラゲラとまるでそんなことをしても無意味だとでも言う様に。
だけど無意味な事は無いはずだ、何せこれを破けば必ず皆来るはずだ。そこまで考えた所で二人はある可能性にたどり着いた。
これを使っても無意味な状況。それは、カナタとルル以外全滅していると言う状況だった。
でもそれは最悪の場合だ。しかしハルトが無意味だと言う理由はそれしか思い浮かばない。
二人は血の気が引いていくのを感じた。最も恐れていたことが起こったかもしれない。そんな展開だった。
「ほう……それは気がついた顔だなぁ。くくく、良いぜその顔。最高の表情だ。絶望のその表情。俺はその表情を見る事を生き甲斐としている。だからよぉ、思わず更に追い込みたくなっちまうんだわ」
楽しそうにケラケラと笑うとハルトは二人にとって最も最悪の事を言い放った。
「まぁお察しの通り、お前らの仲間は全滅したんだぜ?」
絶望。二人にとってこれまでに無いくらいの絶望だった。そして自分達が呑気に休んでいる間に皆殺されてしまったんだとそう思ったら自分が憎くて憎くて仕方が無かった。
ルルは目を瞑って歯を食いしばった。悔しさでいっぱいだったのだ。
カナタの目から光が消えた。再びトラウマが蘇ってきたのだ。大切な人を失う恐怖、もう二度と感じたくなかったあの感情。それが鮮明に蘇ってきた。
二人とも涙は流さなかった。しかし、二人に精神的ダメージを与えるには十分過ぎる台詞だった。
「あー。なんだ? マッチョとカラタっちゅー奴は名誉の戦死を遂げたぜ? そう、お仲間さんを守ってな。だけどよぉ、その死を以てしてまで助けたそのお仲間さん達も今頃凶暴なアンデット達の餌になってることだろうよぉ」
二人に更なる絶望を与える為に具体的な内容を語るハルト。二人はもう精神的に聞いていられる状況じゃなかった。
二人の精神的エネルギーはもう限界になっていて魔力不足になり、立っていられなくなったので同時に床に座り込んでしまった。
自暴自棄になっていた。別にこのまま死んでもいいや的な発想に至っていた。
ああ、私達は今ここでハルトに殺されるのだろう。そう思って目を瞑る二人。その様子を見てハルトはケラケラと笑った。
「死ぬ覚悟は出来たようだな〜?」
フラフラとハルトは二人に近づき、ナイフをカナタの首に当てた。
首の薄皮が切れ、少しだけ血が出る。しかし絶望したカナタはそんなことどうでも良くなっていた。寧ろ、死にたいとすら思えてきていた。
人間は絶望の限界を超えると死を連想する。二人はその境地に至っていたのだ。
「んじゃあ、お望み通りにその首を掻っ切って――」
「死ぬのはてめぇだ!」
「ぐあっ!」
横からものすごいスピードで走ってきた男。体がブレるほどのスピードで走って来た後、男はハルトの腹に膝蹴りをかました。
膝蹴りを受けたハルトは膝蹴りが高威力過ぎたが故にナイフを手放し、ものすごいパワーとスピードで廊下の端まで飛んで行き、壁を貫通して落ちそうになる。
何とか壁に掴まることに成功したハルトは自分の体を何とか建物内に持ち上げて落ちることを回避した。
ハルトは今まで残りはこの二人だけだと思っていただけに驚きを隠せない。
もう一人いるなんてのは知らない。ハルトは全てを知っていたが、ここに来る人数は八人だけだと言う情報だった。九人目なんて知らない。
そう思って睨みながらその人物を見て驚いた。
その人物は手錠をし、足枷のリングをつけている上半身裸のマッチョ。
――パイプだった。
「この二人には手出しさせねぇっすよハルトっち」
「は、ハルトっちだぁ?」
急に馴れ馴れしく呼んできたパイプに困惑するが、それよりもハルトは動揺の方が大きかった。
パイプには薬を打ち込み、とある部屋にて手錠をつけて足枷をつけ、柱に括り付けていたはずだった。
しかしパイプは現在目の前に居た。
「お前、どうしてここに居る!」
「俺っちがあの程度の薬で死ぬわけねぇっすよ。少しだりぃけど戦う分には問題ねぇっす!」
パイプはそう言いながら手錠を引き千切る。
「ったく面倒な奴だなぁ」
「さて、ここは絶対に負けられねぇっす」
二人は剣を抜き、戦闘態勢に入った。




