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170 ダンジョンの奥にいる魔王ごっこ

 夜の天樹の森に侵入する不審車。

 それに対し、俺はダンジョンマスターの力でもって、崖へと突っ込ませる事に成功した。

 

 不可抗力である。

 

 不審車は、何度も道を改変しても諦めずに突入してきたので、崖に落ちてもなお諦めないのだろう。

 仕方が無いので、それの対応をする事にした。

 

 ウチの皆がやる気満点なので、それを上手く誘導させるのもマスターの仕事と言えるだろうか。

 

 不審車の近くに、皆で転移で移動する。

 

 さっそく、魔力多めチームが雷の魔道具を起動させる。

 光った瞬間に、鼓膜を破らんばかりの破裂音が響く。

 

 突然の落雷に、不審車内では「ぎゃー何なのよ? 何とかしなさいよ!」とか「奥様、危険ですから座ってください」とか言い合っているのが聞こえた。

 

 落雷を1段落させると、エルフ達による演奏が始まる。

 

 ――どどんっ! どどんっ! どこどこどこどこ、どどんっ!

 

 重厚な太鼓の音が鳴り響く。

 ここは山奥なので、近所迷惑を気にする必要は無い。

 

 ――どんこ、どんこ、どどんこどんこ!

 

 太鼓のリズムが、次第に早い物へとかわってゆく。

 音楽のコンセプトは、荒ぶる神の登場シーンらしい。

 

 不審車内では、「何なのよ? 本当に何なのよ!?」「わかりません!」「分かってなさいよ! お勉強が取り柄でしょう!」と言い合っていた。

 

 エルフ達の叩く太鼓のビートはさらに激しくなってゆく。

 めちゃくちゃに叩いているように見えて、しっかりとリズムが揃っているのが凄い。

 まだ氷点下になる山の中で、彼女達は汗を煌めかせて太鼓を叩いていた。

 とても活き活きとしている。

 それは、見ている俺も嬉しかった。

 

 激しいリズムがピタッと止まると、ダンジョンマスターが登場の合図だ。

 再び雷の魔道具を作動させてもらって、その間に地面をこんもりと高くして舞台を作る。

 

 コアの制御で怪しい光のスポットライトを作ると、俺は舞台の上に転移した。

 

「我が領域に、許可なく侵入せんとする不届きものよ。何用か?」


 マントがばさぁっとたなびくように、杖を持った手をふるう。

 音声は、ダンジョン内アナウンスを使っているので、不審車にも届いているはずだ。

 

 当の不審車にも、コア達がスポットライトを当てているので、高低差から車内の様子がよく見えた。

 60前後の女性と40前後の男性が、ポカーンとした表情をしていた。

 

 いつの間にか、レイナスが隣に来ていた。

 

「我が偉大なるマスターが問いかけているのよ? 答えなさい!」


 身体のラインにぴったりとはりつくようなワンピースを着て、なんだかフサフサの襟巻を首に巻いている。

 その手には長~いキセルが。

 あ、これは悪女スタイルだ。

 

 ラキも舞台の上にいた。

 

「何だ何だ? 言葉がわからないのか? とんだおバカだぞ」


 露出度高めの、特撮ヒーロー物女性幹部っぽい恰好をしている。

 棘のついた黒っぽいレザーのレオタード系タイツで、胸元を特に強調している。

 

 天狐も同じノリで舞台に上がる。

 

「言うてわからぬとなれば、力で訊くしかないかのう?」

 

 和服を大胆に着崩して胸元にはサラシを巻いて、アメリカ映画に出てくるYAKUZAの姐さんスタイルだ。

 

 アミリアとマミリアの双子は、舞台の下でゴーレムに担がれていた。

 

「「よ~し、やっちゃえ、ゴーレム!」」


 2人は何だかロリっぽい、魔法少女のライバルみたいな服装だ。

 

 不審車を囲むゴーレムの中に、1人だけ黒い全身タイツを着たスタイルの良い女の子がいるけれど、あれはガラテアか?


「イーッ!」


 戦闘員役って事か!?

 

 皆、ノリノリである。

 

 スモモとキラリも俺の横でプイプイと言いながら、足ダンダンをしている。

 首にはマントを縛ってもらったみたいで、それがヒラヒラして可愛い。

 因みに、悪の組織のボスが『あいつを消せ』とか言う時に撫でているペットみたいな役割だとか。

 

 ウチの皆はノリノリだけど、不審車の2人はノリが悪い。

 突然の展開について来れない様子で、車内で固まったままだ。

 郷に入っては郷に従えという事を、是非とも理解して欲しい。

 

 あまり時間をかけるのも嫌なので、俺は彼等に決断を迫る事にした。

 

「今から10数える間に、車から出てこい。

 そうしないのなら、話す意図無しと判断して強制排除する。

 10、9、8――」

 

 カウントダウンが進む毎に、ゴーレム達がジリジリと不審車に近づく。

 残りが3になる頃、運転席の男性が出てくる。

 

「な、何だ? 貴様らは!?」


 とても随分な一言だった。

 他人ひと様の土地に押し入ってきて、第一声がそれだとか。

 ちょっと魔力を込めた威圧をしつつ、言い返す。

 

「我は何用かとだけ問うている。答えよ」


 男性は少し苦しい表情をすると、車内の女性に視線を送った。

 すると、女性の方も外に出てきた。

 

「ここに、良い化粧水があるって聞いたから、わざわざ来てあげたのよ!

 貴方はすっこんでなさいっ!」

 

 これには色々驚いた。

 まず、女性の方には、今の強さの威圧が効かないみたいだ。

 そして、何よりも驚いたのは、彼女の下半身に、黒くておぞましい雰囲気を漂わせる蔦のような物がびっしりと絡みついている。

 その黒い蔦は、うねうねとうごめき、何かを新たに絡めとろうとしていた。

 

 感覚的に俺は『臭い』と思った。

 ゲロ以下の臭いがプンプンしてくる。

 

 俺が鼻を押さえそうなっていると、天狐が『すまほ』を取り出し、その画面を見せてきた。

 その画面には、何人かの顔写真が映されている。

 不審な2人の顔もあった。

 

 知事の妻と、その秘書だとか。

 

「調べさせたのじゃ。『くらうど』に情報があるで、主殿も参照できるぞえ」


 ウチが知事へと反撃する為に、天狐の手の者たちが近辺を調べてくれていたとの事。

 彼等も今回の事には、ずいぶんと腹に据えかねていたようだ。

 その元凶を眼下に眺め、俺は気合を入れ直す。

 腕をバッと振って雷の魔道具を起動してもらい、言葉を発する。

 

「化粧水? 貴様らに施す物など、塵の1つも無い。

 招かれざる曲者である貴様らこそが、退くがよい!」

 

 かなり強めに言ってみるが、知事の妻はまったく怯まない。

 

「何よ!? 私にそんな事を言って良いと思っているわけ!?

 もういい! 貴方なんて知らないわ!」


 知事の妻が、そう金切り声を上げると、彼女は自分の親指を噛む。

 かなり強く噛んだみたいで、血が流れだした。

 

 すると、彼女の下半身に纏わりついていた黒い蔦が、ぶわっと辺り一面に広がる。

 

「いかん!」


 天狐が鋭く声を上げる。

 俺は、相手を気絶させるために威圧を放つ。

 知事の妻は倒れ、秘書は泡を吹いた。

 けれど、黒い蔦は勢いを落とさず広がり続ける。

 

 ゴーレムたちとガラテアに接触しようとする瞬間、闇夜が広がった。

 

「ふう、ありがとうコズミン」


 陰で控えていたコズミンが、身体を広げて黒い蔦を覆ってくれた。

 暴れる黒い蔦は、コズミンがうにょんうにょんとする度に勢いが落ちてゆく。

 そして、やがては消滅した。

 

 残されるのは、気絶した秘書と知事の妻。

 この後始末をどうつけようかと悩んでいると、天狐がかつて無い程に怒気をはらんでいる事に気が付く。

 

「どうした、天狐」


「主殿や、別れを告げなければならぬやもしれん」


「いや、本当にいきなりどうした?」


「見過ごせぬ案件ができたのじゃ。やもすると、人を大勢始末する事になる」

 

 それは穏やかではなさそうだ。

 かといって、はいそうですかと放置もできるわけがない。

 

「認めない。けど、まずはちゃんと事情を話せ。別れは認めないけど」


「はは、主殿は我儘なおのこじゃの」

 

 そう言った後の天狐に事情を聞いたら、確かにそれは見過ごす事のできない醜悪な物だった。

 それを解決するために、急ぐ事にした。

 


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