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171 お宅訪問

 天狐が俺たちと別れる事になるかもしれないと言う理由は、醜悪な所業が原因だった。

 知事の妻の下半身に纏わりついていた黒い蔦は、ある種の呪術の成果だと言う。

 それは、いわゆる座敷童を人工的に作りあげる物だとか。

 その過程で多くの命を弄んで生み出す、負の奇跡だそうだ。

 これは、周囲の幸運を絡め盗って、呪元に集めて運を良くする性質があるという。

 

「方法はいくつかあるのじゃ。

 けれど、どれも最後には罪なき幼子を犠牲にする。

 妾の一族は、それを見つけ次第消し去る事を使命の1つとしておるのじゃ。

 呪法を知る者の命も含めての」

 

 呪いとは、おまじないのように些細なものから、無関係な人達を巻き込む事で成り立つ物など、様々なようだ。

 天狐達の中では、当人同士が呪いの掛け合いをするのは問題無いのだが、無関係な子供を犠牲にするのは絶対に許せない行為の1つで、それに関係した者は必ず報いを受けさせるのだとか。


 だから、人の命を消したとなっては、人の社会に居られないだろうという理屈か。

 長く生きてきた天狐たちの中で、そういう考えがあるのは否定しないけど、だからと言って距離をおこうとするのは絶対にダメだよな。

 家族なんだから、困難があったら一緒に臨みたいものだ。

 

「それじゃあ、まずその呪いみたいなやつを解決しよう。どんな準備が必要だ?」

 

「準備なぞ必要ない。乗り込んで呪いを喰らいつくせば良いのじゃ」

 

「その呪いを消すのに、何処に乗り込んだら良いんだ?」


「うむ、あやつの家か実家じゃろうの。土地に根を張る類の呪いじゃ」


 そういう事なので、俺たちは相手の本拠地へと乗り込む事にした。

 下手に時間をかけようものなら、天狐が勝手に1人で飛び出してしまいそうだったので、即決だ。

 

 目標は、呪いの元を断つのと、相手が何に対してちょっかいをかけてきたのかを知らしめる事。

 

 同行メンバーは、俺と天狐とレイナス。

 それと、コアが1体。

 レイナスは、異世界のダンジョンを多数攻略している事から、不思議な事態にも対応できるだろうと同行する事になった。

 今は、久しぶりにとんがり帽子のミニスカ魔女スタイルだ。

 

「この1年で装備も強化したのよ。サポートは任せてちょうだい」


 前年比150%アップだそうだ。

 ちなみに、俺はさっきの魔王スタイルのままだ。

 俺向けの魔道具とか無いの? って聞いたら、重戦車に自動車の樹脂バンパーをつける行為みたいな事を言われた。

 

「私の場合は、軽戦車に通信機や追加装甲を付ける感じね」


 よく分からないが、何となく理解しておく。

 

 他の皆は留守番だ。

 攻めている時にカウンターを喰らうのは一番避けたいから、拠点の防衛は大切だ。

 

 久しぶりに天狐が大狐の姿になって夜空を駆ける。

 俺とレイナスはその背中に乗っていた。

 そして、あの2人は寝袋に入れてロープでグルグル巻きにして運んでいる。

 もしかしたら、訪れた先で何かを取引する場合のカードになるだろう。

 

 

「見えてきたぞえ」


 まずは、知事の家に向かった。

 そこは、高級住宅地の1画だった。

 立派な家が立ち並ぶそこに、一際異彩を放つ家がある。

 他の人から見たら、3階建ての綺麗な家なのかもしえないが、俺からすると黒い蔦でびっしりと覆われた禍々しい家だった。

 夏場の省エネのグリーンカーテンならぬ、ブラックカーテンだ。

 なお、やっている事もブラックな模様。

 

 天狐は、その屋上に降り立つ。

 

「呪いの気は淀んでおるが、ここが元ではないようじゃの」


「確かに、嫌な所だけど見た目だけって感じだな」


 感覚的には、残留臭気が酷いけど、臭いの発生源では無い感じだ。

 なので、知事の妻の実家の方へ行く事にした。

 

 そこから暫く離れると、広い田園地帯になった。

 その一帯に、とても大きな住宅がある。

 庭の広さが森レベルなのだが、周囲をぐるっと塀が囲っているので、管理された土地だと分かった。

 更に、掘りが作られ、水が張られている。

 まるで城跡のような場所だった。

 

 天狐の手の者の情報によると、知事の妻の実家は、地元の超有力企業を創業した一族の本家だという。

 関連企業が地域の産業を牛耳る『企業城下町』のような自治体が、近隣に幾つもあるのだとか。

 その本拠地に相応しい、要塞のような場所だ。

 

 塀の中には幾つか和風の建築物があるが、その中で1番大きな建物の中から非常に嫌な感じがしてくる。

 

「天狐、あそこか?」


「うむ、そのようじゃ」


「そうなのね。それじゃあ、派手に行くのかしら?」


「周りに他の民家は無いみたいだし、やるか」


「そうじゃの。奴らが何の尻尾を踏みつけたのかを知らしめてやるとしよう」


 俺とレイナスは、雷の魔道具を盛大に鳴らす。

 1度や2度と言わず、しつこい位に鳴らしまくった。

 すると、眼下の建物から明かりが灯される。

 

 それを確認して、天狐が大きな声で威嚇をした。

 

「キェォロ゛ォォォォ!」

 

 雷鳴に負けない、大狐の威嚇声だ。

 天狐は威嚇声を上げて、夜空を駆ける。

 俺達も、同時に雷の魔道具を鳴らし続けた。

 

 すると、地上から強い光が放たれる。

 サーチライトか。

 そんなのもあるんだな。


「主殿や。そろそろ降りるが、地上がちと邪魔じゃ」


 嫌な感じのする建物の前に降りたいのだが、そこには何人かの人が集まって、上空の様子を見ている。

 確かにこれは邪魔だ。

 天狐が問答無用で蹴散らさないのは、俺の意図を組んでくれているのだろう。

 今の天狐に踏みつけられたら、大概の人は潰れて死ぬ。

 できるだけ無用の殺人はして欲しく無いので、ここは俺が着地スペースを作るべきだ。

 

 1度、上空5m程度まで飛行高度を下げてもらって、俺は天狐の背中から飛び降りる。

 

「んなっ? 何だ貴様は!?」


「お礼参りだ。随分な仕打ちを受けたからな」


 俺は誰何の声に返事をして仁王立ちする。

 すると、俺を排除しようと、何人もが次々に飛びかかってきた。

 それを躱しつつ、相手の襟首を無造作に掴んで放り投げる。

 技なんて関係無い、力業だ。

 

 周りの人達をポンポン投げていると、「何だ? コラッ」とか「やんのか? おい!」と威勢の良い声が響く。

 警備員というよりは、若い衆って感じの人達だ。

 一般人からすると、暴力を生業にしていたり社会に反する活動とかをしている人達かもしれない。

 

 ここで威圧を使えば簡単に事は済むと思うけど、それは敢えてしない。

 一瞬で気絶されると、何が起こったか理解できないだろう。

 そうなると、どんな存在にちょっかいを掛けたのかを理解できないと思うんだ。

 できるだけ、こちらは『やられたらやり返す』の精神であることを理解してもらいたい。

 それが、結果的にウチの皆を守る事に繋がると思うからね。

 だから、そっちが先に乗り込んで来たのだから、やり返されても仕方が無いよね。

 

 こんな感じで、集まって来る人を投げていたら、次第に彼等は疲労困憊といった様子になった。

 柔道とかでそうとう鍛えていないと、投げ飛ばされるのって凄くスタミナを消費するのだ。

 彼等の勢いが無くなったら、天狐に手を振ってこの場に降りてきてもらう。

 着地した天狐は、気絶したままの2人をどさっと地面に投げ捨てた。

 

「例の嫌な感じは、この建物の中からしてくるよな」


「そうじゃの。乗り込むぞえ」


「まあ、待て。どんな時も挨拶は大切だ」


 俺は建物のドアをドンドンと叩いて家人へと知らせた。

 今更、建物の中にこっそり侵入する意味は無いし、更に注意をひいて、どんな者がやってきたのかを知らしめるつもりだ。

 

「こんばんは~。お宅の娘さんに呪いをかけられたんで、それの大元を処分しに来ました~」


 ドアを壊す勢いで叩いている俺が面白かったのか、天狐も建物の壁をダンダンと叩き始めた。

 

「ほれ、不逞の娘を持ってきたやったのじゃ。製造責任者は引き取りに来るがよかろう」


 コアが天狐の『くらうど』から受け取った情報によると、父親が存命だそうだ。

 

「面白そうね。私もやるわ」


 レイナスは魔法の鞄から何やら先端に球体のついた棒をとりだした。

 それを、建物の基礎部分に当てる。

 そして、魔力を込めると、ヴヴヴヴゥ~っと鈍く振動した。

 それが共鳴したのか、建物全体が揺れ始め、屋根もガタガタと鳴り始める。

 

 そんな感じで、俺達が玄関先で騒いでいると、中から誰かが走って来る気配があった。

 

「うるさいぞ! 貴様たち、何をしている!?」


 20代前半の男が、ガウン姿で現れた。

 確か情報によると、知事の妻の甥っこだ。

 

 そして、彼の手には刀がひと振り。

 刃の厚みがあり、時代がかった太刀で、美術品ではなく実用品とした趣がある。

 

 既に抜いてやってくるとは、いきなりヤル気マックスだ。

 よし、気合を入れよう。


本年も、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] レイナスさんの挨拶は姉歯物件だったら大変な事になりそうだな。
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