090 厄介者への対策
ソメイヨシノはすっかり終わり、ウチの山桜が見ごろになる頃。
スモークウッドのリピーターが順調に増えていて、売り上げの伸びが良い。
妖精の隠れ里サイトで写真を撮った人達の口コミで、新しいお客さんの足も増えてきた。
多くの人がやって来ると、厄介な人も来る。
「良いじゃん、ちょっと位! 写真とか何も減らないし!」
受付を素通りして利用料を払わず、駐車場から直接妖精の隠れ里サイトへ行って、そのまま帰る人がチラホラ出てきた。
この辺一帯は私有地で、その事は目立つ形で看板を立てている。
厳しい事を言えば、利用料を払わずに居座られたら、業務妨害だし不法侵入だ。
そんな不審者から、お客さんを守るのも、俺の仕事だろう。
「これは敵ですカ?」
「そうだけど、きちんとお帰りいただく敵だ」
今回の人は、かなりエキサイトして喚いたので、警察の御用となってしまった。
普通な人との対応だって難しいのに、理屈の違う人とか、まともにとりあうのは無理だ。
今の所、デイキャンプの一番安い利用料を払ってもらったら、施設内で自由に過ごしてもらって構わない。
けれど、あの手の人は、金額が問題じゃ無いんだろう。
――皆がお金を払ってるのに、無料で行ける方法があるなら、そうしないと損。むしろ、そうできる自分は冴えている。
そんな理屈があるんじゃないだろうか? と邪推してしまう。
そして、これからお客さんの増加が見込めるなら、そういう人も増えてしまう訳で……。
「根本的にどうにかする必要にせまられてきた」
「お茶をお出ししまショウ」
「ガラテア、そのハーブティーはダメだ」
飲むと数時間の間、自意識を奪ってその時の事を記憶をさせないハーブティとか、危険過ぎる。
「天罰の1つ2つ下せば良いではないか。道理が通じねば、叩いて躾けるしかないじゃろ」
「どっちも、後手に回ってるよな。できれば先手を打って、悪さをしようとして来ても諦めて帰るような感じにしたいんだ」
「そうなると、魔動ドアかしら? あれって対象を選べるの? 謎解きをすれば開くタイプもあるけど、お客さんは嫌がりそうよ。面倒だもの」
魔力で動く自動ドアは、魔物が通れるかどうか、といった内容を予め設定できる。
しかし、その対象はおおざっぱで、一度設定すると変更ができない。
受付を済ませた人かどうかって判別は、ほぼ不可能だ。
お客さんが受付を済ませる度に設置し直せば可能だが、効率が悪すぎる。
特定のアイテムを持っていたら開くドアというのもできる。
すると今度は、そのアイテムを用意するのが大変だ。
さて、どうした物かと悩んでいたら、コズミンが俺の袖をちょいちょいと引っ張った。
どうしたんだ?
何、スライム達に任せて欲しいって?
コズミン達の後ろでは、沢山のスライム達が期待に満ちた雰囲気でフルフルと震えている。
そうかぁ、それなら、お願いしちゃおうね。
具体的にどんな内容か聞かせてもらえるかな?
……実現性の高い案だったので、コズミンの案を採用する事になった。




