054 幻覚魔法について
スモモとキラリに子供が産まれた。
可愛い5頭だ。
子供が産まれた事で、スモモは気合が入っているのか、転移ゲートの探索に意欲的だ。
周囲をより安全にして、子ウサギを安心して育てられる環境にしたいのだろう。
この頃は、山道の整備と転移ゲートの捜索に時間を使っている。
畑の山の開墾は放置しても食うに困らない程度は進んでいたので一時中止。
薪の備蓄はもっと欲しいが、平年と同じ程度には既に確保している。
なので、今が捜索に集中する時だろう。
春のキャンプ場オープンまではまだ時間はあるが、その前に転移ゲート問題は何とかしておきたい。
もし、そこから来たモンスターがキャンプ場に迷い込んで来て、お客さんを怪我させてしまうのは避けたい事だ。
「う~ん、間に合いそうに無かったら、幻覚魔法かしら?」
「それは、どういう効果があるんだ?」
「そのままの意味で幻覚をみせるのだけれど……。そうね、実際に使ってみせるわ」
しばらく探索すれば、野生化したアライグマと遭遇した。
レイナスが何かをぶつぶつ唱えて手を前に出すと、ぶわっとした風圧みたいのが飛んで、アライグマに当たる。
こちらを警戒し立ち上がって威嚇するアライグマは、それを受けて盛大に転んだ。
そして再び立ち上がると、パントマイムみたいに腕を動かしてから、狭い範囲でグルグルと回り出す。
「出入り口の無い部屋に閉じ込められている幻覚をみせているわ」
「へえ、すごいな。どれくらい効果がもつんだ?」
「あまり長くは持たないわね。でも、特定の場所を行き止まりにみせるのは、かなり長持ちするわ」
「そうか。でも、いちいちモンスターにかけるんだったら、倒した方が早いよな」
「そこはダンジョントラップの応用で、侵入者に自動的に発動する魔道具を作れるわよ」
「そりゃ、すごいな。もしもの時は是非お願いするよ」
「ええ、かまわないわ。ただ……」
「ん? どうした?」
「こういうと、おねだりしているみたいなのだけれど、魔道具を作るのに魔力をすごく消費するのよ」
「……わかった、がんばる」
「ええ、お願いするわ」
▽▼▽
その日の晩。
レイナスはやたらクネクネとしなをつくりながらポーズをとり、髪の毛をふぁさぁっとした。
「どうした?」
「どうかしら?」
「今夜も綺麗だぞ」
「それだけ?」
「もっと褒めるなら、朝までするが」
「ありがと。でも、やっぱりマスターに幻覚魔法は効かないのね」
「……どんな幻覚をみせようとしたんだ?」
「……秘密よ」




