084 キャンプ場のオープン
「マスター、今年もよろしく」
「山中さん、いらっしゃい。今年もよろしくお願いします」
キャンプ場がオープンして、早速常連の山中さんが来てくれた。
ここ10数年は毎年一番乗りの人だ。
山中さんはキャンプ好きというより、山籠もりの好きな人だ。
仕事は定年退職したが、現役時代は測量をして方々の野山を踏破したのだとか。
若い頃の逸話が強烈で、高校を卒業したらそのまま山に籠ったのだという。
道具は持たず着の身着のまま山に入り、獣を狩ったり山菜を採ったりしながら数年過ごしたというのだ。
そんなある日、イノシシやイタチの毛皮を全身にまとう山中さんを見た人が熊と勘違いして通報、猟師たちが派遣された。
危うく狩られそうになった山中さんは、その後久しぶりに会った家族に説得されたり泣き落としされたりして、大学へ進学する事となり山籠もりは終えたのだという。
「ほんとは死ぬまで居たかったんだけどね。俺を間違えて撃った人が傷害とか殺人とかの罪になったら悪いからさ」
そう語る山中さんは、その件以降、山に入るなら管理された場所で期間を守ってするようになったそうな。
そして、ウチの親父と意気投合して、常連さんになってくれた。
年に何度かやって来ては、思う存分に山籠もりを楽しんでくれている。
「新しく人を入れたんだ。外国の人かな?」
「親父の昔の伝手で留学してきたレイナスとガラテアとテンコです」
3人はそういう設定にした。
「いらっしゃい、よろしくお願いするわ」
レイナスは、ジーンズにワークシャツで、靴は安全靴タイプのブーツ。
女性がゴツい作業着を身に着けているのって、何となくグッと来るものがある。
「ガラテア、デス。よろしくお願いしマス」
ガラテアは、目元を覆っているマスクが外せないらしく、どんな服に着替えさせてもコスプレ感がいなめない。
どうしようか迷った。
いっそ、お客さんの前には出ないで、水晶のダンジョンの方で待機していてもらおうかとも。
けれど、そうしていても何かのタイミングで人前に出る事もあるかもしれないし、人型だから誤魔化しもしやすいだろうと思って、留学生として扱う事にした。
服は、古着を切ってパッチワークして、カントリー風のロングスカートを作り、白シャツと合わせている。
ゴーレムだから精密作業は得意だと、はりきって縫物をしていた。
手縫いなのに、ミシン以上の速さで驚いた。
そして、頭にはヘッドドレスというかボンネットを被ってマスクをあまり目立たない様にしている。
北の極地の生まれで眼が光りに弱い為、普段は隠しているという設定。
手作りエプロンとも合わせて、とても可愛い感じになった。
「よう来たの。楽しんでくりゃれ」
天狐は、口調がアレなので、古風かぶれの日系人とする事にした。
金髪だが和風美女な顔立ちなので説得力があると思う。
あると、良いな。
服装は巫女服を着てもらっている。
天狐経由でかなりお金に余裕はあるから、色んな服装が選べるなと思ったら、天狐の母親から打診があった。
神格を落とし、再修行中なので、仕事中は巫女服を着せる様にと。
その次の日には、手の者の人が農作物の集荷と一緒に持ってきた。
キャンプ場で巫女服とか、どうよ? と思ったが、管理人さんが作務衣を着ている所もあるから、良いのかなと納得する。
初め天狐は嫌がったが、一度袖を通したら気に入った様だ。
諦めの境地に入ったのかもしれない。
悪ノリして胸元をはだけさせていたので、厳重に注意した。
彼女は今の所、適度にサボりつつも真面目に働いている。
適度なら、手抜きもOKだと思う。




