第102話 幻の街と死闘21
今回は長いです。
その分、一気に展開が変わります。
「オーライ……っ!」
しまった。もしかしなくてもカラタさんが逃げろと言っていた科学者はこいつのことだろう。確かにこいつからは逃げないとまずい。
しかし、今俺達の後ろには壁。逃げられない。
「覚えてくれてたんだねぇ。嬉しいな」
俺達から手を離しながら腰をくねくねと動かしてオーライは言った。正直気持ち悪い。
だがこんな奴だが実力は確かだ。それは以前食らった威圧の出力を見れば分かる。
これは気を抜いたその瞬間、首を持っていかれる……っ!
「嬉しいよぉ〜君が覚えてくれてるなんて……。嬉しすぎて、ついつい殺したくなっちゃうじゃないか」
「っ!?」
その瞬間、俺でも分かるくらいの威圧が放たれた。以前にもカラタさんから分かるくらいの威圧が放たれた。だが、今回はその威圧が俺達に向けられている。それだけで緊張感がまるで違う。
横でスイちゃんがフラっとよろめいたのが見えて俺は咄嗟に支えた。どうやらこの威圧に耐え切れなかったようで気を失っているみたいだ。
しかしこれだけの威圧、耐えられないのも不思議じゃない。これがオーライの威圧……っ!
「相変わらず君の精神力は凄いねぇ。どう? 君、僕のコレクションになってみる気は無い?」
「コレクションだぁ?」
「そう、コレクション」
その瞬間だった。
突如としてオーライの右手に注射器が出現した。その中には緑色の液体。研究施設で見たものと同じだ。つまり、あれは毒! 注入されたら死ぬ。
オーライはそのまま注射器を持った手を振り下ろして来た。
俺は咄嗟にスイちゃんを庇いながら側転して躱し、スイちゃんをお姫様抱っこしてオーライの横をすり抜けて逃げ出す。
あんなのとまともにやりあえる訳が無い。逃げるが吉だ。
「逃げた? くふふ、くかかかか。逃げたか……怖いか? 怖いか? 僕が怖いか? だけど言っておくよ。僕から逃げても無駄だということを、ね。君はここに来た時から僕のコレクションになる事が決まっている」
「そうか、だけど俺だって簡単に死ぬ訳にはいかねぇんだよ!」
ブーストを発動する。今は何がなんでも逃げなければならない。それとサキちゃんとカラタさんに知らせなければ。
「ん〜?」
スイちゃんが目を覚ました様だ。実に短い気絶だったが、それだけ精神力が強いのだろう。
目を覚ますとスイちゃんが珍しく顔を上気させた。いつも鬼のような顔か揶揄っている時の顔しか見ていない為、とても新鮮でこれがギャップ萌えかと思いながら走る。
「バカ! 変態! 私を連れ去ってナニする気!?」
「何もしねぇよ。お前が気絶したから運んで逃げてんだろうが」
暴れるスイちゃんを必死に抱えながら来た道を少し走るとカラタさんとサキちゃんが見えてきた。
「あ、ヒロト君。どうし……っ!」
「お兄ちゃん? ……っ!」
二人は一瞬俺達を見た事で安堵した様な表情をしたが、その表情は一転。真面目な顔に変わった。
直ぐ後ろに気配を感じる。多分奴は追ってきている。それは二人の様子からも分かった。
するとカラタさんは俺の方へ一気に駆け出し、俺とすれ違って奴のもとへ向かう。
すれ違いざまにカラタさんは「ここは任せて先に行け」とそう言ってきた。
俺は奴の強さを知っている為、カラタさんでも心配になって来るが、今のメンバーで一番可能性がありそうだし、みんなを逃がせられそうなその提案に乗る以外の選択肢は俺には無かった。
「スイちゃん、歩けるか?」
「ええ、問題無いわ」
なら、そう思って俺はスイちゃんを床に立たせる。
立たせると俺と一緒に走り出すが、俺はかなりの長時間ブーストを使えるが二人はそんなに長く使えない。
だから俺は左手でサキちゃんの手、右手でスイちゃんの手を掴んだ。少し振り回される感じにはなるが、アンチグラビティで調整すれば問題無いだろう。
そんな感じで俺は二人を引っ張って走った。
こんな所で捕まる訳にはいかないんだ。
「待ってろよ。ハルト!」
☆☆☆☆☆
「……どういうつもりだカイズ・クラタガ」
「どういうつもり……ねぇ? まぁ、お前には分からんだろうよ」
オーライはカラタに対してドスの効いた声で問い質すが、カラタはいつもの調子で返す。
ただ、いつものカラタと違うのは目に覚悟が宿っているって言う点だろう。覚悟し、それを実行する人の目をカラタはしていた。まるで――
「お前のその目、死ぬことを覚悟した目をしている」
「そうかよ。俺は死ぬ気なんてサラサラねぇけどな」
ゆっくりとカラタはそう言うと鞘から剣を抜き、左手に剣を持ち、だらんとした構えをしながらオーライをじっと観察する。
オーライの手には注射器と毒入りの三角フラスコ。いつもの通りの仮面をしており、表情が読めない。特注の白衣は攻撃を反射する。カラタは全て知っていた。知った上で残った。裕斗達を逃がす為に、
「お前、右利きじゃ無かったか?」
「そうか? 俺は昔の事なんか覚えちゃいない。これが今の俺、カイズ・クラタガの戦闘スタイルだ」
「ほう、んじゃお前の言うクラタガ流の剣技ってもんを見せてもらうじゃん?」
「そんなにお望みならば見せてやるよ。クラタガ流奥義って奴をな!」
カラタは走り出した。左手に持った剣は胸の辺りに構え、右手はその場で肘を折って刀身を掌で押すように構えた。
これが今のカラタの全力の構え、カラタにとって一番戦いやすい構えだ。
カラタはオーライの前まで来ると左手に持った剣で横薙ぎをする。しかしその剣はいとも容易くオーライがバックステップをした事によって躱された。だが、カラタにとっては狙い通りの動きだった。
それにこの構えはその対処をする為の構えでもあった。それは利き手でも無い左手で剣を握っている事にも繋がる。
なぜなら、
「スキルは利き手の方が使いやすいからな!」
「っ!? まさか!」
「もう遅い! 空中じゃ身動きは取れないだろう! 風の民発動!」
カラタは剣が前から無くなったことで伸ばせるようになった右手をオーライの居る方向へ伸ばし、スキルを発動させる。
スキルが発動されるといつもの様に掌の先に風の玉が出現された。その玉は周りの空気を巻き込んで高圧力の風の玉と化していた。
その為、周りのものは全て巻き込む。勿論人も……。
オーライはジャンプしたことによって空中に居る。その為、オーライは空中では踏ん張ることが出来ず、その空気の玉に吸い込まれていく。
カラタにとっては計画通りの展開だった。カラタは奴ならばジャンプして躱すだろうと予測していたのだ。
そして奴は跳んだ。大袈裟なくらいに綺麗に跳んだ。
「一気にケリつけてやるオーライ!」
「俺だってそう簡単にはやられはせん!」
オーライは詠唱をし、カラタの出した風の玉に当たる直前でその魔法を放った。
「暗黒の世界」
その魔法はカラタに見事命中した。
この魔法は一瞬だけだが、対象一人の目を潰す効果がある。それによってカラタは何も見えなくなったことによって思わず風の玉を解除してしまった。
解除した事によってカラタの体はがら空きになってしまった。
「しまっ!」
今度はカラタが慌てて背後に跳び、距離を取る事になった。それを見てオーライは畳み掛けるように詠唱を始める。
カラタもスキルは出が早いが、少し心を乱されると解除してしまうと言う点でオーライに対しては不利だと感じ、詠唱を開始した。
詠唱は二人同時に唱え終わり、同時に魔法を発動する。
「疾風の波動!」
「暗黒の波動!」
風の波動砲と闇の波動砲がぶつかり合う。
その二つの波動砲は互角の力で押し合い、そして相殺された。
最高のタイミングで放ったオーライ。しかしそれを悪い体制のまま放ったカラタが相殺してしまった。
普通ならば焦ること間違いないだろう。だが、オーライは違った。楽しそうにケラケラと笑いだしたのだ。
「さすがアルケニア最強の魔剣士と呼ばれただけの事はあるね」
「俺はアルケニア出身じゃないんだがな」
「そうだったな。バスタガからは追放されたんだっけか? まぁ、お前がやらかしたせいなんだけどな」
「ち、何を言いやがる。てめぇが俺を嵌めたんだろうがよ。そのせいで俺は国を追われる羽目になっちまった」
カラタとオーライは昔話を始めた。
そう、この二人は以前からの知り合いだったのだ。しかしそれはいいものでは無かった。
オーライは嫉妬深い性格だった。特に同期であるにも関わらず自分よりも強かったカラタに嫉妬した。だからカラタを陥れたのだ。
それによってカラタは国を追放された。
「カラタ。てめぇは俺より強かったかもしれない。だがそれは過去の話。今は俺が最強だ!」
叫ぶように言うとオーライは白衣を翻しながらカラタに向かって駆け出した。
それをただじっと見ているカラタでは無い。再び剣を構え、空中を横薙ぎする。
「クラタガ流『飛閃』!」
横薙ぎしたその瞬間、飛ぶ斬撃がオーライを襲った。
これは魔力を消費することによってその魔力を斬撃として飛ばす技。空間を斬る空閃とは違う。
その斬撃をオーライは白衣で身を包む事によって防いだ。
「やっぱりその白衣は邪魔くせぇな。斬るか」
「お前如きの斬撃じゃ俺の白衣を貫通させることなんで出来やしない!」
オーライはカラタの目の前に来ると回し蹴りを放った。だがそれはフリーの右手で足を掴むことによって防御する。
しかしそれはなかなかの衝撃でカラタの右手は衝撃で痺れてしまった。それでもカラタは離さない。離さずにその足を持って投げ飛ばした。
魔法の腕は互角。となればとカラタは投げ飛ばした瞬間に駆け出し、剣で近接勝負を仕掛ける事にした。
カラタの剣の腕前は最高クラス。その連撃を防ぎ切るのは至難の業だった。
実際に投げ飛ばしたその瞬間に斬りかかり、オーライの足に少しだけ切り傷を負わせる事に成功した。
オーライが着地し、さぁこれからだと再び斬りかかろうとしたその瞬間、ぐらり。視界が歪んだ。
体が言うことを効かなかった。
オーライの目の前でもたもたしている内にオーライに前蹴りで蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛ばされ、地面に転がるカラタを上から見下ろしながらオーライはニヤリと笑った。
「が、はぁっ! てめぇ、何しやがった」
「いや、ちょっとな。俺がお前に弱化薬を投与する時間は十分にあった。それが真実だ」
「弱化薬」
(そうか、この体の怠さ、そして鈍さは全て奴が投与してきた弱化薬のせいか……っ!)
「最強の魔剣士さんが衰えたものだねぇ」
カラタは悔しくて悔しくて仕方が無かった。
どこでミスった。考えてみると奴が気付かれずに薬を投与出来そうなタイミングは一回だけあった。
そう、カラタがオーライの足を掴んだ瞬間だ。
あの瞬間だけがオーライの射程距離にカラタ自身の肉体が入り込んでいる。それしか考えられなかった。
「カイズさんよぉ。もしかしてこうなる事を分かってたんじゃねぇの?」
カイズはしゃがみ込み、既に立ち上がる体力すらも薬に奪われたカラタに問うた。しかしカラタはそれには答えずただ自嘲気味に笑った。
「俺に勝てないかもしれない。そう思いながら彼等を俺から逃がしただろ? 健気だねぇ、そんなにお仲間さん達が大切かい? 自分の身を犠牲にしてでも守る程の価値が彼等にあるとは思えないけど――」
「それは違う」
カラタはオーライの言葉を食い気味に否定した。
「まだあいつらはタマゴだ、原石だ。まだ成長しきっていない。だがあいつらは確実に化ける」
「それは昔からお前がよく言ってた『預言者』の言葉ってやつか?」
「そうだ。彼等は将来俺達を超越して遥かな高みへと登っていくだろう。それを手助けするのが俺の仕事だ。まぁ、ここでその役目を終えてしまうのが少し残念なんだがな。俺は恐らく今日ここで生涯を終える。そんな気がしていたよ」
カラタは目を瞑りながら真横に居るオーライに向かって語る。
カラタは全て分かっていたのだ。自分の死ぬ時はいつなのか、どうやって死ぬのかなど。
そしてその未来は変えられなかった。カラタは悔しさでどうにかなりそうだった。
『預言者』の言葉は絶対。その未来からは逃れる事は許されない。どんなに抗おうとも、その予言通りの未来がやってくる。
改めて予言の呪いに対してカラタは恐怖した。
「だけど悪くない死に方だな。彼等を守って死ねるなら本望だ。さぁ一思いにやってくれ」
「……お前、バカだろ? 大バカだろ? 仲間なんて助けて何になる。結局自分が生きなきゃ意味ねぇじゃねぇか」
「……そうだな。俺は大バカだ。だけどお前にもいつかこの意味が分かるさ。絶対に」
「あぁそう。多分俺には一生分からねぇ世界だが一応覚えておいてやるぜ?」
オーライは白衣の裏に隠し持っていたナイフを取り出し、動けないカラタの胸に突き立てる。
しかしカラタは最期の最期まで冷静で取り乱すことは無かった。だけどカラタはその時初めて――涙を流した。
「最期に故郷に残してきた妹の顔を見たかったな」
今までの思い出が走馬灯の様に蘇る。
故郷の事、オーライに仕向けられた罠。国を追放され、アルケニアに来た時の事。
その全てを鮮明に思い出せた。
(あばよ。みんな)
「さらばだ。勇敢なる戦士、カイズ・クラタガ」
ぐさり。オーライは突き立てたナイフを深々とカラタの胸に突き刺した。
そこで完全にカラタの意識は闇の底に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「魂の代弁石だ。俺からのせめてものの弔いだ。お前は死んでもゾンビにならんようにしてやる」
オーライは魂の代弁石を白衣の内ポケットに入れるとカラタの体を持ち上げ、運び出した。
「さてと、あいつらはどこへ行ったかなぁ?」
「師匠」
「あれ? ハルト。どうしたんだ?」
「師匠、ここは俺がやります。俺がケリをつけなければならないので」
「分かった。んじゃあ任せよう」
「分かりました」
ハルトは走って裕斗達が走って行った方向に走って行く。
「あいつらめ、俺に関わったらろくなことがないって事を思い知らせてやる」
カラタが敗北してしまった。
続きが気になる。カラタとオーライの会話が良かったと思った人はブックマーク、感想、評価等を下さると励みになり、モチベが向上して展開が面白くなる可能性があります。
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