052 ウサギの妊娠と出産
寒さがいっそう厳しくなる。
スモモとキラリの毛並みも、よりモフモフになり、当社比2倍と言る程だ。
特にキラリはフクフクとしてより丸みをおびる。
ある日、キラリがおかしな行動をし始めた。
いきなり体毛にかみつき、その毛をむしり出したのだ。
ブチリ、ブチリと毛をむしり、それがホワホワと室内を漂う。
な、何事か!?
何か悪いものでも食べたのか?
とはいっても、ウチの野菜しか食べていないはずだ。
スモモの方はそんな様子も無いし、これはいったい……?
キラリが体毛を一心にむしる中、スモモはそれをせっせと集めていた。
いやに冷静な感じだ。
嫁が散らかしているから、そのお掃除なのか?
違う? 巣作り?
何!? キラリは妊娠していて、出産準備に巣を作りたい?
そこで、自分の体毛をむしって、それで温かい巣をつくりたいのか。
授乳の邪魔にならない様に、お腹の毛もむしっているって!?
なるほど、慌てる必要はないのか。
そうなると、俺は何をしてあげられるのだろうか?
子供たちが無事に産まれてくれるか心配だ。
キラリが落ち着いて出産する環境を用意してあげなくちゃ。
その為には、ええっと……ええっと……。
「何、マスターが慌てているのよ。スモモが落ち着いているんだから、マスターも見習いなさい」
「そうは言ってもな、ウチで初めての出産だぞ? 落ち着けるわけないだろ?」
「ウマだってイヌだって、周りの気が立っていたら落ち着いて出産もできないわ。ウサギだってそうでしょ。おとなしく距離をとって見守りなさい」
「そうか? そうなのか。レイナスは冷静だな」
「実家では馬を飼っているから、多少は慣れているつもりよ」
レイナスにも窘められたが、かといって、何かしないと落ち着かない。
なので、キラリが巣を作るという事から、その手伝いをしてあげる事にした。
温泉セメントでU字溝の様な物を作る。
それを逆さまにすれば、トンネル型の巣だ。
床部分には25℃前後の温熱レンガを敷き詰めて、やさしい床暖房に。
トンネルの左右にはカーテンをかけて、過剰な光を抑制。
室内には藁を入れて保温と通気と湿度のバランスを。
その中に、キラリは自分の毛を敷いていた。
ちなみに藁はスモモからのリクエストだ。
こんな感じで大丈夫か?
うん、硬いニンジンが欲しいのか?
味は苦いやつだな。
早速、畑に行ってそれっぽい種を出し、次の日には収穫。
何だか骨か? っていう程に硬いニンジンができた。
これで大丈夫か?
大丈夫らしい。
栄養の補給と伸びる歯を削る効果で丁度良いのか。
ストレスの解消にもなりそうだな。
後、何かできる事は……見守るだけか。
何とも、もどかしい。
それからしばらくすると、キラリは無事に出産した。
母子共に元気な様で、一安心だ!




