088 事後報告は程々に
数日の山籠もりを堪能した山中さんが戻って来る。
「今年はイノシシの移動が早いね」
足が速いという意味では無い。
頭の良いイノシシは、猟師が山に入る猟期の間は、より奥地に籠ってやり過ごす。
猟期が終わり、猟師の気配がしなくなると、次第に移動し里の畑を荒らしまくる。
その移動する時期が例年より早いと、山中さんは感じ取った様だ。
イノシシは犬より鼻が良いと聞く。
ウチの畑にも来るのだろうか?
色んな作物の匂いがしているから、来そうだよな。
侵入して来ない様に、認識阻害のトラップはより強固にしよう。
そして『妖精の隠れ里』サイトの感想を訊く。
「凄いね。孫も連れてきたら喜びそうだよ。あれだけ変わり種の建物だと、役所の申請が大変だったんじゃない?」
ほう、役所への申請。
……申請かぁ。
「あ、マスター、やっちゃったの? するって事は、あれ全部自分でやったの? 業者を入れないで」
「ええ、はい。そのどっちもです」
「凄いけど、まずいね。測量してた時の担当がまだ移動してないと思うから、確認してもらうように連絡するよ」
そういう訳で、役所の担当に来てもらう事になった。
次の日。
コア達、敵襲の警報を鳴らしたい気持ちはわかるが、役所の人は敵じゃ無い。
やって来た担当の人達に妖精の隠れ里サイトを案内し、質問に答える。
素人工事なので図面は無いと堂々と答えたら、書類作りに忙しくなり始めた。
「本当はダメなんですけどね、もう、物があるから、次は事前に申請くださいね」
とりあえず、良い事になった。
ただ、基礎をうっていない建物だけど、キャンプ場の施設として活用するので固定資産税がかかりますとの旨を伝えて、彼等は帰っていった。
うん、稼ごう。
土地の税金といえば、山を畑にしてしまっている。
表に出すつもりは無いんだけれど、これはどうなるのだろうか?
「問題無いぞえ」
「それは、天狐の一族の超法規的措置でか?」
「妾達は無茶な事はしておらんのじゃがな。補助金を受け取る訳では無いじゃろう? なら問題無いのじゃ。逆に畑で登録してある土地に杉や松を植える方が問題じゃの」
あの辺は山地での登録だ。
天狐が言うには問題無いらしい。
もし問題があったら、手の者の人達に手続きなどの協力を頼もうと思う。
「ところで主殿よ。妾はしっかりと働いておるじゃろ?」
「ああ、そうだな」
「そろそろ休暇の1つもあって良いと思うのじゃ」
確かに、交代で休日を設けるのもできそうだな。
むしろ、ピーク期間に入る前に休みはとった方が良い。
ローテーションを組んでみるか。
そして、1番目に休日をとるのは、本人の強い希望で天狐となった。
……。
……。
……。
「いくら休日だからって、もうちょっとしっかりしろよ」
「何を今更なことを。主殿の言うたとおり、服は着ておろう」
朝、天狐が全裸でリビングに来て驚いた。
服を着ろと言ったら、インナーにTシャツだけで戻ってきた。
「もう、家の中なら良いけど、それで事務所に出てくるなよ」
「そうじゃな、不用意に呼びつけられたら妾の腰から『ぱんつ』がどこぞへ行ってしまうかもしれんでの。主殿こそ気を付けるのじゃぞ」
まったく、休む為なら全裸も辞さないとか、どんな脅しだよ。
やれやれだ。




