043 漬物とスライム
スライム達が仲間になって、生活がかなり向上した。
できれば持ちつ持たれつの関係になりたいので、彼らからの要望があれば、全力で応えてあげたいと思う。
そんなある日。
燻したニンジンと大根を取り出していた時の事。
1匹のスライムが物欲しそうに見ていた。
根菜の燻製はウサギ達の好物でもあるので、キラリに確認をしてみる。
あげても良いらしい。
コズミンにも、食べさせて大丈夫か聞いてみる。
新しく来た子で、大丈夫な様だ。
なので、それぞれ1本ずつ渡すと、体内に取り込んで日陰へと移動した。
ふるりふるりと、まったりうごめき味わっている様だ。
見ていて、ほっこりする。
1週間程が過ぎてふと気が付くと、あのスライムはまだ根菜の燻製を食べていた。
やけにゆっくりだ。
誰かが、新しくあげたのだろうか?
誰もあげていないらしい。
という事は、食べていたのでは無く、燻製の香りを楽しんでいたのだろうか。
だったら、中々に風流だ。
そう思っていたら、スライムが根菜の燻製を体から取り出し、俺に渡してくる。
くれる様なので、新たに燻した根菜を分けてあげた。
さて、スライムからもらった方の根菜の燻製。
持った感じが『たくあん』みたいに思える。
香りも、よりまろやかな感じで、鼻いっぱいに吸い込むと、ぐぅと腹が鳴った。
折角だから食べてみよう。
それぞれ1本ずつしかないので、スライスして皆で分ける。
口に入れると、まろやかな香りが鼻に抜ける。
燻製の煙で生じた若干刺激を覚える感じがなく、風味が良い。
木の香りを柔らかく濃縮した印象か。
噛むと食感は、たくあんに似てコリコリとした感じだ。
そして漬物の様に、うま味が増している。
これはお米にもお酒にも合うだろう。
チーズと一緒にもいけるかも。
「今夜は飲みましょう」
「そうだな。日本酒を出そう」
レイナスもウサギ達も1口で気に入った。
もちろん、俺もだ。
コズミンを通じて話をきくと、どうやらあのスライムは根菜の燻製を体内に取り込んで、発生した微生物を食べていたらしい。
それを増やして食べている間に発酵が進んで、漬物の様になったみたいだ。
偶然とは凄い物だ。
燻製の漬物はとても美味しかったので、漬物樽を用意してその中で発酵させてもらう事にする。
暗がりで落ち着けると、スライムからも好評だった。
レイナス、新しいのはまだ漬け終わって無いみたいだけど、ご飯をそんなに大量に抱えて、どうした?
「お酒にならないかしら?」
なるほど、米を発酵させて、酒にするのか。
なんて恐ろしい発想だろうか。
試してもらおう。
結果、アルコール発酵はせず、こうじ発酵をして、甘酒ができた。
とろ~り、まったりで凄く甘い!
「はぁ、体の芯から温まるわね」
そういうと、レイナスは空のカップをそっと突き出してくる。
「結果良しだな。……お替りが欲しいなら、ちゃんと言うように」
「うふふ、もう1杯くださいな」
さて、俺も、もう1杯飲もうか。
おかげさまで、日間ローファンタジーで3位になれました!
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