079 天狐がウチに住む事になった
天狐の両親がやってきて、ウチで採れた作物を売ってもらう事になる。
話しはまとまり、会談はお開きとなった。
「主殿よ。大変に馳走になった」
「ああ、お粗末様でした」
「して娘よ。励むのじゃ」
「お父様、何を言うておるのじゃ?」
「我の元におれば、おぬしは怠けに過ぎる。主殿の元へ大使として駐する事を命じるゆえ、励むのじゃ」
「いや、待ってくれ。勝手に決められても困るんだが」
「主殿、手の者との仲介に、誰か駐する必要があるのじゃ。受け取る作物も偏りが出ぬように、予め知らせる必要があるでな。娘の事は一介の侍女と思うて使ってくだされ」
「そういう事なら仕方がないか」
天狐が住むとなると、小屋を造る必要があるな。
ヘラジカより大きいから、家には入れないだろう。
天狐が後ろで「嫌だ、働かないのじゃ」とか言っているなか、天狐の両親は光の柱に乗って帰っていった。
「うぅ、天は妾を見放したのじゃ」
「天狐が天に見放されたら、単なる狐になるのか?」
「それは空狐じゃ。そこまで格を落とされてはおらんが、信仰の繋がりを切られてしもうた。これから妾自身で魔力を集めねばならんのじゃ」
「つまり、自立しろって事か」
「無理じゃ!」
「情けない事を堂々と言うなよ」
「うぅ、魔力が無ければ『すまほ』が使えん。待ち受け専用の文鎮になってしまうんじゃ。主殿、助けてたもれ。見放さんでくりゃれ」
嘆いている原因は、すごくくだらない事だった。
天狐の両親にはウチで預かる事を了承したし、いつまでもウジウジされるのも困る。
どうせなら、積極的に働いてもらいたい。
「ああ、天狐がしっかり働くなら、何とかしてやるから、もう嘆くな」
「……よろしくお願いしますのじゃ」
「ねえ、マスター。私が言うのも何だけど、そんな約束して良いのかしら?」
「レイナスがって……。いや、相手は狐だぞ。アレは無い方向でソレだろう。もしもの時は、SSを使えば何とかなるかもしれないしな」
「そうかしらね……。じゃあ、テンコ。いつまで地面に転がっているの? 貴方が降らせた雨で泥だらけになっているじゃない。温泉で流すわよ。ほら、マスターもガラテアも手伝って」
そういう訳で、皆で温泉に入る事になった。
裸の付き合いは大切だな。
相手が狐だから、気兼ねしないでとても良い。
これから生活を共にしてゆくから、ウサギ達やスライム達にも天狐を紹介する。
「よろしくお願いするのじゃ」
彼らにも天狐は受け入れられた様だ。
さあ、皆でわいわい温泉に入ろう。
……。
……。
……。
「これは私も予想外だったわ」
「まさに面妖デス」
「……俺は何もしていないぞ」
「ええ、わかっているわ」
「ほれ、洗うてくれるのじゃろう? 手間が減る様に姿を変えたのじゃ。よろしく頼むえ」
洗い場の椅子には、和風な顔立ちで胸の大きな金髪美女が座っていた。
「もう、仕方ないわね。皆で洗い合いましょう」
「ボディーソープにハーブをブレンドしまシタ。試しまショウ」
……。
「マスター、諦めて」
「裸の付き合いは大切デス。マスターから教わりまシタ」
この後、皆でもみくちゃになって盛大に洗いっこをした。
この日、洗いっこ以上の事は無かったと、重ねて記す。




