158 パウダースノーを堪能する
アミリアとマミリアと天狐の3人は、ニセコに着いて早々にセイコーマートに行っていた。
「「独自のスイーツがあると聞きおよんだもので」」
「わさびの拉麺があると聞いての。試してみるのじゃ」
双子の方は、コンビニオリジナルのスイーツで、天狐の方は刺激最強と噂の塩ラーメンを買ってきたみたいだ。
もうすぐ晩御飯だけれど、大丈夫だろうか?
……天狐がワサビに盛大にむせていた。
ガラテア、お茶を用意してやってくれ。
ああ、もう淹れてくれているか、ありがとう。
夕食はホールの1つを借り切ってになった。
色々とつまんでみたいので、初日はビュッフェとなる。
食べ物のラインナップは、海産物が多いのが特徴か。
ニセコは山だけど、北海道だから海の幸も良いと思う。
2日目と3日目は、皆でスキーの練習をする。
ウチの皆は運動神経が良いので、すぐに上達していた。
幅の広いファットスキーなので、コースの端の圧雪されていない部分に入ってしまっても、板先が沈み込まずに楽しく滑れる。
ああ、エルフ達。
ジャンプ台を勝手に作ったら、他の人の迷惑になるから崩すように。
そういった物が設置されているコースもあるから、そっちにも行ってみようか。
4日目からは、バックカントリーに入る。
荷物の準備はしっかりと確認した。
みんなの魔法の鞄には、食料に防寒具、連絡用の通信端末等を入れて、念の為に回復薬やラキ特製の丸薬も入れた。
リフトで上がり、その先へは徒歩で登る。
「わぁ、下の方に比べて雪がさらっさらだぞ」
ラキが大きく足踏みをしながら、雪の踏み心地を堪能していた。
ウチの方で雪が降った場合は、だいたいベチャベチャとする。
そして、何日か経つと、ザリザリのシャーベットになってしまうのだ。
「パウダースノーって、本当に粉みたいだな」
「うん、片栗粉みたいに、キュッキュっていうぞ」
「「マスター、ここはシロップをかけて食べるべきでは?」」
「やめとけ。体温奪われて、後でしんどくなるぞ」
「「そうですか。残念です……」」
「そうだな。アタシも食べてみたいぞ」
「気持ちは分かるけど、そもそも雪って食べるのに適してないぞ。ホテルに戻ったらアイスでも食べよう」
「「それなら、昨日変わり種のアイスを沢山発見しました。皆で試しましょう」」
双子は現地調査だと言って、日が暮れてからは土産物屋をよく覗いていた。
それで何か見つけたらしいが、ネタ的な物は少ないと助かるな。
そんな話をしながら20分も登ると、山頂へと到着する。
樹木が無く雪に覆われた景色をみると、まるで異世界の様に思えた。
天気が良く、空気も引き締まって清々しい。
地平線、遠くの山、そして手の平に乗りそうな羊蹄山。
ぐるりと首を回せば全てがみてとれる。
避難小屋が、雪に隠れて、まるでケーキの上の砂糖菓子みたいだった。
双子達も、俺と同じイメージを持ったみたいで、口を半開きにしてお腹を押さえている。
山頂からは、のんびりと滑り降りる事にする。
ときおり吹く突風に、さらさらの雪が舞い上がって、まるで雲の上を滑っている様な感覚になる。
雪が柔らかいから、常にフワッとした感覚で、空を飛んでいるのかと錯覚してしまう。
これは面白いな。
熱中して北海道に移住する人が居るのも分かる気がする。
ある程度を滑り降りたら、止まって休憩。
皆が集まるのを待つ。
そして、ちょっと感想を言い合ったりしたら、また滑る。
皆のコミュニケーションも、順調だなと思う。
しばらく滑り降りると、今度は林の方へと入ってゆく。
木々の合間を縫うように滑り進むのは、なんだかアクション映画の1シーンみたいで気持ちが上がる。
下手な場所で止まると、ずももっと雪に沈んでしまうので、休憩するのに丁度良い場所を見極める。
林を抜ければ、広くなっていたので、そこで1休みする事にした。
山頂に居た時は晴れていたけれど、次第に雲が出てきて、雪もちらつき始める。
これが山頂だったら、方向感覚が狂いかねないので、良かったかもしれない。
ただ、妙に胸がざわざわとする。
「マスター、ちょっと雲行きが変じゃないかしら?」
「レイナスもそう思うか。何か怪しい雰囲気だよな」
そう言って、天狐の方を見た。
「妾では無いぞえ。また別の者じゃ」
「それは分かってる。天狐の知り合いか?」
「おそらくそうじゃろうの。もうちぃと近づいたら、わかるのじゃ」
天狐に心当たりがあるという事は、神様関連だろう。
皆がきちんと集まっているのを確認して、相手の出方を待つ。
そうこうしている間に、雪が強くなる。
頭や肩にも積もってしまう程だ。
「主殿よ、皆よ、来よったのじゃ」
「そうみたいだな」
いっそう雪が強くなり、吹雪の様になった。
もう、1m前も見えない程だ。
意識を集中して、皆の様子を確認する。
こんな時はコア達も連れて来られればと思ってしまうが、無い物ねだりをしても仕方が無い。
そう思っていたら、コアを1つ取り込んでいるガラテアが、周囲の状況をサーチしてくれていた。
皆に異常は無さそうだな。
そして、20m程前方に、強い魔力の反応が現れた。
うむ、俺も念の為に魔力を纏っておこう。
近頃は練習の甲斐があって、上手くなってきたのだ。
……相手の3倍位で良いかな?
すると、吹雪の先から野太い男の声がする
「待て! 早まるな! 敵対の意志は無いのじゃ!」
声がそう言うと、吹雪は一気に晴れた。
そして、その先には、アイヌの民族衣装に似た服を着た、50cm程の縫いぐるみの様な熊がいた。




