156 2日酔いと異世界のウサギとノームの事情
真の神酒は、俺と天狐以外は2日酔いになるので、うかつに飲むのは禁止になった。
「美味しいけれど、あの辛さはもう味わいたく無いわ」
「2日酔いって辛いと思ったぞ。アタシはもう飲まないって決めたぞ」
「「寝込んでいた時の記憶も曖昧です」」
魔力値が高い4人は、何とか回復した。
「マスター殿、申し訳ありません。まだ本調子じゃないみたいです」
「うん、無理しないで休んで良いぞ」
エルフ達は、まだ辛そうだ。
頭の痛み等は収まったみたいだから、もう少し休めば回復するだろうか。
そして、ガラテアはまだ復活していない。
体調は大丈夫みたいだけれど、メンタルがやられてしまった様だ。
酔って痴態を晒すのは、彼女の羞恥心や自尊心を大きく刺激したみたいだ。
意図してやる分には良いけれど、無意識でするのは避けたい行為らしかった。
あの程度だったら、天狐は毎日の様にしているのだから、ガラテアも気にする事も無いと思うが、そういう問題でも無いのだろう。
「主殿よ。何ぞ失礼な事を考えておる顔じゃ。それを体現してやっても良いのじゃぞ?」
「いや、天狐は神格が高くて凄いなって思っていたんだ。本当だぞ」
「ふむ、それならもっと称えるのじゃ」
天狐は胸を張って、ふんすと鼻息を荒くした。
皆の沈みがちな雰囲気を吹き飛ばそうとしてくれているみたいだ。
▽▼▽
俺達がそんな感じで、やいやいしている間、新しくやって来たウサギ達は、スモモとキラリの先導で、敷地内を案内してもらっていた。
新入りウサギ達は、スモモとキラリと対面した際に、脱兎のごとく逃げ出した。
コレはヤバいヤツやと思たそうな。
それを、それぞれの番になるウサギ達が確保し、ちゃんと挨拶をさせる。
ウチのウサギ達と異世界のウサギ達は同じ種類だそうだが、毛並みが随分と違う。
それは、群れのリーダーが毛並みを良くして目立つようにして、強大な外敵の眼を引き付ける役目があるからだという。
なので、異世界側のウサギ達からしたら、ウチのウサギ達はそれぞれに群れを率いていて、その番として選ばれたと思って少しうぬぼれていたらしい。
そこへ、リーダーの中のリーダーたるスモモとキラリを見て、格の違いを知ったのだとか。
その後は、きちんと挨拶を済ませたので、2頭の先導で敷地を案内してもらったとの事。
畑の山を見て、ここは天界かと思ったらしい。
そう俺に報告してくれた。
彼等とも意志の疎通ができて、良かった。
あと、下っ端だなんて言って、変に卑屈にならないように。
皆ウチの新しい家族だからな。
ノーム達5人は、敷地内で伸び伸びと過ごしている。
見る物全てが新鮮で楽しいみたいだ。
ウサギ達と一緒に、穴掘りの山で遊んだりしている。
彼等は魔力的な存在だから、土に汚れる様な事は少ない。
なのだけれど、俺が手を入れた畑などは、魔力値が高いからか、すこし汚れる。
なので、温泉に入って綺麗にするのは楽しいみたいだ。
それと、俺とコズミンから体を洗われるのも楽しいらしく、風呂の時間は毎回はしゃいでいる。
彼等と一緒に温泉に入る様になって、俺は久しぶりにのんびりと温泉を堪能できている。
命の洗濯をしている、そんな気がするな。
ただ、そんな安寧も長くは続かなかった。
ノーム達を洗うのが、俺とコズミンで日替わりになる。
女性陣からクレームが入ったのだ。
コズミンは、自分だけでノームを洗うと言っていたが、日替わりで交代にしてもらった。
あと、生活に小さい男の子が入ったからか、女性陣の母性が刺激されたのだろう。
アピールが激しい。
気持ちは、わかる。
俺も子供が欲しい。
けれど、種族が違って子供ができるのだろうか?
「マスターは只人だから大丈夫よ」
レイナスが言うには、只人は種族的な特徴が無い分、繁殖力が強いとの事。
そして、全ての人間種と子供をなせるというのだ。
地球人は只人という人種と同じなのか気になる所だけれど、そう思う事にして、励む。
「ただ、魔力差が大きすぎると、中々子供ができないって統計はあるわね。だから、貴族同士で婚姻を結ぶのは多いわ」
「そうだぞ。アタシの父ちゃんは嫁が10人いるけど、沢山子供を産んだのはアタシの母ちゃんと、もう1人の嫁だしな」
ラキの父親は国王なので、ハーレムを持っているのだとか。
それでも魔力差の相性で、1人しか子供ができない嫁が多いという。
「だからマスター。魔力をたっぷり補給して頂戴な」
「そういう事だぞ」
ラキから強壮の丸薬を飲まされる毎日になった。
とても励んでいる。
▽▼▽
正月気分も落ち着いてきたら、ぼちぼち仕事を再開する。
今まで作物を無秩序に思うが儘に栽培していたから、その整理をし始めた。
定期的に必要な作物もあれば、期間が限定的で良い物もある。
特大松茸や沈香なんかは、期間限定の最たるものだろう。
また、ハウス栽培に精を出している農家さんの利益を損ねるような事も避けたい所だ。
そのへんは、天狐と話して調整している。
農耕を司る天狐の一族にとって、信者の農家さんの生活を脅かしかねない事は避けたいだろうと思う。
地球向けに出荷する物は、常備作物の山と、期間限定作物の山との、2つの畑の山を作った。
異世界向けのフリーズドライ食品の材料や、大量に必要なお酒の材料なんかは、水晶のダンジョンサイトで作っている。
洞窟型のダンジョンは、疑似的な空を作れるのだけれど、それでも問題無く作物は育っている。
水耕栽培とかLED照明栽培とかがあるから、ダンジョン栽培も問題無いだろう。
畑を作っていると、ノーム達が興味を示す。
「土がね、変だよ」
「沢山だね。いっぱい育つよ」
何かを言いたいようだけれど、言葉が少ないので、もうちょっと聞いてみる。
「何が変で、何が育つのかな?」
「魔力がね、変なの」
「変な魔力がね、沢山だけど、草がいっぱい育つの」
「変だねー?」
「ねー?」
ノーム達は地面にしゃが込んで、土に手をかざしながら小首を傾げ合っている。
見た目が幼稚園児くらいの男の子なので、土遊びをしているみたいで和む。
俺がクワモードで土を耕すのは、精霊であるノームが土壌改良をするのとは、また違った現象のようだ。
「でもね、マスターのね、畑でね、草がいっぱいでしょ」
「草がいっぱいならね、ウサギさんがね、沢山ふえるね」
「ウサギさんがね、いっぱいならね、僕たちもね、いっぱい増えるね」
「いっぱい増えたいね」
「うん、増えたいね」
ほのぼのした雰囲気で喋っているけれど、その内容はとても世知辛い物だった。
そうだ、彼等は一時期絶滅の危機だったらしいから、今でも切実な問題を抱えているんだよな。
レイナスによれば、異世界で長年不作が続く原因の1つとして、彼等の激減も影響しているのかもしれないとの事。
その激減の原因は、エレメントシャークという精霊の一種が突然猛威をふるって彼等を襲った事にある。
そのエレメントシャークから身を守ってもらうのに、ノーム隊はウサギ達に牧草を提供する事で共生関係を築いてきた。
成獣のウサギが1頭いたら、ノームも1人増える事ができる感じのバランスの様だ。
ノーム達から見れば、ウチでウサギに繁殖してもらえれば、自分達も増えてゆけるという事か。
そうなると、現在ウチでは12頭のウサギが居る。
だったら、ノーム達も12人に増えるのだろうか?
そう思っていたら、その後、ノーム達が手をかざしていた場所に何かの芽が出ていた。
俺は種を植えた覚えは無いし、見た事も無い芽だ。
「これはノーム達が育てているのか?」
「そうなの。とってもね、大きくなるの」
「大きくなったらね、お友達なの」
「甘いのね、欲しいの。ちょうだい、マスター。お水をね、あげたいの」
ノーム達に魔石をあげると、指先から賢者の水を出して芽にあげ始めた。
「それで、これは何なんだ?」
「僕たちなの」
「増えるんだよ」
ふむ、ノームは畑で増えるらしい。
このまま成長を見守ってゆこうと思う。




