060 ダンジョンマスター
緊張感が高まると、あらゆる事に過剰に反応したりしないだろうか?
心臓の鼓動が辺りを揺るがす大音響に思えたり、誰かのくしゃみが落雷に思えたり。
「やっちゃったな……」
「……これは、どうしようも無いわね。不幸な事故よ」
そう、やってしまった。
ダンジョンを進む俺たちは、ゴツゴツした水晶の洞窟から一転し、滑らかに切り取られた様な部屋へと行きつく。
その部屋には、直径が1m程のオーブが浮いていた。
ドローンの様にふゆふよとする感じでは無く、空に浮かぶ月の様にしっかりとした安定感を持って浮いていた。
これは、レイナスから見てもモンスターなのかトラップなのか判断が付かなかった。
様子を見るか、手を出してみるかと悩んでいる最中。
オーブが鈍く光り出す。
それを見た俺は、緊張感が高まり過ぎた弊害なのか、無意識に剣を振るって斬撃を飛ばしていた。
『やられる前にやれ』の精神が反射的に働いた。
オーブは真っ二つに割れ、床に落ちてゴトリと音を立てる。
そして、その後は沈黙したままだ。
水晶のゴーレムの様に、自力でくっついて復活などする気配が無い。
このまま眺めていても変化が無さそうなので、触って確認してみる事にする。
レイナスには全力で障壁を張ってもらって、俺が手を出す事にした。
とは言っても、いきなり素手で触るのは怖かったので、AR棒で突いてみる。
ツンツン。
突いた瞬間に、これはヤバいと思った。
オーブの破片とAR棒が接触すると、頭の中にイメージ湧いて一気に理解する。
このオーブ、ダンジョンコアだった。
ダンジョンの管理運営をサポートする物で、パソコンで言うとCPUと制御アプリが一緒になったみたいな感じの物だ。
沢山あると、複数コアで作業が捗る的な。
そしてAR棒で突いた事により、その使用権限が俺に設定されてしまった。
「マスター、様子がおかしいけれど、どうしたのかしら?」
「これ、ダンジョンコアだった。それで、俺がダンジョンマスターになっちゃった」
「え? マスターは元からダンジョンマスターよね?」
「え?」
レイナスがおかしな事を言う。
どうやら彼女の認識では、俺はダンジョンマスターだった様だ。
魔法(彼女によると即時発動型のトラップ)を使うし、強力な斬撃を放つし、モンスターの出現をコントロールできるし、その彼らとも仲良くなれる。
なるほど、改めて聞くと、元々ダンジョンマスターだ、俺。




