020 自己紹介
緑の女性を家に招き、早めの夕食にする。
熱々鍋がお預けになるのも何なので、早速いただく事にする。
「はぁ、沁みるわ。命がね、みなぎる感じよ」
「それは何より。そんなに食べていなかったのか?」
「ええ、予定では2ヶ月は探索するつもりで、食料もそれ以上持ってきたのだけれど、見込みが甘かったわ。あ、そのハクサイをもっとちょうだい。ポン酢っていうソースも美味しいわね。好みだわ」
うむ、確かに農作業のクワモードで作ったハクサイは甘みが深い。
冬野菜は霜が降りると甘みが増すといわれるが、それにもまして美味しい。
ネギも、じゅるりとした柔らかさに喉の奥へと流れ込む様なうま味がある。
「ふぅ、もっと食べたいけれど、ちょっと休憩ね」
「この後はおじやにするつもりだけど、もっと野菜を食べたいか?」
「おじや? 何それ? 美味しそうね。良かったらそちらを頂きたいわ」
食がひと段落しておじやの準備をする。
その間に、もうちょっと話しを進めてみた。
「そう言えば、名前を聞いていなかったな」
「あら、私とした事が。食事をごちそうになったのに、名乗っていなかったわね」
そう言って緑の女性は椅子から立ち上がる。
「我こそは! 地界・魔界・天界に至るまで音に響かせる大魔導士! その名も、魔人・レイナス! 我が先に迷宮あれど、我が後に迷宮は無し。あまた全ての迷宮は我の手によって踏破される物であろう!」
ズババっとポーズを決めて、レイナスは名乗りを上げた。
おお、カッコいい。
スウェット姿だけれど、それでも堂に入っている感じだから、慣れているんだろう。
役者をしたら大成しそうだ。
俺の方も自己紹介する。
まあ、普通で無難な自己紹介だ。
お客さんとかには『マスター』と呼ばれているので、レイナスにもそう呼んでもらう事にする。
「なるほど、合点がいったわ。よろしくお願いするわね、マスター。まさか、階層主どころか、マスターだったなんてね」
ちょっと意味深な事を言って、レイナスは笑顔を浮かべた。
おじやができたんだけれど、俺はお酒が飲みたくなった。
飲むなら風呂に入った後でと決めているので、レイナスにはもうちょっと待ってもらう。
「ええ、まだお腹が落ち着いていないから、大丈夫よ。おかまいなく、ゆっくりしてちょうだい」
そういう事なので、のんびりお風呂に入る。
入浴中にレイナスの襲撃とかは無かった。
警戒し過ぎだっただろうか。
風呂から上がると、さっそく2人で乾杯をする。
今日は清酒を用意した。
「へえ、何て言うか、雑味が無くてスッキリしたお酒ね。飲みやすいわ」
「慣れない種類だとペースがおかしくなる事があるけど、大丈夫か?」
「そうね、今まで酔って不覚をとった事は無いから、大丈夫だと思うわ。ありがとう。それに、こんなに澄んだお酒なら、一気に飲んでしまうのは勿体無いわね。ゆっくりいただくわよ」
お酒とおじやを楽しみながら、レイナスとの夕食はまったりと過ぎてゆく。




