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172 呪いの元へ

 玄関で挨拶をしたら、刀を抜き身で持ってくる、キレる20代の男に出迎えられた。

 ここの一族の者で、資料によると後継ぎ候補だとか。

 

「うるさいぞ! 貴様たち、何をしている!? ……な、何だ!?」

 

 その彼は、天狐の大狐姿を見て、たじろいでいる。

 あ、いや、俺とレイナスの事も交互に見ているから、魔王スタイルと魔女スタイルにも驚いているのもしれない。

 いずれにせよ、その気を取り戻す前に、俺から仕掛けた。

 

「何だじゃないだろう。アンタの伯母さんがウチに呪いをかけてきたんだ。

 何でそんな事をするんだ。何だはこっちだ!」

 

「それがどうかしたか?

 伯母様が何かを欲したのだろうが、それなら素直に差し出せば良い。

 貴様らのような者達の存在価値は、その程度だろう。

 それとも何か。難癖をつけて金を集りに来たわけだな」

 

 かなり傲慢な事を返された。

 雰囲気からするに、本心から言ってそうだ。

 周りが自分に逆らわない環境だから、そんな感じにねじれてしまったのだろうか。

 それと、俺達の横で転がっている彼の伯母様には気が付いていないので、足元も見えていないのかもしれない。

 

「それは強き存在に許された発言じゃのう、小さき者よ。

 小僧が言うたら、子犬が吠えているようにしか聞こえぬぞえ」

 

 天狐がカラカラと笑いながら言う。

 それを聞いた男は、顔を一瞬で真っ赤にすると、刀を振りかぶって踏み込んできた。

 

 キィン!

 

 鉄琴を叩いたような音がする。

 俺がAR棒で剣を出して放った斬撃で、彼の刀を切断した音だ。

 刀の重さが急に変わって、男はバランスを崩して転びそうになる。

 

「何ぃ?」


「だから、何じゃないよ。

 ちょっと煽られたからっていきなり切りかかるとか、沸点低すぎだろう。

 あと、その刀は切りかかったら折れるなんて、よっぽど手入れが粗末だったみたいだな」

 

 こう言いながら、更に斬撃を飛ばしてキンキンと刀を短く切ってゆく。

 すると、相手は手を切られたらたまらないと思ったのか、刀を手放した。

 

「……こんな事をして、タダで済むと思っているのか?」


 男がそんな事を言う。

 今更出るセリフがそれかと、ちょっと呆れた。

 

「呑気か。タダで済ませないから俺達がここまで来たんだが。

 こっちに落ち度がないのに、公権力を使って妨害をして、それが利かなくなったらお前の伯母がウチに呪いをかけに来たんだぞ。

 そんなの、力ない一般市民がやられたら、一方的にやられるだけだろう。

 そんな卑怯な手に出ておいて、むしろ、お前達がタダで済むと思っているのかどうか知りたいね」

 

「多少暴力で勝ったからと言って良い気にならない事だな。せいぜい、今の内にほざいていろ」


 ああ、この子はダメな子だな。

 俺としては、彼の伯母が何に手を出したのかを知らしめたかったのだが、根本的に理解する気が無さそうだ。

 ここは無視して建物の中に入ろうかと思っていると、また新たな気配がやってくる。

 今度は2人だ。

 車椅子に乗った老人と、それを押す初老の男。

 老人が知事の妻の父親で、ここのグループ企業をまとめる会長だそうだ。

 そして、初老の男が家宰のような立場の者らしい。

 

「これはいったいどういう事だ。説明しなさい」


「お爺様。お体にさわりますから、私に任せてください!」


「任せても解決しそうにないぞ。まずは無法の客人から話を聞こうじゃないか」


 そんな茶番じみたやりとりを始めた。

 これは、あれだ。

 血の気の多い若い奴がひと暴れして、それを諫める感じで年嵩の者が出て来て、話の主導権を取ろうとするやり方だ。

 だから、それには乗らないようにしないとな。

 爺さんの方は人生経験が豊富だろうから、油断すると良いようにあしらわれてしまいかねない。

 

「そっちが俺達を害そうとして刀を振るったから、それを叩き切ったまでだ。

 その理屈で、アンタの娘が俺達に呪いをかけようとしたから、それを消しにきただけだ。

 話はそれだけだから、後は好きにさせてもらうぞ」

 

「待て! 人の家に押し入って勝手にするなど、道理が通らんだろう」


「夜中にいきなりやってきて、呪いをかけるあんたの娘も道理が通らんよな。

 しかも、物を強請ゆすられたぞ。

 そっちが先にしているんだから、こっちはそれに倣うだけだ」

 

「後は、力の強弱じゃの。そっちの若い小僧は、存在価値の低い者は強者に従えと言うたぞえ。

 なら、お主らは、妾達に従わねばならん道理じゃろうに」


「そうよね。こちらは、これでも穏便にやっているつもりなのだけれど、そちらは破滅をお望みかしら?」


 そう言って、レイナスは雷の魔道具をまた鳴らした。

 俺達から一気に言い返されて、更には雷鳴を聞いて、爺さんはたじろんでいる。

 その後ろで車椅子を押していた家宰が、なにやらごそごそと動く。

 すると、『パンッ』と乾いた破裂が3つ鳴った。

 

「あら、豆まきの時期は過ぎたわよ」


 レイナスが小さい盾を手にしていた。

 俺達の2m程先で、豆のような物が3つ浮いて止まっている。

 家宰は拳銃を撃ったのだ。

 それを、レイナスの魔道具が防いだ。

 

「刃物は効かない、銃も効かない。

 娘婿の知事側の権力も効かなかったし、俺の後ろで伸びている奴らは俺1人にやられている訳だから、数の有利も効かない。

 そっちは、人、物、権力で敵わない訳だけど、仕掛ける相手を見誤ったって事を少しは理解してくれたか?」


 俺がこう言う間にも、家宰は銃を撃つが、その弾は全て魔道具に防がれている。

 銃を斬撃で切っても良かったけど、こうやって不思議な感じで防ぐのも示威行為になるだろう。

 

「もう、やめなさい」


 爺さんが、家宰を止める。

 

「しかし、旦那様。最後まで諦めるべきではないかと」


「そうです、お爺様。こんなやつらには身の程を知らせないと我が一族の名が軽く見られます」


「お前も、やめなさい。嵐が来た、そう思いなさい。

 物の怪の類かと思ったら、化生けしょうではあったようだ」


 爺さんは、俺にはちょっと理解できない理由で2人の事を諫めている。

 これは、そっちの行動に応酬しているだけだ。

 そもそも手を出されなければ、こちらから何かをする訳でもなかったのだから、嵐のような自然災害とは性質が違う。

 

「嵐じゃなくて、アンタらの自業自得だぞ」


「主殿や、事ここに来て尚、あの言いようじゃ。もう何をしても状況を理解させるのは無理じゃろう」


「そうよね。とりあえず彼等は行動不能にして、大元の呪いを先にどうにかした方が良いのではないかしら?」


「……うん、たしかに」


 言って聞かせても力を見せても、相手が理解できないなら時間の無駄だ。

 

 俺は強めの威圧を3人に放った。

 3人が気絶したのを確認して、レイナスが捕縛用の魔導具を使う。


「これで大丈夫ね」


「そうじゃの、さっさと行くぞえ」


 天狐はずんずんと先に進んで、呪いの元へと向かう。

 建物の中は、天狐が大狐のままで進める程に、廊下が広かった

 

 呪いの元は、何となく家の中心部になるのかなと思う。

 廊下を幾つか曲がると、その場所に近くなる。

 嫌な感じが、より一層濃くなった。

 

 そして、最後の角を曲がると、土蔵にあるようなの重厚な扉があった。

 その扉からは、黒い蔦が伸びてウネウネと蠢いている。

 この先が目的の呪いの元だろう。

 

 天狐がうっぷんを晴らすかのように、重厚な扉をバカンと打ち破った。

 

 そして、部屋の中に入ると、そこは小学校の教室くらいの広さがある土間だった。

 中心には棒が4本立っていて、注連縄が結ばれている。

 地鎮祭を行う際の祭場に似ていた。

 

「これじゃな」


「へえ、地球の呪いって、こんな感じなのね。異世界とはまた系統が違うわ」


「そうなのか」


「ええ、異世界だと魔法陣式が一般的だけど、これは違うわよね、テンコ?」


「そうじゃな。これは情念を呪いに変える物じゃからの。

 レイナスに見せてもろうた異世界の呪のように体系だってはおらん。

 その分、厄介なのじゃ。早うに散らすに限るの」

 

 天狐は注連縄を咥えてブチリと千切る。

 すると、地面にうねっていた黒い蔦が、ぶわっと辺り一面に広がった。

 それは爆発したような勢いで部屋をも埋め尽くす。

 

 あれ、これは呪いが外に広がってダメなパターンでは? って思ったら、バチバチと火花のような物が壁際で発生した。

 

「障壁よ。呪いも突き詰めれば魔力の1種だもの。こうやって抑えこめるわ」

 

「そして、妾がその間に呪いを喰らうという算段じゃ」


 レイナスの張った障壁が黒い蔦を抑えている間に、天狐がそれを食べてゆく。

 あんなのを食べてお腹が壊れないだろうかと、ちょっと心配になってしまった。

 とは言え、魔力を食べる行為みたいだから、たぶん大丈夫なのだろう。

 

 そうして、黒い蔦が全部無くなったあとには、不思議な黒い繭があった。

 大きさは、直径が1m程度かな。

 

「これが呪いの正体か?」


「うむ、知らん。これは初めて見るの」


「知らんって……。よほど特殊な呪いって事か?」


「そうかも知れんし、違うかもしれんのじゃ。

 妾たちに察知されずに、長い間効果を発揮していたようじゃからの。

 変質したのかもしれん」

 

「ねえ、テンコ。これってその呪いが具現化している感じではないかしら?」


 レイナスが、何だかうずうずしながら黒い繭に手を伸ばそうとしている。

 探索好きの興味が湧いているようだ。

 

「完全では無いが、そう言っても良い感じじゃの」


「天狐が人間の身体になるときに、受肉する感じに近いのか?」


「原理は違うじゃろうが、現象としては似ておる」


「なるほどね。マスター、これは持って帰って良いかしら?」


 珍しい物なら手に入れて調べたい気持ちはわかるが、元が呪いだからな。

 どうなんだろうか。

 

「レイナスは、異世界でこういうのも集めていたのか?」


「ええ、沢山」


 そうか、沢山か。

 

「天狐は持って帰って大丈夫かと思うか?」


「そうじゃの、問題があったとて、レイナスなら封印できようし、妾とコズミンで消し去る事もできるじゃろう」


 そういう事なので、持って帰る事にする。

 この黒い繭に手を触れた瞬間、俺の頭の中に黒いイメージが押し寄せてきた。


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