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166 天樹の森の影響はお客さんにもあった

 この前作ったヘチマ化粧水は、建築家の都築さんにもお裾分けをしていた。

 そして後日、効果のほどを尋ねたら、スマホの写真を見せてもらう。

 そこには、美魔女的な女性が映っていた。

 

「妻です」


 なるほど、美男美女の夫婦か。

 そして、画面を切り替えると、数歳は若い女性が映っていた。

 

「義妹さんですか?」


「いえ、頂いた化粧水の効果です」


 都築さんは高収入な人なので、奥さんのスキンケアにも十分なお金をかけてもらっているという。

 また、ウチの作物を食べて、コンディションは良好だと、前に話してくれた。

 そのうえで更に短期間に変化が出るとか、ヘチマ化粧水は恐ろしい性能だ。

 

「今はとても嬉しい反面、もしこの化粧水が今後入手困難になると思ったら……。マスターさん、どうか、今後ともよろしくお願いいたします!」


 とても深々と頭をさげられた。

 夫が妻に望む美容の在り方と、妻が自身で行う美容の在り方には、深い溝があると聞く。

 都築さん夫妻も、外からは窺い知れない何かがあるのだろう。

 

 なるべく定期的にヘチマ化粧水をお裾分けする事にした。

 

 ウチの作物を食べたり生成品を利用したりすると、身体に良い方向で作用する事が実感できた。

 なので、喫茶スペースのメニューをもっと増やしてみようかと、研究会を開いた。

 

 ガラテアとラキと、アミリアとマミリアとが中心になって行う。

 

 甘いお菓子系が中心だけれど、しょっぱ味のある物も作る。

 その品評を、皆でわいわいとしてるときに、電話がかかってきた。

 

 相手は常連の山中さんだった。

 オフシーズンに珍しい。

 

 通話の内容は、見てもらいたい物があるから、時間を都合して欲しいという物だった。

 問題ないので、来てもらう。

 

 どうやら、麓近くで電話をかけてくれたみたいで、1時間もしないうちに山中さんはやってきた。

 

 様変わりした管理棟を見て、一瞬驚いた表情だったけれど、同時に納得したような顔を見せる山中さん。

 中に招き、お茶とお菓子をふるまう。

 

「それで、山中さん。見せたい物ってなんですか?」


「ああ、うん。これなんだよ」

 

 そう言うと、山中さんは紙の包みのような物を取り出し、開く。

 そこには髪の毛が何本かあった。

 

 何だろうと思って注目すると、その髪の毛が、黒い部分と白い部分とで縞々だったのだ。

 1本の毛で、交互に色が変わっていた。

 

「ここ10年でまだら白髪が増えていたんだけどね。昨年はちょっと違うって感じたんだ」


 毛の1本をつまみ取り、山中さんは話し出す。

 

「この、黒い部分なんだけれど、ここが伸びている時期が天樹の森に来ている時期と合致するんだ。白い部分は、他の所に行っている時期だね」


 山中さんは、ウチに遊びに来てくれるときは、だいたい1~2週間の期間で集中して滞在する。

 

 だから、数ミリ程の間隔で、黒い部分ができていた。

 これはつまり、ウチに滞在するだけでも、魔力の影響が体にあらわれるって事なのだろうか。

 

 1年前は、この辺一帯は全然魔素の無い土地だった。

 けれど、俺がダンジョンマスターになって、改変を行って手を加えたり、作物や草木を沢山生やしたりした結果、徐々に敷地内の魔力濃度が高くなってきているのだ。

 

 その影響が、山中さんの体調の変化にも表れているのかもしれない。

 

「それとね、持久力測定は毎シーズン行っていて、ここ数年は現状維持か下降線だったんだけれど、去年だけ上昇したんだよ」


 山中さんは、健康維持の一環で、心拍数を一定に保ちながらランニングマシンに乗る測定を定期的に行っているという。

 その結果が、今年になって良くなったので、これは何かあると思ったようだ。

 

「山もさ、一昨年と全然違っているよね。ずいぶん昔なんだけれど、似たような体験をした事があるんだ」


 それから山中さんが語るには、山ごもりを楽しんでいたある時期、天に光る蛇が飛んでゆくの見た事があるという。

 それを見てからというもの、その山の様子がガラリと変わってしまって、植生や動物の動きがそれまでと一変したのだとか。

 

 俺は、天狐の方をチラリと見れば、彼女は黙ってうなずいた。

 山を司る神様関連で何かがあると、そういう事があるみたいだな。

 

「これが、良い知らせなのか悪い知らせなのかは、僕には分からないけれど、マスターには伝えておかなくちゃと思ったんだ」

 

 山中さんは力のこもった目つきで、こちらを見てきた。

 何かを探っていると言うよりは、確信めいた真剣さがうかがえた。

 

 さて、山中さんには、どこまでの事を伝えようか。

 下手をすると、一昨年までの俺よりもウチの山の状況を熟知している山中さんだ。

 いい加減な誤魔化しを言ったらすぐバレる。

 

 かといって、お客さんである事も忘れてはならない。

 楽しみを損なうのは避けたいし、距離を詰めすぎるのも良く無い。

 

 なので、一般的に明らかにしようとしている部分から、もう1歩ほど踏み込んだ事を伝える事にした。

 

「山中さん、実はね、天樹様のご加護があるんだ」


「天樹様っていうと、山頂の1本杉だよね」


「そうです。いわゆる、パワースポットみたいな感じかな。そういった事もあって、俺自身にも変化が起こってるんですよ」


 ちょっと因果関係がバラバラだけれど、事実から反している事は言っていない。

 さすがに、神様達が実存しているとか、俺がダンジョンマスターだとか、異世界と繋がっているとかは、全部を明らかにするのは早急だろう。

 冗談にしか思われない。

 

 なので、不思議な事が起こっているとだけ伝えてみる。

 身体に変化が起こったのは、山中さんだけじゃなく、俺もそうだと伝えた。

 その証拠として、1つパフォーマンスをする。

 

 山中さんにトランプを適当に出してもらって、そのカードを当てるというものだ。

 1回だけなら、まぐれもあるけど、10回、100回と連続して当たれば、まぐれとは言えない。

 俺に起こっている変化を証明する根拠になると思う。

 コア達が絶好調で働いてくれる。

 

 トリックも疑われるだろうけれど、それをミス無く繰り返せるようになったのも、ウチがパワースポットみたいになった影響だと主張できた。

 

「いやぁ、凄いね。まるで超能力みたいだ。トリックだとしても卓越し過ぎていて異常なくらいだね」


「それもこれも、不思議なご加護って感じですよ」


「それは僕もあやかりたいね。今度来る時は天樹様にお供えを持って来る事にするよ」


 山に籠って、理解の及ばない者に遭遇した経験のある山中さんだからか、この説明で納得してくれた。

 しかも、好意的に受け止めてくれたみたいだ。

 

「あ、そうそう、俺は視力の方も上がっているんだけど、山中さんの方はどうですか?」


「あれ? 言われてみれば、最近は老眼鏡を使ってなかった気がするかな」

 

 言われて気が付いたといった様子で、山中さんはスマホを取り出すと一番小さな文字に設定を変えて操作の確認をし始めた。

 

「たしかに、僕も視力が回復しているね。こんな細かい文字までクッキリ見えるよ。驚きだなぁ」


 老眼の原因の1つに、眼の中のピントを合わせる筋肉が衰えている事があると聞く。

 髪の毛の色素細胞が活発になった事と、視力が回復した事をあわせると、ウチに滞在するとアンチエイジング効果があると推測できた。

 

「昔はウチの山で山伏が修行をしていたみたいだし、霊験あらたかだったんでしょうね。それが現代に蘇ったんですよ、きっと」


 ダメ押し的に、神秘的な事だと主張しておく。


「ああ、そういう伝承が残っているみたいだもんね。僕も山伏になって仙術を身につけられるかな。なんてね、あはは」


 山で長い事過ごせば、変な勘違いや説明のしようが無い不思議な事に遭遇する事がある。

 施設の内容がガラリと急に変わったり、山の様子や細かい起伏が変化したりする事も、知ってて深入りしないでくれるみたいで、一安心だ。

 

 そういう事が起こりうる状態だと知っていれば、それ以上は踏み込まない方が良いのかもしれないねと、山中さんは納得した様子だった。


 その後は、俺達がニセコへ行った話をしたり、山中さんのお孫さんの話をしたりと、おしゃべりをした。


 さて。

 ウチの皆の身体能力がグングンと向上していたのは把握していたけれど、お客さんにも影響が出ていたのは驚きだった。

 今までとは違ったキャンプ場の新たな可能性が想像できて、ちょっとワクワクする。

 

 それと、今回の事でウチの秘密の中で明らかにできるラインをはっきり引けたのは良かったと思う。

 

 神がかり的な神秘がある。

 パワースポット的なご利益がある。

 

 そんな話は他の土地でもよく耳にするのだから、ウチがその1つになってもおかしくは無いだろう。

 無いと良いな。

 

 あまりオカルト的に宣伝するのは避けたいと思うけれど、ロマンを感じられる程度ならPRしてみようかな、なんて思ったりしたのだった。


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