085 出だしはまずまず
「冬の間に山に結構手を入れたから、確認してもらって良いですか?」
「はいはい、どれどれ」
今年最初のお客さんである山中さんに例年とは違う事を説明する。
転移ゲートを探す際に作った山道や目印を載せて作った地図を取り出す。
その中の、畑と薪の乾燥エリアを示した。
ここは季節感の一切を無視した作物が生い茂っているし、クリスタルゴーレムが働いているしで、大っぴらに表にできない部分だ。
普段は認識阻害のトラップを起動して、関係者以外は入れないようにしている。
ただ、レイナスが言うには、感覚の鋭い猛者なら違和感を覚える者が居るそうだ。
そんな、ちょっと違う感じに気が付いたら、山中さんは予め話を通しておかないと、好奇心で意地でも入ろうとチャレンジするかもしれない。
なので、ちょっとした嘘設定を交えて説明をする。
コア達は絶対に突破させないと気合を入れているが、少しの手間で避けられるなら、それを惜しんではいけない。
「このエリアは、拓いて畑にしようかなと思って手を入れ始めたんだけど、まだ整備が不十分で危ないから近寄らない様にお願いします」
「ええっと……あの辺りか。わかったよ」
「あと、新しく『妖精の隠れ里』をイメージした場所を作ったから、良かったら入ってみて感想を聞かせてください」
「テントサイトの隣だね。行ってみるよ。これは彼女たちが来た関係?」
「まあ、そんな所です」
受付を済ませてロングステイの利用料を払うと、山中さんは山中へと消えて行った。
「こっちの世界にも探索者は居るのね。そんな匂いがしたわ」
「お客さんデス。ガラテアはそう覚えまシタ」
……山中さんは異世界人からもお墨付きになるとは、流石だな。
その後は、1日利用のグループが1組と、デイキャンプでバーベキューを目的とした家族が1組やって来る。
受付に居た3人に驚いていたが、「外国人だし、多少はね……?」って感じで受け入れてもらえた様だ。
ネットで今日の予約のあったお客さんは以上の3組だ。
後は、稀に飛び込みのお客さんがあるかどうかだろう。
毎年スロースタートだ。
わざわざこの時期に来てくれた、ありがたいお客さんにヒアリングをしつつ、ピークへの調整をしてゆく。
大きなピークの期間は2回ある。
山桜の時期からゴールデンウイークにかけてと、夏休み期間。
秋はそれなりにばらける。
そんな感じでまったりとしていたのは去年まで。
今年は勝負をかけるのだ。
まずは燻製の煙を狼煙に、バーベキュー家族のほっぺたを落としまくってやるのだ!




