029 ダンジョンの境界を越える
服を買いに、街へ出る。
ウチの土地を越えようかというタイミングで、レイナスが止めてくれと言った。
「どうしたんだ?」
「ここがダンジョンの境界の様ね」
これから先は自治体の管理する土地だ。
丁度、私道から公道に出る境目なので、ある程度分かりやすい感じになっている。
「前から気になってたんだけど、ウチの土地ってダンジョンなのか?」
「ええ、そうね。魔力は物凄く薄いのだけれど、ダンジョンのそれとわかるわ。同時に、この先は違うともね」
「う~ん、俺にはわからん」
「感覚的な物だものね。慣れないとそんな物じゃないかしら。探索者として経験を積むとね、フィールド型ダンジョンに足を踏み入れると『あ、入った』って感じるのよ。そのうち、見ただけでもわかる様になるわ」
「魔力じゃなくて、別の何かがある感じなのか?」
「そうね。きっとそうだと思うわ。それでね――」
レイナスはもじもじしながら俺の手を握る。
「魔素の希薄な『外』って、出たらどうなるか怖いのよ。だから、このまま私を引っ張ってもらえないかしら?」
手を握って、上目遣いをされたら、嫌は無いな。
しっかりと握り返して、ゆっくりと足を進める。
境界を過ぎ彼女を見ると、胸を押さえて深呼吸をしていた。
「きっと大丈夫だと思ってはいたけれど、いざとなると緊張するわね」
「落ち着いたか?」
「ええ、ありがとう。もう大丈夫よ」
そのまま手をつなぎ、車に戻る。
「ひょっとしたらね、境界を過ぎたとたんに、私は消えてしまうかもって思ったのよ」
「そうなのか。それなのに、よく出ようと思ったな」
「探索者だもの。やっぱり未知のその先は進みたくなるわ」
「難儀な性分だな」
「うふふ、そうやって道は拓かれてゆく物でしょ?」
確かにな。
地球も異世界も、そういう点で違いは無いらしい。
境界の外に出ても大丈夫とわかって、レイナスは更にテンションを上げていた。
車の移動も、窓全開で風を楽しんでいる。
凄く寒いんだけど、レイナスが楽しそうで何より。
こらこら、そんなに手を出しちゃダメだぞ。
「寒いわ!」
案の定、レイナスは凍えてしまって、震えている。
俺も手が凍えて、ハンドルとかシフトチェンジがきつくなってきたから、路肩に停めた。
窓を閉めさせて、エアコンを全力にする。
「マスター、ほら!」
「冷たいぞ! バカ!」
頬をねらって冷えた手を押し付けやがった。
「だって寒いんだもの」
「魔法で寒さを何とかする系のものは無いのか?」
「あるけど、魔力が勿体ないわ」
「……今夜もか?」
「うふふ」
レイナスが何やらつぶやくと、車内がほわんと暖かくなった。
魔法凄いな。




