153 ウサギと精霊
巣立ったウサギ達が帰ってきてくれた。
ウサヒト、ウサジ、ウサミ、ウサヨ、ウサコ、お帰りなさい。
皆、怪我とか病気とかはしてないか?
……大丈夫か、良かった。
それで、パートナーを見つけてきたんだな。
ウサギ達は、それぞれ番となる相手を無事に見つけて来れた様だ。
相手のウサギは、土茶けた色で、保護色といった感じか。
これは、餌を良い物にして、環境が変わると毛並みは違ってくるとの事だ。
皮膚に近いアンダーコートの毛は、ホワホワな物が生えているので、持たせたニンジンをもらったみたいだ。
生まれた時は、手の平にすっぽりと乗るくらいだったウサギ達が、パートナーを見つけて新しい家庭を築くとは、感慨もひとしおで涙がうるっときた。
帰ってきたウサギ達、そしてこれからウチに住むウサギ達を、サスサスと撫でる。
今日はニンジンパーティーだな。
カボチャとパイナップルも沢山用意するぞ。
さて、そうやってウサギ達と戯れているわけだが――。
「マスター、そろそろ現実を見てちょうだい」
「ああ、レイナス、待たせたな。それで、この子達をどうするか? だな」
ウサギ達はパートナーだけではなく、小さな男の子を5人連れてきていた。
見た目は4歳前後で幼稚園児のように小さい。
服装が幼稚園児が着るスモックに似ているので、余計にそう見える。
そして、彼等は人間じゃ無いらしい。
魔物でも無いと、ウサギ達から説明も受けている。
彼等は、精霊。
土の精霊の『ノーム』だそうだ。
妖精種では無いので、人とは交われない魔力的な存在だとか。
どこからか子供を連れてきてしまったわけでは無いので、それは良かった。
「あのね、ウサギさん達とね、一緒にね、いたいんだ」
たどたどしく訴えるノーム達に庇護欲がわいてくる。
「どうしてウサギ達と一緒にいたいのかな?」
「うん、ウサギさん達にね、僕達を守ってもらうの。そうしないとね、僕達ね、食べられちゃうの」
いきなりヘビーな話になったぞ。
「誰がそんな事をするのかな?」
「エレメントシャーク。口が大きいの」
それからノーム達に話を聞く。
ノームは地中の魔力を操る事ができるそうだ。
それで、特定の草などが育てやすい土地へと土壌改良ができるという。
そうすることで、ウサギが好む牧草を育て、その代わりに外敵から身を守ってもらっている。
その外敵が、エレメントシャークで、こちらも精霊の一種だとか。
それは精霊としては力が弱く、魔力が高い者が攻撃したら、消失させられる。
けれど、ノームは攻撃手段を持たないので、一方的に捕食されてしまうのだとか。
ノームは、一時は絶滅寸前までいったが、ウサギ達との共生関係を築く事に成功し、なんとか現状維持ができているという。
「エレメントシャークはね、鼻も良いんだよ。ウサギさんの匂いがしないとね、バクってしに来るの」
「逃げてもね、ずっと追いかけてくるの」
「だからね、ウサギさん達と離れたらね、僕達はね、食べられちゃうの」
なるほど、そういう事情があったのか。
この事は、異世界出身の皆も知らなかったみたいだ。
「そもそも、精霊と話をする機会なんて、滅多にないもの」
「レイナスでもそうなのか」
「ええ、フィールド型のダンジョンで、精霊化したエルダートレントと話をした事があるくらいだわ。イーズ達エルフはどうかしら?」
「我々も会った事はありません。昔は沢山いて交信する事もできたと、幼い頃に長老からは聞いた事がありますが……」
精霊と交流できるのは、とても貴重な体験の様だ。
気になるのは、彼らが土地の状態を操れるという事だ。
ひょっとしたら、異世界が長年不作に見舞われているのに関係があるのだろうか?
「そう単純じゃ無いかもしれないけれど、原因の1つではありそうね」
「そうなると、保護してあげたくなるな」
このまま彼等を異世界へと帰してしまうと、たちまちエレメントシャークに食べらえれてしまうと言うなら、ウチに居てもらった方が良いだろう。
「よし、それじゃあ、ノーム達、ウサギさんと一緒にウチに来るか?」
「良いの? 一緒で良いの?」
「僕達ね、『ふつつかもの』だよ?」
「人間さんのね、食べ物はね、作れないよ?」
「ああ、構わないぞ。ウチでは食べ物は十分間に合っているからな。ノーム達は食事はするのか?」
「あのね、魔力がね、沢山欲しいの」
そうか、魔力が必要か。
はは、女性陣たちよ、変な目で見ないでくれ。
コズミンだってブドウで魔力を補っているんだから、ノーム達だって方法があるはずだ。
「それじゃあ、魔石はどうだ?」
以前、異世界から買い付けた魔石を、ノーム達に渡す。
「これだよ。甘いよ」
「美味しいの~」
「お口がね、幸せなんだよ」
ノーム達は、雲の切れ間からお日様が覗いたみたいな笑顔になって、魔石をコロコロと舐めた。
これで良かったらしい。
いや、本当に良かった。
「そうか、うんうん、たっぷり食べてくれ」
そう言って、俺はノームの頭を撫でた。
「ひゃぁ!」
すると、ノームは悲鳴を上げて腰を抜かし、お漏らしをしてしまった。
わ! ゴメン。
でも、何で!?




