169 夜の襲撃者
ウチへの行き過ぎた妨害行為をした者達が、説明にやってきた。
地方法務局の部長と、市長と、市役所の担当部署の課長だ。
課長は上から脅されてした事みたいなので、情状酌量の余地があった。
けれど、部長と市長はダメだった。
なので『良い子』になってもらう事にした。
魔力を放出しながらするお話合いは、効果抜群だった。
更に、3人は黒いモヤの様な物を纏っていたので、それを厄除け大豆で払って、皆に帰ってもらって、翌日。
朝のニュースで部長と市長が取り上げられていた。
どうやらこの2人は、動画の投稿サイトに過去の悪事を洗いざらい告白して、その後で警察に出頭したらしい。
何でサイトに動画をアップしたのかというと、外部にこの事を明らかにしないままに警察に行けば、知事が圧力をかけてもみ消そうとするからだと語っていた。
自分達も悪いが知事が更に悪いと、声高に主張していた。
巨悪に反旗を翻した子悪党って感じで、ネット上では面白がっている人も多いみたいだ。
この動画は、大手のサイトにアップされたのだけれど、すぐさま削除されたという。
けれど、消せば増えるの法則が発動したのか、色んなサイトに拡散されたり、別タイトルで他の人が再アップしたりとかの甲斐があって、俺もみる事ができた。
警察の方も、いきなりの出頭で混乱している事だろう。
被害届が無いと、現行犯でもない限りは逮捕案件にならない事も多いと聞く。
狂言で自分を逮捕させて、後で事実無根だ何だと騒ぎ立てる者もいるかもしれないので、その辺は警察も慎重にならざるを得ないだろう。
現在は、署内で任意に事情を訊いている所だと、関係者への取材でわかったとニュースは伝えていた。
そしてキャスターは、今後は各方面にも厳しい追及がなされるでしょうとの言葉で締める。
あの2人は、転んでもただでは起きないというか、死なばもろともというか、ずいぶんと思いきった事をするものだなぁと、呆れ半分と感心半分の気持ちになった。
知事に対してはどんな対応をするべきか悩んでいたけど、彼等の行動でよりセンセーショナルになったので、少し溜飲が下がる。
仮に、俺が知事から受けた妨害をネットなどで告発した所で、頭のおかしい人扱いされるのが関の山だ。
それを、公的な立場のある2人がする事で、非常に大きなものとなった。
これで知事は無事でいられないだろうな。
すでに、やんわりと色んな方面から苦言を呈されていただろうに、今朝のこの騒動で完全に見限っちゃう偉い人は多いのではないだろうか。
朝にそんな事があり、その日の晩。
不審な車が、ウチの私道へと入って来た。
来客の予定は無い。
この先はキャンプ場ですよとの案内や、Uターンするスペースもわかりやすく設けているから、迷って来てしまった人では無いだろう。
コア達にサーチして貰う。
中年の男性と、老年手前の女性の2人組。
知らない人のようだ。
そして、敵意が満点の様子。
おそらく、知事夫妻関連の人だろう。
相手をするのが面倒そうなので、ダンジョン改変で大幅な曲道を作り、知らずにUターンして山を下りてもらう事にする。
ぐぐっと道を変えて暫くすると、不審車はそのまま進んで下って行った。
夜中の山道では、アップダウンの変化も含めて、案外と気が付かないものである。
慣れていなければ、尚更だ。
また暫くすると、不審車は戻ってきた。
きっと、ナビで現在地がおかしいと気が付いたのだろう。
今度も微妙に道の作りを変えて、そのまま進んでお帰り頂く。
これを何回か繰り返していると、まるでスライドパズルのロールボール版をしている感じになった。
道になる溝が彫ってあるスライドパネルを操作しボールを転がして、ゴールまで導くタイプのアレだ。
ただし、今回は決してゴールまでたどり着かせない。
だから、タワーディフェンスタイプのパズルゲームだろうか。
うん、まるで侵略してくる冒険者を撃退する、ゲームのダンジョンマスターになった気分だ。
はは、どんどん来るが良い、侵略者よ。
俺はイジワルなダンジョンマスターだから、無駄に車の走行距離を重ねさせて維持費を浪費させてやるぞ。
侵略者は、排ガスを発生させるだけのマシーンと化すのだ!
長い時間、延々と走りまわった挙句、道が無くなっている事を知って愕然とするが良い!
……って、無駄に排ガスをまき散らされるのも、なんか嫌だな。
ふむ、コア達、敷地内なら綺麗にする手立てがあると。
地球規模で考えたら、焼け石に水だけど、気分の問題だから、後で詳しく教えてくれ。
そんな感じで、軽くワインを飲みながら気楽に侵入者対応をしていた。
▽▼▽
ああ、ちょっと遊び過ぎたかもしれない。
不審車が全然諦めようとしないので、徐々に道を険しくしていた。
それで、本来ならあるはずのない崖なんかも作って調子に乗っていたら、車が突っ込んでしまった。
慌てて『跳躍抑制トラップ』を置いたので、衝撃はしっかり制御されて大事故は免れた。
車内はおそらく、縁石に乗り上げてしまった程度の揺れだったと思われる。
コア達に車内をサーチしてもらえば、大した怪我などをしていないとわかった。
一安心だ。
ほっと一息つくと、部屋の中が賑やかな事に気が付く。
「結果は、2時間35分でした!」
「ああっ! おしい! あと6分早ければ!」
「誰か当たった?」
「あっ! 私! 2時間30分台、当たったよ! やったぁ」
エルフ達が盛り上がっていた。
どうやら、不審車がいつまで粘るかを皆で賭けていたようだ。
賭け事は、ほどほどにな。
エキサイトし過ぎなければ禁止しないから。
というか、どうやって不審車の状況を知ったのだろうか?
ふむ、コア達が情報をガラテアに伝えて、ガラテアはそれをリアルタイムで3D画像にしてプロジェクターで映していたのか。
画面は黎明期の3Dゲーム並みだけれど、俺が変化させた地形も即座に反映させていたみたいで、すごく分かりやすい感じだった。
家庭用のロースペックPCでそんな事ができるなんて、とっても未来だな。
ハイスペックな物に入れ替えたら、もっとすごい事ができるようになるのだろうか?
ちょうど、共有PCを増やそうと思っていたから、試してみよう。
よし、現実逃避は一旦終了。
不審車とその中の人達をどうするべきか。
敵意があるのは解っているけれど、その理由は明らかにした方が良いだろうか。
ほぼ、今朝のニュース関連だと思うけど、思い込みで決めつけも良く無い。
面倒だけれど、話を聞くしかないだろう。
それで、その内容しだいでどうするか決めるべきか。
しぶしぶ謝罪に来たなら、とりあえずその事実だけを認知する。
敵意が強いから、その線は望み薄だけれど。
危害を加える気まんまんで来たのなら、返りうちだな。
よし、さっさと転移して、済ませるか。
……コア達、ダンジョンマスターの威厳を示す場面だって?
こっそりやっている魔王ごっこの成果を見せる時だって言っても、なぁ。
あれは、キミたちとの触れ合いの一環なんだけどなぁ。
ガラテアが、折りたたまれた布をそっと差し出していた。
受け取って広げると、襟の高いマントと怪しい感じのローブだった。
「杖もありマス」
魔王が持っているっぽい、先に水晶のような物がついた杖も準備されていた。
それらを装備すると、如何にも怪しい男の誕生だ。
いやいや、なにかのイベントの時ならいざ知らず、夜の山中で、こんな姿の男が現れたら違った意味で恐怖ではなかろうか?
そう考えると、アリ……なのか?
俺がそんな逡巡をしている間に、エルフ達がBGMを奏でるのだと楽器を持ち出す。
だったら天狐が雷でも落とそうかと言い出したが、そっちで張り合うな。
天候操作系は、極力禁止だ。
こんな事もあろうかと、レイナスは雷に見える電撃の魔道具を作っておいたのか。
「いったい、なんでそんな物を?」
「ハロウィンやコスプレの時に使えそうって思ったのよ」
「それなら仕方が無い」
見せてもらうと、かなりの大迫力のエフェクトが発生した。
こんな事があっちゃったから、使うしかないか。
魔力を沢山使うみたいだから、エルフ以外の皆にはこっちを担当してもらおう。
春の営業再開の準備も大詰めで、みんなのテンションが高い。
それに影響されて、今夜もやる気に満ちている。
皆のやる気を削ぐのは、マスターとして避けたいところだ。
ならば、丁度良い感じで誘導してやる必要があるだろう。
俺は考え方を変えて、皆のお愉しみの為に、不審車のところへ赴く事にした。




