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164 ヘチマで化粧水

 妖精の隠れ里サイトを拡張し、改築もした。

 これで、施設内の改善はひと段落かな。

 

 静かなテントサイトと、賑やかアクティビティサイト、妖精の隠れ里サイトは、それぞれに適度な距離を設けたから、雰囲気が邪魔をする事も少ないと思う。

 昨年と比べるとガラリと変わったけれど、工事を頑張りましたと主張しよう。

 建築家の都築さんにも来てもらって、図面を引いたり関係部署への申請をしてもらったりした。

 

 今回のお土産には、ヒョウタンで熟成したブランデーを沢山持って帰ってもらう事にする。

 

「いつもありがとうございます。最近、こちらのお酒は一部で評判なんですよ」


 都築さんは、大きな建築事務所を抱えているだけあって、富裕層や意思決定権を持つ人との交流もあるという。

 ワイナリーやホームバーを設計する時に、お酒の話もよく出るそうだ。

 そして、そんな人達にウチのお酒は人気が出ていると教えてくれた。

 生の声が聞けて嬉しいかぎりだ。

 

 そういえば、都築さんには今回のお酒以外にも、様々な作物を持って帰ってもらっている。

 たぶん、家族以外ではウチの作物を一番多く食べているはずだ。

 身体に何か変化とかはあったのだろうか。

 天狐の両親は、病が治る程に良い物だと言っていたが……。

 

「そうですね、私の体調も良いんですが、それ以上に妻の肌の艶が良くなりました」

 

 超高級化粧水や乳液が裸足で逃げ出すレベルらしい。

 ウチの皆は元から美人だったり可愛かったりするからそこには気が付かなかった。

 って、これは実際に口に出したら、甚だ失礼だろうから、気を付けよう。

 

「それは良かった。だったら、実際にウチで化粧水を作ったら凄い事になるかな?」


「……恐ろしい事になるかもしれませんね」


 イケおじな都築さんが、ゴクリと生唾を飲み込む。

 妻が綺麗になるのが恐ろしいのか、できた化粧水をねだられるのが恐ろしいのか。

 

 実際に、ウチで作って売るとなると、薬事法とかが大変だから、お裾分けレベルにしか配れないかな。

 

 とりあえず、気になったので作ってみる事にした。

 ネットで調べると、ヘチマの化粧水が簡単みたいなのでやってみる。

 

 化粧水に最適なヘチマよ出てこいって念じて、種を召喚。

 それを植えて、蔦が絡まるポールも立てる。

 

 翌日、にょきにょきと蔦は伸び、ヘチマも生っていた。

 

 その茎を切り、先を一升瓶に入れてしばし様子をみる。

 ポタポタと水が滴り始め、次第にチョロチョロと流れだした。

 相当に水分を吸い上げているみたいだ。

 

「マスター、毒の抽出かしら?」


「ちがうぞ、レイナス。化粧水を作ろうと思っているんだ」


 俺が作業をしていると、レイナスが様子を見に来た。

 

「それは、つまり、ごめんなさい。これから気を付けるわ」

 

 あれ、気を付けるって、何をだ?

 ひょっとして、レイナスのお肌のコンディションについて不満があるからしているって思われているのか。

 

「レイナス、待ってほしい。これはあくまで好奇心で作っているんだ。レイナスはとても美人だし、肌だって綺麗だぞ」


「……そうかしら?」


「そうだとも。その肌を、ぜひ見せてくれないか?」


 そう言って、レイナスの手を恭しく握り上げる。

 そして、すりすりとさすってみた。

 

「すごくスベスベだ」

 

「て、手は恥ずかしいわ。私は探索者で外に出てばかりだから、荒れ放題だもの」


 珍しく、レイナスが頬を染めて恥ずかしがる。

 彼女は荒れていると言うが、しっとりとしているし、指にささくれなんかもできていない。

 力仕事をしてもらう事も多いのに、柔らかくてしなやかな手だった。

 

 毎日温泉に入っているから、全身がしっとりお肌なのだけれど、彼女なりに気になる部分があるのだろう。

 

「俺はレイナスの手が荒れているなんて思っていないし、綺麗で好きな手だよ。でも、レイナスがそう思っているなら、これから作る化粧水も使ってみるか?」


「そ、そうね、使わせてもらうわ。でも、変ね。意識しちゃうと、手を繋ぐのも恥ずかしいわ」


 確かに、俺もむずむずウズウズとする感じがして恥ずかしい。

 

 こんな感じでイチャイチャしつつ手を繋いでヘチマを見守ると、かなりの水が溜まっていった。

 成長速度が凄く早いから、水の吸い上げも早い様だ。

 毛細管現象以外の何かが働いているのだろう。

 きっと魔法的な何かかな。

 

 別の瓶と置き換えて、取れた水を化粧水に加工する。

 

「そういえば、魔道具で蒸留とか分留とかできる物ってあるのか?」


「そうね、目的の物だけを抽出する魔道具があるわ」


「そうなんだ。異世界も化学が進んでいるんだな」


「錬金術は盛んだものね。でも、私がこっちで勉強した事をもとに改良をしたから、精度が格段に上がっているのよ」


 レイナスは、任せてちょうだいとウィンクをした。


「そういえば、レイナスは魔道具も作れるんだよな。これは楽しみだ」


 早速、家に帰って、レイナスの工房へと向かう。

 ちなみにだが、部屋が沢山余っているので、皆の趣味部屋や仕事部屋を徐々に作っている。

 

 さて。

 まずはウチで搾り取った油から、グリセリンを抽出してもらう。

 そして、お酒から99%以上の濃度のエタノールも。

 

 ヘチマ水は、色んな成分が入っているので、ゴミだけをフィルタリングした。

 

 それらを混ぜて、化粧水にする。

 以上、シンプルだ。

 メイドイン、ウチ100%。

 

 さっそく、手につけてみる。

 ちょっと手に取り、ペチペチと。

 

 何となく、しっとりぺっとりする感じかな?

 

「問題無いと思うけど、レイナスも試してみてくれるか?」


「ええ、そうね。せっかくマスターが用意してくれたのだもの」


 そう言って、レイナスは両手を俺の前に出す。

 化粧水を塗ってくれって事だね。

 

 手に取り、レイナスの肌へ沁み込ませるように、塗る。

 いくぶんか、ピチピチっとした感じが上がったかな?

 

「うふふ。なんだか、こそばゆいわね」


「まあ、普通は自分でつける物だからな。気恥ずかしい気もするし」


「あら、私の手が恥ずかしいって事かしら。酷いわ」


「そういう意味じゃ無いだろ。さっきはレイナスの方こそ恥ずかしがっていたのに、今はずいぶんと余裕だな」


「ええ、落ち着いたもの。肚をくくったとも言うわね」


 そう言うと、レイナスは貴族然として姿勢を正した。

 こういう切り替えの速さも彼女の良い部分だな。

 より魅力的になってくれるように、丹念にヘチマ化粧水を擦り込んだ。

 

 そして、翌日。

 顔を洗う時に気が付いた。

 

 俺の手が、物凄くスベスベとしている。

 レイナスの手を確認すると、まるで生まれ変わったみたいな肌だった。

 

「これは、想像以上だな」


「凄いわね。ポーションを使っても、ここまで綺麗にはならないわよ」


「レイナスは、何か変な感じとかしていないか?」


「ええ、全く無いわ。だから、全身に塗ってもらっても良いかしら?」


 髪の毛をかき上げる仕草をして、そうアピールされてしまったので、俺に嫌は無い。

 顔から、背中から、かかとまで、全身にヘチマ化粧水を塗った。

 そのお返しに、俺の方も塗ってもらう。

 

 ペチペチ感が結構楽しかった。

 

 更に翌日。


 俺もレイナスも、まるで赤ちゃんの肌のようになっていた。

 するするプニプニのモチモチ肌だ。

 

「マスター、10歳は若くなった感じね。イケメンよ」


「ありがとう。レイナスも、言葉が見つからないな。なんだか、輝いて見える」


 実際に、輝いていたのかもしれない。

 油でぎらつく感じとは全く違う。

 肌がきめ細かいので光が乱反射しているかのようだったのだ。

 

「そうだ、何かと思ったら、ニセコに行った時のパウダースノーみたいなんだ。まさに、雪のような清らかな肌だな」


「あら、嬉しい。じゃあ、この新雪にシュプールを描いてくれるかしら?」


 お誘いなので、軽くスキンシップをした。

 ……朝なので、軽くである。

 

 俺とレイナスの雰囲気が目に見えて違うから、他の皆も興味をもったみたいだ。

 なので、ヘチマ化粧水を量産する事になる。

 保存は利かないので、少量を使い切る必要があるが、皆で分ければ問題なく使えるだろう。

 

 皆の美しさが更に上がって、家の中が明るくなったと思える程になる。

 ガラテアと天狐にも効果があったみたいで良かった。

 

 特に天狐は、そのへんを自分で調整できるらしいが、それよりも良い状態になったので、不思議がっていた。

 まあ、ウチで作った物だから、そういう不思議もあるだろう。

 

 皆が露天風呂でヘチマ化粧水の効果を確認し合っている時。

 スライムが1体、興味深そうにヘチマ化粧水を見ていた。

 

 使ってみたいのか?

 違う、飲んでみたいのか。

 

 飲むための物じゃないけれど、身体に悪い物でもないから、飲ませてあげる。

 味は少しだけ甘めに感じるかもしれないけれど、どうだ?

 

 うん、よくわからないけれど、元気になる感じか。

 それは良かった。

 ヘチマ化粧水を飲んだスライムは、ご機嫌にプルプルしていた。

 

 その後、数日過ぎて。

 ヘチマ化粧水は優秀なので、常備する事にした。

 

 そして、ヘチマ化粧水を飲んだスライムだが――

 

「最近、ウサギ達の毛艶が良くなったのは、キミが原因だったのか……」


 件のスライムが、ウサギの身体をまったりと包み、その毛をトリートメントしていたのだ。

 そのおかげで、ウサギ達の体毛がホワホワでありながらも艶があってキュッキュとするように変化していた。

 その相反しそうな手触りは、同時に調和していて極上の撫で心地になっていた。

 

「なるほど。マスター。私も試してもらって良いかしら?」


「え!? レイナスが試すって、髪の毛にか?」


「ええ、スライムがこんな事をできるなんて、試さずにはいられないわ」


 探索好きの血が騒いでしまったらしい。

 既に、ウサギ達にしているので問題無いだろう。

 かといって、彼女だけにさせるのも何なので、俺もスライムに毛艶を良くしてもらった。

 

 結果、人間の髪の毛も見違える程に良くなった。

 どんなトリートメントを使っても敵わないではないだろうか?

 

 これも、他の皆が興味を持ったので、同じ種類のスライムにヘチマ化粧水を飲んでもらって、トリートメントスライムになってもらった。

 

 それから暫くの間は、女性陣の間でヘアケア商品のCMの物まねが大流行したのだった。

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