第106話 幻の街と死闘25
裕斗達がスケルトンキングと戦っていたその頃。カナタとルルは?
「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だ。心配かけたねカナタ」
「ううん、大丈夫だけども」
二人は現在、魔物が少なさそうな角で座り、休憩をしていた。
ルルが臭いのせいでダウンしそうだった為、カナタ達は先を急ぐと危険だと判断し、休憩と言う手段をとることにしたのだ。
そこはどこよりも薄暗く、そして人どころかモンスターの気配もしない。言わば安全地帯だった。
「今頃他の皆はどうしてるんだろう」
「そうね。まだ報告が来ないって事はハルトさんはまだ見つかってないみたいだけど」
カナタは優しくルルの背中を擦りながらみんなの事を考えていた。
もし向こうの方で奇襲にあってピンチに陥っていたら……そう考えるだけで胸が苦しくなって呼吸が出来なくなる。
もう大切な人を失うのは嫌だ、だからカナタは沢山魔法を勉強した。だけど世の中には自分よりも強い人が沢山居た。カナタは何度も己の弱さを悔いる。
「テイッ!」
「いたっ」
ルルは暗い顔をし始めたカナタにチョップをした。また何か自分を責めている様な気がしたからだ。
カナタは頭を押さえながら蹲る。少し涙目の上目遣いでルルを見るが、その様子が可愛すぎてルルは思わず新たな扉を開いてしまいそうな気分になる。
つまりは泣きそうなその表情が可愛すぎて虐めたくなってくるという事だ。
「だめだめだめ……仲間を虐めるなんて」
ルルは必死に頭を振って一瞬出てきた自分の感情を心の奥底へと仕舞い込んだ。
既にルルはだいぶ体調は戻って来ており、直ぐにでも動こうと思えば動けるのだが、カナタは心配性であった。ルルが大丈夫だと言っても聞かず、ここを移動させてくれないのだ。
どうにかしてルルも早く探索を再開したいと思っているのだがカナタがそうさせてくれないのでどうした物か……と考えていると、そこへ一体のゾンビがやってきた。
それを見た瞬間、ルルは目を見開いて驚いた。
安全地帯だと思っていたここにゾンビが現れたのだ。
ルルはドラゴン族の魔物の一種だから分かるがここには少しだけ聖を感じていた。だからドラゴンだからまだこの中に入れたが理性の無い魔物達はここに近寄れない筈なのだ。しかし目の前にはゾンビが居た。
「誰かが意図的に?」
そう考えたらしっくりと来る。
理性の無い魔物達は自分では来れないだけで誰かが連れて来れば来れたりする。つまり理性のある敵があれを連れてきた可能性がある。いや、それしか考えられない。
となるとここも危険地帯となるのも時間の問題だ。
今、ルルとカナタは向き合って座っている。つまりルルから見えてるってことはカナタの後ろ側に居るって言うことだ。だからカナタはまだ後ろにゾンビが居ることに気が付いていない。
(カナタに知らせようか。それともこっそりと倒してしまうか)
カナタに知らせると言う案が浮かんだルルだったが、ここでカナタに言うと余計に頑張って思い詰めてしまうだろう。そう考えたルルは無詠唱でも放てる転送魔法、『トランスファー』を使った。
対象一体にしか使えないし、使用後はしばらく金縛りのように動けなくなるのが欠点だが、その代わり好きな所に移動させられるのと無詠唱だから詠唱のタイムロスが無いって言うのがこの魔法の利点だ。
ゾンビにトランスファーをかけるとルルはこのルーダンの天井に移動させる。
「さて、カナタ。私はもう大丈夫だからもう行こう?」
「ダメですよ! もっと安静に――」
その時、視界の端にこちらへ飛んでくる物体が写りこんだ。よく見てみるとそれは鋭利なもので、当たったらタダじゃ済まないだろうと言うスピードで飛んで来ていた。
ルルは動体視力が良いのでそれの動きがはっきりと良く見える。ルルの反応速度だったら間に合うだろう。しかしそれはカナタが居ない場合だ。
ルルが避けた場合、今度はカナタに襲い掛かるだろう。そう考えたルルは足に全ての力を込める。
「私は全属性保持者。風属性だって使える! ブースト!」
ルルはカナタを座った状態でお姫様抱っこする。
カナタは驚いた様子だが今は気にする暇はない。その状態でルルはクラウチングスタート状態で思いっきり地面を蹴ってその鋭利な物を躱す。
ルルはドラゴンなので魔力はいっぱいあるが、幾らあるからと言えどもブーストの魔力消費量はかなりの物だ。今の一発でかなりの魔力が削られてしまった。
「ルルちゃん。今のって」
流石にカナタも気がついたようだ。何せ頑丈な壁をまるで豆腐のように切り裂いて刃物が飛んで行っていたのだ。
「誰だ!」
ルルは声を張り上げて刃物を投げてきた何者かに尋ねた。するとその何者かは物陰からゆっくりと出てきた。
マントを羽織り、フードを深く被っているため、顔が良くに見えない。
「これは警告だ。今すぐここを立ち去れ」
「嫌だね! 私達はハルトって人物を助けるために来たんだから!」
「そうです! ハルトさんを見つけるまでは帰れません!」
フードの男は一瞬ポカンとしたが、直ぐに元の顔に戻り、くくくと笑い始めた。
次第にその笑いは大きくなり、最終的に大爆笑しだした。
「くくく。そのハルトとか言う人物はこんなんだったか?」
大爆笑したマントの男は急にマントに手をかけ、マントを投げた。
マントを投げたことによってマント男の顔が鮮明に見える。その顔を見てカナタは絶句した。そんなカナタの様子を見てルルはもしかしてと言う答えにたどり着いた。
「俺がハルトだ」




