第103話 幻の街と死闘22
俺達はカラタさんに任せて無我夢中で走った。
無我夢中で走っていると一人の人影が見えてきた。それも見た事のある影だ。
あの特徴的なシルエットと背丈は――
「ユユ!」
「ヒロ……さん」
妙に意気消沈しているユユだった。
今回も「ヒロさん大好きです〜」って飛びついてくるかと思いきやだらーんといつもの元気からは想像もつかないくらいの意気消沈だった。
目は虚ろでどこを向いているか分からず、目に光がない。
心做しかいつもの子供っぽい表情では無く、どこか大人びた表情だ。
更に、ユユは俺の前で初めてため息を着いている。これはただならぬ予感がする。
「ユユちゃんどうしたの?」
「私等になんでも言って」
サキちゃんとスイちゃんが前へ出た。
前へ出るとユユの背丈に合わせて二人は屈んだ。
「実は……パイプさんが、やられました」
「「「え?」」」
ユユの口から出た言葉は非常に予想外のものだった。
パイプが、やられた? あいつが並大抵の敵にやられるはずが無いんだが。
となると、あいつか!
出会っていたんだあいつらと。俺達よりも先に!
やられた。まさかもう仲間を一人失うなんて……。
カラタさんの攻撃ですら傷一つ入れれないパイプの強靭な肉体。それに勝つには一つしか方法は無いだろう。
十中八九毒だ。パイプは毒を打ち込まれたんだ。
やはりあいつらの手の中にある毒入り注射器は厄介すぎる。どうにかして奪えないと勝機が見えない。
それだけじゃないだろう。恐らく奴の強さはカラタさん位、いやそれ以上かも知れないけど強い。
俺らじゃ太刀打ち出来ない。今は全力で逃げながらハルトを探さなくては。
「ユユ、逃げよ――」
その瞬間だった。
バサリ。マントを翻しながら一人の男が上から飛び降りてきた。見てみるとここは吹き抜けになっていて、上から強襲されてもおかしくない。
「お前は誰だ」
「俺か? 俺はお前らの敵だ」
そんなことは見てたらわかる。どう考えてもこっち側の人間じゃない。
男はフードを深々と被り、顔が見えないが、何だか声に聞き覚えがあった。
そんなことを考えていると男はスイッチを押した。すると、俺達の真下の床が下に開いた。
「じゃあな。精々頑張ってみてくれ」
しまった、トラップか。そう考えてる暇もなく、俺達の体は重力に従って落ちていく。
「くそ、なんでアンチグラビティが効かない!」
「恐らくここは魔法無効エリア。1ミリでもこの穴に体が入ってしまった時点で魔力を使う事は出来なくなってしまったのよ」
くそ、なんて厄介なエリアだ。このままじゃ落ちてしまう。
しかし俺達にはどうしようも無いので重力に従ってそのまま落下していく。
途中、ユユが俺に抱きついてきたので今回ばかりは仕方が無いなと抱き返してやった。
しかしこの穴、どこまで続いていやがんだ。先が真っ黒で全く見えない。
このままだと落下して死んでしまう可能性だって十分ある。どうすれば……そう思っていると、サキちゃんが弓矢を手に取った。
なにかしようとしている。俺には何をやろうとしているかは分からないがきっとなにか案があるのだろう。
「シュパッ」
いつぞやのように弓矢を放つ擬音を口で呟いたサキちゃんは思い切り引き絞った弓矢を放った。
放たれた弓矢は闇へと消えていく。
何がしたかったんだ? 訝しげな目でサキちゃんを見ると、サキちゃんは俺にウィンクをしてきた。まるで「任せておいてください」とでも言っているようだったのでとりあえず信用してみる事にした。
その瞬間だった。
なんと下から物凄い突風が吹き上げてきた。その突風は俺達の体を押し上げる力は無いものの、俺達の勢いを殺すことには成功した。
これで位置エネルギーがゼロに戻ったが、ここから更に落下していく。未だ底が見えない闇の中へと。
「って言うか今のなんだ!? 矢を放ったと思ったらすごい突風が」
「あれはそのまま突風の矢と言います。あの矢は何かに刺さった時点でその場所から半径5mの範囲に突風を吹かせます。なので勢いを殺せました!」
そんな矢もあんだな。って事はこう言う緊急事態には色んな矢を持ってた方が便利なのか?
「俺も弓矢使ってみようかな」
「はい! 是非オススメです!! さぁお兄ちゃん! 私と一緒にシュパッしましょうシュパッて!」
「シュパするって言う動詞は無い」
しかしお陰で助かった。徐々に床も見えてきたし、これくらいの高さなら何とかなりそうだ。
そこで魔力の調子が元に戻ってきた。ここからだったら上に戻る事は出来ないが、勢いを殺す事は出来るかもしれない。
だけどいきなり高出力で発動したら上からの位置エネルギーと下からの反重力エネルギーでぺちゃんこだ。だからここは徐々に出力を上げていって少しずつ勢いを殺していく。
「ぐ、」
少しずつ行わないと俺だけでなくユユ、サキちゃん、スイちゃん諸共ぺちゃんこだと考えるとプレッシャーが半端じゃない。だが、そのプレッシャーも押しのけて落ち着いて精密な微調整をしなくてはならない。
少しずつ変えるってのはやった事ないから出来るか分からないが俺の世界にはこんな言葉もあったけな。
「出来るかじゃない。やらなきゃダメなんだ。やらない後悔よりもやっての後悔」
やってやるよこんちくしょう!
最初は重力に全く抵抗できないぐらいの出力で、そこから徐々に出力を上げていく。
重力の半分くらいの出力を出したところでやっと勢いが弱まってきた。しかし、もう悠長な時間はない。あと数秒で俺達は最下層に辿り着くだろう。
俺の中に焦燥感が駆け巡る。だけどここで焦ってはいけない。
「ゆっくり、ゆっくりだ」
出力をこまめに変えているって事はずっと魔力を使っているのと同じだ。徐々に意識が薄れていく。さすがにこの魔力消費は厳しかったか……。
だがそのおかげで俺達は無事に床に着地する事が出来た。
しかし俺は、
「く、ここまでか」
何も出来ないくらいにフラフラになった俺は上手く着地する事が出来ずそのまま床に倒れ込んでしまった。
そんな俺の様子に驚いたサキちゃんはリラックス草を持って駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、食べれますか?」
「ああ」
俺が首肯するとサキちゃんは俺の口元にリラックス草を近づけてきた。多分疲労困憊な俺を心配しての事だろう。会ってからあんまり経ってないってのにこの子は優しい子なんだな。
自然と笑みがこぼれる。俺は笑みがバレないように顔を逸らしながらサキちゃんの気遣いに甘えてサキちゃんの手の中にあるリラックス草にかぶりついた。
いつもと同じ、薬品っぽく青臭い。そんな味だったものの、食べさせてもらうだけで違う感じがした。
「さて、ヒロト。復活したならこっちを見てくれないかしら?」
少し横暴な口ぶりだったが、何かあるんだろうかと思った俺は少しふらつきながらも立ち上がり、スイちゃんの真横に立って同じ方向を見る。
俺は目を見張った。
なぜならそこはとても大きな円形状の部屋で周りに大量の棺桶が並べてあった。




