034 日本語と鍛錬
「犬も歩けば棒に当たる~」
「ハイ!」
タシンッ!
「論より証拠~」
タシンッ!
「花より団子~」
「ハ――」
タシンッ!
レイナスが文字を覚えるのに、『かるた』をやっている。
読み手は俺で、スモモとキラリも参加している。
2頭ともひらがなを覚えた様だ。
ウチの子かしこい。
「私だって、もうカタカナもマスターしたわ」
「うんうん、レイナスたん賢いでちゅね~」
「……今夜、覚悟なさい」
あ、ごめんなさい。
「手の速さで取り負けるのよね」
かなりの接戦だった。
「そうは言っても、レイナスは魔導士なのに身体能力はずいぶん高いよな」
彼女は重い物を苦としないし、フットワークも軽い。
日中は1人前以上の働きをしてくれるから、すごく助かっている。
「まあね。魔法を当てるのにも躱すのにも、動けなくちゃ魔導士としてやって行けないわ」
「魔法の障壁とかバリア的な物とか無いのか?」
「あるけれど、避けられるならそれに越した事は無いじゃない。例えば3歩動けば問題ないのに障壁魔法に固執するなんて馬鹿らしいわ。その分、攻撃に魔力をまわすべきよ」
ずいぶんとパワーファイターな思考だった。
「それにね、ただ防ぐだけなら盾を持った方が良いわ」
「なんか魔導士のイメージが崩れるな」
「むしろ、盾持ちの方が一般的よ。物理で防ぐのは強みだわ」
「じゃあ、なんでレイナスは盾を使わないんだ」
「決まってるじゃない。ロマンよ」
それなら仕方ないな。
レイナスが言うには、片手で殴るよりは両手で殴った方がコンビネーションの幅が広がる。
身軽になる分、避けやすいし、どうしても無理そうな時にはピンポイントで障壁を張ったら良い。
両手で魔法を出した方が強力になるので、盾があるとまごついてしまう。
そんなわけで、盾無しで活躍する魔導士は、強大な大魔導士の証であると。
「って事は、新人がイキがって盾を持たずにモンスターにやられたりとか」
「そう、よくある話ね。季節の変わり目の風物詩よ」
「それじゃあ、俺と初めて会った時はレイナスも盾を持ってたら何とかなったのか?」
「う~ん、何ともならなかったと思うわね。私はさっき言ったみたいに、盾が無い方がやりやすいし。それにあの雷撃だって、もっと威力が出たんでしょう?」
「まあ、そうだな。かなり手加減したから」
「そういう事よ。結局近づくまでに気絶させられていたわ」
ひょっとして、俺はかなり強い部類にいるのだろうか?
いやいや、勘違いしちゃダメだな。
素手なら野良猫にも勝てないはずだ。
まあ、戦わないけど。
▽▼▽
次の日の朝。
バシィ! ボカッ! ドッ! 等と衝撃音で目が覚めた。
レイナスは居ない。
スモモとキラリもだ。
敵襲か! ゴブリンがここまで!?
慌てて外に出ると、レイナスとスモモとキラリは戦っていた。
「あら、おはよう。早いわね……っと」
「何しているんだ?」
「鍛錬よ」
スモモとキラリを相手に、レイナスは肉弾戦をしていた。
「鍛錬って危ないだろ?」
「大丈夫よ。手加減してもらっているわ」
何でも、昨晩の話しで思う事があったようだ。
向上心があるのは良い事だ。
邪魔をしたら悪いな。
……俺も鍛えた方が良いかな?
鍛えて損は無いよな。
そういうわけで、俺も混ぜてもらった。
結果、初めて回復薬の恩恵にあずかったけど、素晴らしすぎるな、これは。
呻く程の打撲が、一気にスゥっと消えてゆくのは快感ですらある。
ちょっとクセになりそう。
「あら、そういうのがお好み?」
「いや、俺は至ってノーマルだ」
「そうなの。立場のある男性ほど、そういう志向になるって聞いた事があったのだけれど……。現に、トラキスの皇帝はそうよ」
意外な所で嫌な国際的事情を知ってしまった。
ああ、レイナスさんや、その不穏なワードで検索はしない様に。
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