第101話 幻の街と死闘20
「さて、少し休んだしそろそろ探索を再開するか」
「はいお兄ちゃん!」
俺とサキちゃんは休憩を終わりにし、部屋から出て廊下に出る。
廊下に出て先程長かった廊下を見てみるとあら不思議、遠い所か思ったより短いまであった。
それを見たらどっと疲れが増したような気がした。ガッカリ感と言うかこんな廊下に足止めくらってたのかと……。
俺は小さくため息を吐く。
この疲れによって魔力が少し削れたかもしれないな。魔力とは精神力のことであるからして精神的疲労によっても魔力ってのは減る。
「他の皆さんは大丈夫でしょうか?」
サキちゃんが心配そうに言う。
俺だって心配だ。だが俺はこの子の兄ちゃんだもんな。ここは自分の心に嘘をついてでもこの子を安心させなければならない。だから俺は本心ではなく願望を伝えることにした。
「大丈夫だ、カナタ、ユユ。あの二人は俺がこの世界に来てからすぐの頃からずっと一緒に戦ってきた仲だ。あいつらの強さはよく知っている。転んでもタダじゃ起きないやつだ。ルル、あいつとは一回しか組んだことは無いが元はドラゴン。俺達人間より強いはずだ。カラタさんは言わずもがなスキル発現者で今回のメンバーで一番強い人だと思う。パイプとは一回手合わせをしたが、単純な強さだけで言ったらパイプのが上だろう。そしてスイちゃん、スイちゃんなら俺よりサキちゃんの方が詳しいんじゃないか?」
これはサキちゃんを安心させるために紡いだ言葉であり、同時に自分の心を落ち着かせるための言葉でもあった。
俺だって人間だ。だから不安にもなる。その不安を紛らわせる為の言葉だった。と言うかどちらかと言うとそっちの方が大きいのかもしれない。サキちゃんを安心させるためと思いながらも内心では自分が落ち着きたいだけだったのかもしれない。
だが、そんな言葉がサキちゃんの心に響いたみたいで少し笑顔を見せて、
「……そうですね。お兄ちゃんがそんなに言うなら私、皆さんを信じてみようと思います!」
と言った。
本来は戦場で笑うってのは無いのかもしれないが、心にゆとりがあった方がいい場合だってある。
それに今は俺がチームメイトだ。何かあったらカバーすればいい。
そんなことを考えていると自然と俺の右手はサキちゃんの頭へと伸びていた。
その手はそのままサキちゃんの頭をポンポンと軽く撫でた。
サキちゃんは頭を撫でられた事による羞恥からか頬だけじゃなく顔全体、耳まで真っ赤になって上気していた。
その反応がとても可愛らしくて俺の撫でる手が止まらない。
撫でられているサキちゃんも恥ずかしそうに俯いているが、満更でもないが俺の撫でる手から逃げようとはしない。寧ろ心做しか頭を俺の手に押し付けて来ているような気がする。
「バカップル?」
突如として背後から声が聞こえてきた。しかも聞き覚えのある声だ。
この声は――
「か、カラタさん!?」
「さっきー!? 私でさえ頭を撫でると『もう、止めてよぉ〜。髪のセットが崩れちゃうでしょ?』って言って払ってくるのに! ヒロト、あなたどうやって触らせたの? もしかして……これ?」
そこに居たのはカラタさんスイちゃんペア。
カラタさんは少し面白いものを見た的な表情でこちらを見てきており、大変混乱しているご様子のスイちゃんはめちゃくちゃ似てるサキちゃんのモノマネをした後、俺に頭の撫で方を聞いてきたと思いきや急にあらぬ疑いを掛けてきて親指と人差し指をくっつけてお金のマークを作っていた。これ、この世界にもあったんだ。
「違う、これは違うんだ」
「そ、そうだよスイちゃん! 私は別に……」
「そう言いながらも離れようとしないのね」
スイちゃんはニヤニヤと揶揄う様な声で言った。するとサキちゃんは俺を突き飛ばすように離れると頭から湯気を出し始めた。あれなら茶を沸かせそうだな。
「ち、違うんだよスイちゃん! お兄ちゃんとはそんなんじゃ」
「そんなんって何? 私何も言ってな――………………え? 今なんて?」
先程までニヤニヤと揶揄いモードに入っていたスイちゃん。しかし急にそのスイちゃんは目を点にして固まってしまった。
俺も少し会話を思い出してみる。するとその原因になりそうな発言は直ぐに見つかった。
「え? お兄ちゃんとはそんなんじゃないよって」
「お、お兄ちゃんんんんんん?!」
再びサキちゃんからお兄ちゃんって言葉を聞くとスイちゃんは仰け反って驚いた。仰け反りすぎて尻餅を着いてしまうくらいに驚いたようだ。
そう言えばこの二人にとっては急に何も無かったのにサキちゃんが俺の事をお兄ちゃんって呼んだように思うだろう。
これはミスった。俺は良いけど、サキちゃんがこの二人に変に思われたりしないだろうか?
「お兄ちゃん……ねぇ。お兄ちゃん。良く師弟関係は親子だって言うから君ら二人が兄妹になるんだったら俺にとってはサキちゃんも弟子になる訳か。よし、たっぷり稽古を付けてやろう」
「……カラタさん。いくらあなただってサキちゃんは渡せませんねぇ」
「お、お兄ちゃん」
何か隣からキュンって言う効果音が聞こえた気がしたが、それは気にしないでおこう。
しかし気になるのはスイちゃんの顔が般若になっている点だ。その顔はヤバすぎる。怖ーよ!
「何あんた。もうさっきーの兄貴面してるの? さっきーは渡さないんだからぁッ!」
「それ、恋人面してる人に言う台詞じゃないの!?」
スイちゃんが魔法(物理)で攻撃してきた為、全力疾走で逃げる。
逃げるとそこに急に下から壁が生えてきて俺はぶつかりそうになる。
スイちゃんもそれには不審に思ったようで俺の隣で立ち止まった。
少しだけ叩いてみると非常に甲高い音が鳴ったので中は恐らく空洞だ。なら少しの攻撃で破壊できるかもしれない。
そう思って壁に手を付けたその瞬間、
「いやぁ。残念残念」
俺とスイちゃんの背後から突然の声。しかもこれも聞き覚えのある声だ。嫌な思い出しかない。
俺の一番の恐怖の対象である。その人物。
そう、今俺とスイちゃんの背後にいるのは、恐らく科学者。それもただの科学者じゃない。俺はそいつの力を知っている為、生唾をゴクリと飲む。
「こっち向いてくれないかぁ? 二人とも!」
俺達が固まっていると痺れを切らしたのかその人物は俺とスイちゃんの頭を鷲掴みにし、強引に自分の方へ顔を向けた。
そこに居たのはやはり予想通りの人物で、
「なんで君が生きてるんだろうねぇ。ハルトに始末させたはずなんだけどねぇ、ん?」
最悪の人物、オーライだった。




