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154 ノームの水の秘密

 ウサギ達がパートナーと一緒に精霊のノームを連れてきた。

 彼等は幼稚園児の男の子に見える外見だ。

 

 食事として魔石をあげたら、とても喜んでくれた。

 そして頭を撫でると、悲鳴を上げて、腰を抜かして、お漏らしをしてしまう。

 軽率だった。

 

「わ! ゴメン。嫌だったか?」


「あわわ、お水が出てきちゃったの!」


「変だよ? お水出ちゃうなんて、変だよ?」


「何で? 僕は、お水なんて出ないよ。何で?」


 お漏らしをしてしまったノームを囲み、他のノーム達が慌てふためく。

 当のお漏らしをしたノームは、ぽけーっとして呆けていた。

 

 とりあえず、拭いてあげないとな。

 急いで家へ転移してタオルを持って来る。

 それで拭こうとするも、タオルは吸い取ってくれない。

 何故だ?

 

「マスター、私もよく分からないのだけれど、精霊は人と触れ合えない関係だわ。だったら、彼等から出た物も、触れられないのではないかしら?」


「なるほど、そうか。……だったら、何でさっきノームを撫でる事ができたんだ?」


「それはよく分からないわね」


「レイナスでも分からないのか。とは言え、このままっていうのも可哀そうだよな」


 考えてもらちがあかない気がしたので、漏らしたノームに訊いてみる事にした。

 

「おーい、今、どんな状態か、わかるか?」


 声を掛けても、ポーっとした表情のままだ。

 なので、肩をトントンと叩いて、気をつかせてみる。

 

「ほら、声も聞こえているか? 戻って来い」


 何度かそうすると、次第にノームの目がはっきりしてきて、俺に視点が合い始めた。

 

「わ! わ! 僕ね、ビックリしたの」


「そうか、驚かせちゃってゴメンな」


「大丈夫なの。頭をね、撫でられたら、とても気持ちが良かったの。もっと撫でて」


 そういう事なら、驚かせてしまったお詫びも兼ねて、ノームの頭を再び撫でる。

 ノームは、温かいお風呂に入った時の様な声を出して、ふにゃんと蕩けはじめた。

 

「そんなに? そんなに気持ち良いの? 僕もかな?」


「凄いね。またお水が出ちゃったよ。でも、気持ち良いんだね」


「次はね、僕がして欲しいな。お願いね」


 他のノームも興味があるみたいなので、してあげる事にした。

 1人だけ特別は良く無いからな。

 

 すると、他のノーム達も腰が抜けてしまって、お漏らしをしてしまう。

 

 ……これは、そもそも、お漏らしなのだろうか?

 最初に見た時はそう思ったけれど、よく見ると、それっぽい感じがしない。

 

 コズミンに、汚水処理が得意なスライムを呼んでもらう。

 ……おしっこでは無いらしい。

 コズミンが言うには、魔力が純粋に液体化した物の様だ。

 

「ちょっと待って頂戴、それって賢者の水って事じゃないかしら」


「それって何なんだ?」


 俺もノーム達の水にまみれながら、レイナスに訊く。

 

「空間に魔力が漂っている魔素とも違う、魔力が集まって固まった魔石とも違う、第3の状態と言われているわ。とは言っても、伝承が独り歩きして大げさに語られている物とも言われていたけれどね」

 

 そう言って、レイナスは床に広がる水に触れようと手を伸ばす。

 しかし、その手は水に濡れる事は無かった。

 

「タオルでは拭けなかったのに、マスターの服は濡れているのよね……。もしかして?」


 レイナスは目をつぶり意識を集中しだす。

 すると、彼女の魔力値が高まった。

 その魔力が、彼女の手に集中する。

 

 そして、また床の水に手を伸ばす。

 すると今度は、レイナスの手が水に濡れた。

 手を持ち上げると、ピトリと雫が垂れる。

 

 成る程なぁ、純粋な魔力の水だから、それを受け止める方には高濃度の魔力が必要なのか。

 床っていうか、ダンジョンは魔力で作られた何だか不思議な物みたいだから、しみ込んで行かないのかな。

 

 それなら俺の方も魔力を練って、タオルに意識してそれを向ければ……。

 うん、床の水を拭けたぞ。

 ノーム達の足回りも拭いてあげよう。

 

 腰回りの方は、ぽんぽんと大雑把に拭いて、後はお風呂に入れてあげれば良いかな?

 

 そう考えていたら、レイナスは掬った雫の匂いを嗅いで、それを舐めようとした。

 

「まて! レイナス、それ以上はストップだ!」


「でも、マスター。折角の賢者の水よ? 色々と確かめないといけないわ」


「だからって、舐めるのはちょっとアレだろう? ノーム達も気にするだろうし」

 

「お水だよ」


「ほら、ノームも水だって言っているわ。それに、コピ・ルアクがあるでしょう? 猫の糞から採ったコーヒー豆よりも、穏やかだと思うのだけれど」


「糞じゃないの。お水なの」


「ね? 大丈夫よ」


 ああ、レイナスの探求心が久しぶりに火を噴いている。

 科学や文明の発展には必要な志なのかもしれないが、今ここでは少し抑えてもらいたい。

 

 どうにかならないか、考えろ、俺!

 

 えっと、俺がノームを撫でた事で、賢者の水を漏らしてしまった。

 そして、賢者の水は純粋な魔力の水だ。

 おしっこじゃない。

 

 だったら良いかと思えるが、出て来た部位が問題な気がする。

 そうだ、だったら指先から出れば、イメージがマイルドになる。

 

「えっと、ノーム達、水を指先から出せるかな?」


「う~ん、出せるけど、出ないの」


「どうしてだ? もっと撫でてあげるぞ」


「違うの。甘いのが欲しいの」


 魔石が欲しいという事か。

 皆に1粒ずつ魔石をあげる。

 そして、彼等の頭を撫でる。

 

 すると、彼等は手の指先から、賢者の水をチョロチョロと出し始めた。

 これなら、まあヨシだろうか。

 

 この賢者の水をちょっと舐めさせて貰う。

 無味無臭って感じだな。

 ただ、水っぽい感じも無い。

 不思議な感覚だ。

 

 他に皆にも舐めてもらっているが、味はしないとの事。

 そして、どこに賢者の水があるか、常に魔力を集中しないとならないので、口に含んんだ後は、喉から外に通り過ぎて体の外に出てしまっていた。

 

「これは扱いが難しいわね」


「俺は普通に飲めるけどな」


「マスターだからよ」


「そうじゃの。狐の姿をとらねば、妾でも飲むのがちと骨が折れるのじゃ」


「天狐でもか。そうなると、賢者の水って使い道があるのか?」


「それは研究次第ね」


「そうじゃな、あれじゃ。まずは酒にしてみたらどうじゃ」


「天狐はそればかりね」


「なんじゃ、レイナスも好きじゃろ」


「ええ、同意するわ」


 まあ、そんな事があったけれど、新しいウサギ達やノーム達を家に迎え入れる事になった。

 

 そして、ノーム達の事は、俺が触れたから気が付かなかったけれど、他の皆は触れられないみたいだ。

 強いて言えば、天狐がちょっと触れられる程度だった。

 触った感覚は彼女が言うには、時速60kmで走る車の窓から手を出した時の空気の抵抗みたいな感触だという。

 

「ノーム等は神格が希薄じゃの。これでは絶滅もやむなしなのかもしれんな」


「そういえば、天狐はキツネの姿だと、魔力の高い人間にしか知覚できないんだよな。その時は、物理的な干渉とかできるのか」


「魔力を込めればできるのじゃ」


「じゃあ、人間の姿の時は、ずっと魔力を消費していたのか」


「いや、妾程になると、存在の在り方を変える事ができるのじゃ。ノーム等もそれができれば、皆と戯れられるやもしれんの」


 そうか。

 ウサギ達と共生していたけれど、触れ合う事はできなかったみたいだから、いずれはそうなると良いな。

 

 そう思っていたら、コズミンが俺と同じようにノームの事を撫でていた。

 更には、身体の上に乗せてポヨポヨと弾んで遊んであげていた。

 

「凄いね。ポヨポヨだね」


「どんどん、跳ねるよ」


「わはっ! 楽しいよ」


 ノーム達がとても楽しそうにしている。

 見た目にたがわぬ、子供らしい笑顔だ。

 

 よし、コズミン、俺も混ぜてくれ。

 

 たっぷりノーム達と遊んだ後、コズミンが教えてくれた。

 なんと、コズミンは、大精霊だったのだ。



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