018 異世界がある可能性
古代のギリシアにトラキスという地域があったという。
そして、緑色の女性はそこの出身だという話だ。
これは、前世の聖戦士が云々かんぬんな人なのだろうか?
もうちょっと話を聞いてみる。
「えっと、トラキスは何て国の名前なの?」
「貴方、トラキスを知らないの? 魔人帝国と言えば誰でも知っているでしょう?」
はい、知りません。
「……知らないのね。そう、やっぱりこのダンジョンは発生してまだ日が浅いって事かしら。それにしては、深度は深いし魔物も強力だったわ」
ここに移り住んで相当の年月が経っているから、新しいって事は無いと思うが……。
それと、魔物が居たって言ったな。
ゴブリンに出会ってしまったのだろうか?
「えっと、魔物って言いました? この辺だと、どんなのが居ました?」
「そうね、洞窟のダンジョンだとゴーレム型が居たけれど、この迷いの森だとゴブリン・エンペラースキンと出会ったわ。もちろん、倒してやったけどね」
ドヤ顔でそう言う緑の女性。
ミノムシ状態なので、様にならない。
「あ、そう言えばゴブリン・エンペラースキンだけじゃ無かったわね。スカルマッシャーも居たわ」
スモモとキラリに一瞥をくれて、そう宣う緑の女性。
「ウチの子達をそんな物騒な名前で呼ばないでくれるか? スモモとキラリという素敵な名前が付いている」
「そ、そう? 良い名前ね? でも、あのウサギはスカルマッシャーで通っている魔獣よ?」
「ちょっと発育が良いだけで、可愛いウサギさんです」
「え? あ、はい。可愛いウサギさんで良いです。それは確かです」
分かってもらえたようで、何より。
これまでの話しをみると、この緑の女性は異世界から迷い込んでしまった系の人かもしれない。
ゲームとの関連も疑ったけど、ゲームの方にNPCを導入していなかった。
ましてや、こんなエロ美人な女性をモンスターとかで配置もしていない。
ゲームが現実化した人の線は無いだろう。
彼女が言うには、トラキスという場所からダンジョンに入って、そしてここに来たとの事だ。
それってウチの山に出入り口ができちゃったのだろうか?
それとも一方通行のワープとか?
訊いてみると、転移ゲートで繋がっているらしい。
山の中にあるのか? と訊いてみると、そのはずだけれど方向の感覚がめちゃくちゃに狂ったから詳しい場所はわからないと言う。
転移ゲートがあるとして、この女性の世界とこっちを行き来できるのだろうか?
できるらしい。
一応、その場で何度か試した様だ。
この話が本当なのかどうかを確かめるのには、ゲートを探す必要がある。
ウチの山は広いから、相当な時間がかかりそうだ。
ちょっと頭のおかしい女性なのか、本当の異世界人かは今すぐに判別がつかない。
なら、問題は棚上げしてしまおう。
それと、女性がミノムシ状態で転がっているのを眺めるのは精神衛生上良くない。
「あら、戒めを解いてくれるの? ありがとう」
「もう、暴れないでね」
「そうね、魔力も回復して無いし、素手でもかなわないみたいだから、肚を決めたわ。それに、話してみれば理知的だし害意も感じられないしね」
そう言ってウインクをする緑の女性だが、そういう事はミノムシ状態を解消してからしてくれるかな。
「ふう、解放感だわ。ありがとう」
絡まったタープから脱出した緑の女性は、大きく伸びをすると、お腹を盛大にぐ~と鳴らした。
「……食料が、もう底をついちゃったのよ」
「良かったら、食事にするか?」
「ええ、ご相伴にあずかるわ」
緑の女性を家に招く事にした。