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160 シリコロカムイと天狐

 キムンカムイが林に向けて呼び声をあげると、存在感の薄い女性が現れる。

 薄くて後ろが透けて見える程だ。

 

「シリコロカムイ、こっちじゃ」


 キムンカムイが手を振りながら声をかけると、シリコロカムイと呼ばれた女性がきょろきょろとする。

 そして、こちらを見つけて、ゆっくりと近づいてきた。

 

 ズモモモモっと雪をかき分けながら進んでいる。

 

「シリコロカムイかや。あやつは根っこが張っておるのじゃ」


 天狐の知り合いでもある様だ。

 樹木に宿る女神なので、足は根っこで地面の下まで埋まっているらしい。

 雪の溝ができてしまうと危ないからか、彼女が動いた後はきちんと雪も埋まっていた。

 雪をかき分けつつ、より集めているので、余計に移動が遅いのだろう。

 

 たっぷりと時間をかけて、俺達の前に立つシリコロカムイ。

 

 そして、静々といった様子でお辞儀をしてきた。

 それを受けて、俺も自然とお辞儀を返す。

 

 キムンカムイが彼女の横に立って、俺達に紹介を始めた。

 

「彼女はシリコロカムイと言って、大地を司り大樹に宿る者じゃ。近頃は酷く魔力を落として喋れなくなっておる」

 

「久しいの、シリコロカムイや。声を失うほど、力を落としてしもうたのか……。痛ましい事じゃ」


 天狐が、今にも消えそうなシリコロカムイを見て、とても悲しい顔をしている。

 なんだか、色々な不条理を噛みしめている様にも思えた。

 ウチの家族にそんな顔をして欲しくは無いな。

 

「よし、シリコロカムイを受け入れようと思う」


「主殿、良いのか?」


「うん、大丈夫だ。それでキムンカムイ、彼女をどうやって連れて行ったら良いんだ?」


「おお、それは助かるのう。神格を得ていない樹を天狐に示してもらえれば、そこに宿る事ができるじゃろう」


 キムンカムイがそう言うと、同時にシリコロカムイが深々とお辞儀をした。

 楚々とした所作で、とてもお上品な印象だった。

 

 この後、シリコロカムイを迎えるにあたっての条件を話し合う。

 俺としては、こうなったら対価とか要らない気がした。

 けれど、上の方でしっかりと管理しないと、神格の低い神が暴走してウチに押し寄せかねないので、必要な事だと言われたので納得する。

 

 神様関連も人間も、過度な安売りや無料開放は良く無いという事だな。

 

 話し合った結果、キムンカムイから北海道の海産物を定期的に送ってもらう事にした。

 そして、異世界から輸入した毛皮類の1部を、キムンカムイの伝手で売ってもらう事にも。

 彼は肉や毛皮を人に与えるご利益がある神の様で、そういった伝手があるのだという。

 

 形式上は、毛皮と海産物を物々交換する感じだろうか。

 そして、シリコロカムイが責任者として駐留するみたいな。

 ウチに来た当初の天狐と似た立場って捉えれば良いかな。

 

 話がまとまったので、俺達はスキーに戻る事にした。

 この後も、色んな場所を滑って、バックカントリーを楽しんだ。

 

 その日の晩。

 

「主殿や。シリコロカムイを受け入れてくれて、ありがとうの。感謝するのじゃ」


 天狐が俺にもたれかかって、つぶやく様に語りかけた。


「ああ、天狐がそうして欲しそうな顔をしていたからな」


「むぅ、それは気が付いても言うでない。それに、物欲しそうな顔なぞ、妾はしておらん」

 

「悲しそうだったからな」


「むぅ……。しておらん」


 俺の胸元へ、天狐はおでこをぐりぐりと押し付ける。

 その彼女の頭を、優しく撫でてやった。

 こうすれば、少しは気が休まるかな。

 

 俺の手が天狐の髪を撫でる度、ぐりぐり攻撃は弱まった。

 

「力を落としている神様って多いのか?」


「多いのじゃ。地の魔力が枯渇し、信仰も変わってゆくからの。まあ、逆に力を付ける者もおるのじゃ。時の流れかの」


「そうか。えっと、諸行無常? だな」


「主殿や。うまく言えなんだら、無理して言う事は無いのじゃぞ」


「うん、まあ、神様が力を落とす意味って、どれだけ理解できるかわからないけど、共感はしたいなって思うからな」


 そう言うと、天狐は俺の鼓動を聞くかのように、胸へと耳をあてる。

 

 人だって、学生時代はリーダーシップをとっていた子が、大人になって引き籠ってしまったり、逆に俺みたいに、子供の頃はぱっとしなかったのに、今では沢山の人の面倒をみるようになっていたりと、様々だ。

 神様もそうなんだろう。

 

「それじゃったらの、主殿よ。今の妾の気持ちを共感してくれるかや?」


 天狐の声が、弱々しいものから、力のこもったものに変化する。

 悪戯っぽい感じの声質だろうか。

 少し、元気が出てきたのかもしれない。

 

「いいぞ。ちゃんと聞くから言ってみてくれ」


「くふふ、言葉は無粋じゃ」


 そういうわけで、この晩は共感し合った。

 

 

 ▽▼▽

 

 

 因みに、アミリアとマミリアが見つけてきた、変わり種アイスについて。

 

「「マスターは、ぜひこちらを」」


「……ホタテ?」


「「コクがあるかと予想できます」」


 双子に、アイスのカップをずいっと突き出される。

 味の想像が全くつかないから躊躇ちゅうちょしていたら、双子に左右から『あ~ん』攻撃を受けた。

 

 全面降伏して、ホタテアイスを食べる。

 

 ……しょっぱ味と甘味とコクがあって、意外とイケる味だ。

 塩バニラチョコに、ちょと旨味を足した感じに近いだろうか。

 

「アミリアとマミリアも食べてみなよ」


 スプーンを俺に差し出してきたので、両方ですくって食べさせる。

 

「「……おかしいです。こんなに美味しいなんて」」


「こら、ゲテモノを俺に食べさせようとしたのか?」


「「……そんな事はあるません」」


 あるのか無いのか、どっちなのか。

 まあ、こういうのも旅の楽しみだろうから、他のアイスも色々と試してみた。

 

 その後は、何事も無くスキーを楽しみ、家へと帰ったのだった。

 


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