075 話し合いはお茶から
春の嵐かと思ったら、金色の大きな狐の所為だった。
警告目的でサンダースピアを最大威力で放ったら、効いてしまった。
プスプスと煙を上げながら、天狐は落下する。
天狐自身が効かないって言うからしたのに……。
どうして俺は、いつも、こう――
「マスター、キツネはまだ生きているわ」
「反応、消えていまセン」
天狐は気絶している様で、ピクピクと痙攣をしている。
自分の軽率さを反省しつつ、回復薬をかけてやった。
すると、焦げたり禿げたりしていた天狐の毛が、綺麗な金色に戻る。
……これからどうしようか?
「マスターは対話しようと努力したわ。これはキツネの慢心ね。仕方が無い事よ」
「双方の同意がありまシタ。それに威嚇攻撃はキツネの方が先に行いまシタ。マスターは当然の処置デス」
「ありがとう、レイナス、ガラテア。そう言ってもらえると、気持ちが幾ばくか楽になるよ」
ダンジョンマスターの力で天候を操作したので、今は快晴の午後だ。
それなら何か仕事をしようかと思うが、時間的に中途半端。
それに、天狐を放置して作業するのも気が引ける。
こんな時は魔法レンガや各種属性レンガを作るに限るか。
地下に貯蔵庫を作れるし、沢山あって困る事は無い。
ポコポコとレンガを生み出す俺の横で、レイナスは何か魔道具を作っている。
ガラテアはお茶の準備をしつつ、天狐を警戒していた。
彼女は最近ハーブティ作りを始めて、色んな味を生み出している。
今日はどんな感じか、俺も楽しみだ。
「――ぅ、うぅ~ん……」
しばらくすると、天狐が呻き声を上げる。
「……ぴぎゃぁ!? こ、降参じゃ。妾を喰わんでくりゃれ!」
ビクンと跳ね起きた天狐は、頭を抱えて尻尾を丸めて震えている。
「落ち着け。そっちが敵対しないなら、俺もこれ以上何もしない」
「ほ、本当かや? 真に受けて油断した妾を喰らうつもりは無いのかえ?」
「ああ、まずは落ち着いて話しをしてみよう。ほら、このお茶を飲んで一息ついたらどうだ?」
ガラテアが淹れてくれたお茶を、天狐に差し出す。
湯呑では飲めそうになかったので、お菓子の皿に移した。
これなら温度も下がって丁度良いだろう。
「ほう、野に花が咲き広がる香りがするのう。春を先取りじゃ」
目を細めて、ペロペロと舌を出しお茶を舐め飲む天狐。
ガラテアのハーブティは天狐にも好評だ。
「今回は毒を入れていまセン」
「っ!? ぴぎゃ!」
「ガラテア、変な脅しをかけるな」
驚く天狐を見て、ガラテアの口元が『してやったり』といたずらっぽく上がる。
お茶を口に含むと、様々な花の香りが鼻に抜け、飲み干すと焚火の香りが舌に残る。
甘いお菓子が食べたくなる感じだ。
桃のドライフルーツを食べよう。
さて、お茶とお菓子を楽しみながら、天狐の事情を訊いてみようか。




