056 魔法の鞄について
転移ゲートを発見したので、万全の準備をする為に一旦家へ戻る。
食料は、大部分をレイナスが持つ魔法の鞄へと入れてもらう事にした。
魔法の鞄は、オシャレで普通な革の鞄といった見た目だ。
大きさ的には、中高生が使う様なスクールバッグ程度。
しかし、その中は何十倍もの収納力があるそうだ。
「中身の時間が止まったりするのか?」
「流石にそこまでは無理ね。行商人や探索者の願う夢物語だわ」
定期的に中身のチェックをしないと、腐った物であふれてしまうのは、探索者の『あるあるネタ』らしい。
俺にも1つ欲しかったのだが、魔力が籠った素材でないと作れないのだとか。
より強力な魔力を内包した素材で作る程、内容量が多くなる。
となれば逆も言えて、魔力を持たないこちらの世界の布や革では、普通の鞄にしかならない。
「って事は、温泉セメントで箱を作ったら、魔法の鞄にならないか? あれも魔力が籠っているんだよな」
「そうね、できるかもしれないわ。やってみるわね」
段ボール箱に温泉セメントを塗り塗りしてゆくと、それにレイナスが指で溝を作る様にして何かの文様を書き込んでゆく。
空間拡張の魔法陣の様だ。
温泉セメントが硬化したら、結果を確認してみる。
およそ10倍程の内容量になった。
「すごいな。2リットルのペットボトルが60本は入りそうだ」
「ちゃんとした設備で作れば、更に10倍以上に容量を増やせるけど、今くらいでも丁度良いかもしれないわね」
「どういう事だ?」
「あまりに内容量が大きいと、出し入れに魔力を多く使うのよ。それに、慣れないと取り出しの時に中身を全部出してしまう事もあるわ」
そういった取り扱い上の理由から、最初の物は小容量の物が好ましいようだ。
試しに使ったが、俺自身は魔力が減った感覚に襲われたり取り出しに失敗したりはしなかった。
「さすがは、マスターね。たくましい魔力だわ」
「毎日レイナスに魔力の補給をしていても、まだまだ余裕があるみたいだな」
「うふふ、そうね。それじゃあ、ダンジョンに入る前に、しっかりと補給してもらうわ」
「はは、外はまだ明るいから、夜になってからな」
……。
温泉は常に湧き出しているから、24時間いつでも入れるから素晴らしい。
さて、俺も魔法の鞄ならぬ、魔法の箱を手に入れたので、食料の買い出しに行こう。
棒ラーメンやスキムミルク、おつまみ用のアソート豆菓子やフルーツグラノーラ等を買ってきた。
水も20リットル入るポリタンクを4つ用意する。
これらを2つに分けて、偏りが無い様に荷物を整えた。
そうすれば、どちらかの荷物がロストしても、何とかなるだろう。
俺が持つ魔法の箱は、大きめのリュックに入れた。
試しに背負った重さは、10kgも無い感じがした。
内容量に合わせて、重さは軽減される様だ。
朝早くに家を出る。
ウサギ達やスライム達が見送ってくれた。
どんな危険があるか分からないので、彼らには留守番を頼む。
はは、子ウサギ達よ、侵入者対策は任せろって?
最近は空中戦の特訓をしているのか、頼もしいな。
でも、怪我をしないように、気を付けておくれ。
俺が居ない間にも、新しくスライムが来ると思うから、コズミンは彼らの世話を頼む。
優先順位はあるかって?
そうだな、帰ってきたら真っ先に温泉に入りたいと思うから、その周りを綺麗にしてもらえると嬉しいな。
その時は、皆で入ろう。
それじゃ、暫く留守にするけど、皆よろしく頼む。
俺とレイナスは転移ゲートへと向かった。




