表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/175

163 皆で一緒に過ごせる施設にする

 今日は、妖精の隠れ里サイトを拡張する。

 現在は20棟のツリーハウスが建っていて、小川が流れたり細々としたオブジェクトが設置されている。

 今年は、ここの管理をエルフ達に任せようと思うので、彼女達の意見を訊きながら改装してゆくつもりだ。

 

 そのうえで、大きく意識したい事がある。

 

「クリスタルゴーレム達やスライム達も一緒に居られる場所にしたい」


「それは、お客さんの前に出すって事ですよね」


「ハロウィンの時みたいに、特別な感じにするって事でしょうか」


「その特別感を話し合うという事ですね」


「そうなんだ。皆が環境に溶け込んで違和感が無いようにしたいと思っている」


「それは良いと思います。けれど、彼等を常に表に出すのは大丈夫なんですか? 理由があって、裏方をしてもらっていたんですよね?」


 エルフ達の代表であるイーズがそう疑問を口にする。

 確かに今まではそうだった。

 

 彼等が表立って活動すると、色々と騒動になりそうだと思ったからだ。

 マスコミから取材が多数来るかもしれない。

 何処かから研究協力を要請されるかもしれない。

 ただの好奇心で内情を暴きたい人が押し寄せるかもしれない。

 

 そんな騒動からウチの皆を守りたいと思ってした判断だった。

 けれど今は、だからと言って引き籠らせるのは違うんじゃないかと考えている。

 

 そもそも、ウチの皆は、公序良俗に反する様な存在じゃないし、無暗に周りに危害を加えたりしない。

 堂々として良いのだと思う。

 

 クリスタルゴーレムに中の人なんて居ません。

 スライムは不思議な存在で、皆のお友達です。

 そう大真面目に主張すれば、良識がある人なら『ああ、夢がたっぷりな国と似た方針なのね』と納得してくれるんじゃないかな。

 

 ただ、誰しも知らない事や理解しがたい事は、不気味に思ったり恐怖を感じたりするだろう。

 だから、少しずつ明らかにするようには、気を付けたい。

 その一環で、ウチのホームぺージには、ゴーレム達やスライム達の写真も沢山載せ始めている。

 

 それじゃあ、もし騒動になってしまったらどうするか?

 

 まず、ダンジョンマスターの力で、自衛ができる。

 変な経路で侵入しようとする人が居れば排除できるし、滞在中に変な事をした人は、すぐさま察知できる。

 悪意を持った人なんて、コア達がすぐ警戒していくれるので判別も簡単だ。

 今の自分達には、自衛する力があると思う。

 

 過信は良く無いけれど、やれるだけやってみたい。

 それで、もし手詰まりになっちゃったら、それこそ水晶のダンジョンに引き籠るのも良いかな。

 

 まあ、これはあくまで最悪の事態になったらだ。

 いきなり天樹の森を閉鎖しますとかなったら、せっかく遊びに来てくれるお客さんをがっかりさせちゃうから。

 そうならない様に、がんばりたい。

 

 そんな感じの事を、皆に話す。

 

「そうなると、如何に日常として溶け込んでいる空間を演出するかになりますよね」


「ウチでは日常でも、お客さんから見たら非日常ってラインも、しっかり引いた方が良いよね」


「ちょっと難しい気がするけど……、だったら、実際に線を引いてみたらどうかな?」


「それってどういう事?」


「ほら、コスプレのイベントに参加したでしょう。あれを参考にしてみたらどうかな」


「コスプレの会場にしちゃうって事? それは楽しそうだね」


「確か、我々が来る前に、人形の撮影会なんかもしていたんですよね。それなら、いっその事、撮影ブースを設けるのはどうでしょうか?」


 エルフ達からポンポンと意見が出て、こんなアイデアまで飛び出した。

 彼女達の自主性が高まっていて、とても嬉しい。

 

「うん、良いと思う。クリスタルゴーレム達やスライム達とも写真を撮ってもらえる様にしたいな」


 ただ、実際の所、ゴーレム達やスライム達は写真を撮られる事をどう思うのだろうか。

 

 ゴーレムに訊くと、ポーズを色々ととってくれた。

 写真映えする角度を研究中か。

 じゃあ、今から何枚か撮るぞ。

 

 エルフを肩に乗せたり、お城の門番みたいなポーズを取ったりとした姿を写真に収める。

 とても乗り気でよかった。

 

 スライム達の事はコズミンに訊く。

 理解できる子だけを集めるから大丈夫か。

 そうだな、自由にお客さんと接するなら、分からない子がイタズラしちゃう事もありえるもんな。

 トラブルにならないように、よろしく頼む。

 

 ゴーレム達もスライム達も撮影は大丈夫みたいだから、改装を始める。

 

 まず、クリスタルゴーレム達が歩いても平気な様に、道を広くした。

 彼等が歩くと同時に、お客さんも安全に歩けるように、幅には注意する。

 こうすれば、撮影の為にカメラを構える場所を確保しやすくなるだろう。

 

 ゴーレム達やエルフ達にウロウロとしてもらって、その丁度いい感じを探った。

 

「ここは妖精の隠れ里です。旅のお方」


「武器と防具は装備しないと効果がありませんよ」


「ここのフリーズドライ食品はスタミナが回復します。外に出る前に買っておくと良いでしょう」


 エルフ達が道の幅を確認しながら、RPGのNPCごっこを始めた。

 年末にコスプレした際にキャラを勉強した影響のようだ。

 

 そして、コズミンと一緒にやってきたスライムがふるふるしている。

 うん、ボクは悪いスライムじゃないよ、か。

 はは、それはゲームの真似だな。

 

 皆がやっているのを見て覚えたのか。

 よしよし、上手に言えたな。

 

 スライム達には今やってもらう事は無いから、泉の近くでポヨポヨしてくれるかな?

 

 スライムが10体程集まって、泉の中でチャプチャプとし始めた。

 ゆったりとした水の循環にのって、まったりと回っている。

 とても和む。

 こんな感じで、お客さんに鑑賞してもらうのも良いかもしれない。

 

 おや、スライム達が集まり重なって……?

 ええっ! 大きなスライムになった!

 

 とは言っても、それは数秒だった。

 また分裂して元の大きさに戻る。

 えっと、大丈夫か?

 コズミン、どうなんだ?

 

 訊いてみると、理解力の高いスライムは、一時的に合体して記憶の共有をするとの事。

 俺が見ていない所では今までも普通にやっていた事みたいで、安心した。

 

 俺がスライムを眺めていたら、ゴーレムとエルフ達は何かをしている。

 

 ゴーレムの1体がお花を摘んで、それを少し離れた所で座り込んでいるゴーレムの前に置く。

 それを何度か繰り返したのか、座っているゴーレムの前には、何本かの花が並んでいた。

 そして、それをエルフ達が見守っている。

 

 えっと、何?

 

「アニメで見ました。天空城のシーンです」


 イーズがそう教えてくれる。

 これは、誰がゴーレム達に教えたのかな?

 

「我々がごっこ遊びを一緒にしていたのですが、ダメでしたでしょうか?」


 失敗してしまったのかと緊張感をはらませた顔で尋ねるイーズ。


「いや、ダメって事は無いぞ」


 俺がそう答えたら、イーズは安心した様子でほっと胸をなでおろす。

 

「良かったです。それでは、滅びの呪文までして良いですか?」


「流石にそこまでは長いから、またの機会にしてくれ」


「……はい、わかりました」


 イーズがかなりしょんぼりしてしまったから、すこしフォローはしておこう。


「一応、まだ仕事中だから、遊びで脱線するのは程々にしような。とは言え、天空城は良いイメージかもしれないな。ゴーレム達をそれっぽく見せられるから」


「やはりマスター殿もそう思いますか! ゴーレムは水や蔦や苔がある風景にマッチすると思ったんですよ」

 

 そういうわけで、皆で意見を出し合いながら、ツリーハウスに蔦を絡ませたり道のレンガに苔を生やしたりする。

 非常に小さい泉を沢山出して、細かい水路をあちこちに作った。

 

 他には、桶やたらいのオブジェクトや、ハーブや野菜を吊るして干してある状態で設置する。

 

 すると、何となく廃墟感がありつつも生活感もある、神秘的な空間になった。

 ここで、クリスタルゴーレムやスライムが、エルフと一緒にのんびりと過ごしていたら、それだけでストーリー性を感じられそうだ。

 

 クリスタルゴーレムの集会場の様な建物を作り、スライムの水遊び場なんかも作る。

 

 ツリーハウスの内装も、基本は同じでもそれぞれの棟で違いが出るように工夫をした。

 ここは老夫婦の家なのかなとか、子供が居る家なのかなと、想像ができる様な物を少しだけ配置する。

 それを見て、どう受け取るかは、お客さんに任せる感じだ。

 

 改装前から比べて、広さが2倍になった。

 けれど、蔦や苔を多くして、廃墟感が高まったから『ひっそり感』も損なわれずに良い感じになった。

 

 あとは、春にオープンしてから、お客さんの反応がどうかだな。

 

 とりあえず、ホームページに写真を上げて、後はプレオープンみたいにして、撮影会を企画しても良いかな。

 そう話したら、皆も賛成してくれたので、今後がまた楽しみになった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ