152 年が明けて
新年になる。
天樹様にお詣りをして、日の出も拝む。
今年も1年、良い年でありますように。
心なしか、天樹様の杉が、より元気になっている気がした。
枝打ちをして、周囲に腐葉土を撒いた効果が出たのだろうか。
スライム達には、定期的に杉が病気になりそうな菌類を食べてもらっているから、そのお陰もあるだろう。
天樹様には、いつまでも健康な樹でいてもらいたい。
お正月と言えば、お節料理。
今年は、高級料亭の物を頼んだ。
ウチの作物を使っているらしく、他所で調理されたらどう変化するのか。板前さんの業を堪能できる。
黒豆の煮具合は見事だ。
艶やが綺麗で、甘みの程良さも絶妙だ。
大根とニンジンの酢なますも、美味い。
酸味が優しく食欲を刺激し、思わず唾液があふれてくる。
50セット以上もウチで注文して良かったのかと思ったら、むしろウチ向けに企画した物らしい。
例年なら、政財界の大物向けにしかお節は用意しないみたいだけれど、秋の松茸の件があって、ウチの為に作ってくれた様だ。
そして、お節の重箱とは別に、筑前煮も作ってくれた。
レンコンやゴボウなど、お節でも使われている食材だが、こちらは濃い味のつけ方で、酒のツマミによく合った。
薄味のお節との比較もできて、おもしろい。
ウチから出荷された物が、こんな風に調理されているのかと思うと、もっと美味しい作物を用意したいという意欲が湧く。
今年もがんばろう。
お正月の三が日はダラダラと過ごす。
基本的に食っちゃ寝をして、合間にゲームなんかをした。
元日は、コタツに入って浴びる程に酒を飲む。
エルフ達が楽器を演奏してくれて、雅楽の様な曲を聞かせてくれた。
耳コピしたみたいだ。
ただ、酒が深くなると、どんどん旋律が怪しくなり、次第に陽気な曲へと移っていった。
それはそれで、楽しい感じだ。
酔いつぶれた者が風邪をひいたりしないように、ベッドに運ぶのがちょっと大変だった。
何故か、俺の仕事になる。
そして、お姫様だっこで運ばないと怒られた。
しかも、転移も禁止だ。
これもコミュニケーションの一環として、皆を運んだ。
2日に書初めをする。
皆で今年の目標を掲げた。
俺は『家内安全』。
皆が安全安心に暮らせる家庭づくりをしてゆきたい。
あ、スモモが硯に前足を突っ込んだ。
墨で真っ黒じゃないか。
ほら、まずは流しで洗うか。
え? スモモも書初めだって。
『兎』
一文字だけれど、達筆だった。
スモモはドヤ顔よろしく、鼻をスピスピさせている。
うんうん、良く書けているぞ。
じゃあ、前足を洗う前に、左下に刻印みたいに足跡もつけようか。
皆で書初めをしたから、けっこう墨が飛び散ってしまう。
それを、スライム達がフルフルと食べて掃除してくれた。
……床に線をひいて、ライントレーサーみたく楽しめるかな?
いや、その前に、そんな事をしてスライム自体が楽しいか? が大切だ。
コズミン、その辺はどうだ?
……皆楽しんでくれるか、よし。
墨を食べられるスライムに集まってもらう。
長い廊下に墨の線をひき、どのスライムが一番早く墨を消せるか、皆で予想する事にした。
今回出るのは、10体のスライム。
皆の予想はそれぞれにばらける。
俺はどの子が勝つかと予想しようとしたら、コズミンに止められた。
そうだな、俺は全員を応援しないとな。
え? 俺が特定の子を応援をしちゃうと、スライムの能力が上がってしまう?
これも、ダンジョンマスターの力で、配下の魔物を強くする効果なのか。
むいむいと墨の線を食べて消すスライムのいじらしさに癒されつつ応援する事、3レース。
一番の的中率を誇ったのは、ラキだった。
「家来の面倒をみるのも仕事だからな。これも同じだぞ」
どうだすごいだろうと、ラキは胸を張って鼻息を荒くしていた。
そして横に並んだら、頭を俺の方に向けてきたので、条件反射で撫でている。
ラキは、それでいいんだぞと、また鼻息を上げてつぶやいた。
次に的中率が高かったのが、エルフの代表のイーズだ。
「放浪生活では、時に戦力を分散させる必要がありましたから。見極めは鍛えられました」
集団を率いるリーダーの資質ですからと、イーズは言いながらお腹を向けてくる。
的中率の高さを褒めつつも、お腹撫でるのは流石に無いだろうと、窘めた。
そして、全然当たらなかったのが、天狐だ。
ちょっと意外。
「妾の物差しは大きいのじゃ。細やかしいのは、ようわからん」
不貞腐れる天狐に、御酌をする。
単に当たり外れを楽しむ程度で、別に競争ってわけじゃなかったんだけれど、最下位はショックだった様だ。
天狐は上を見るのは得意だが、下を見るのがまだ経験不足なのだと思う。
俺自身もそうだし、天狐もゴーレム達や皆と仕事をする中で、一緒に成長してゆけたら良いなと思う。
他にはカードゲームやテーブルゲームなんかもする。
やたらと俺が勝つ事が多いから、今年は運が良いのかと思ったら、コア達が未来予測をして、イメージを伝えて来ていたみたいだった。
ゲームでそういうのはダメだと厳重注意。
「逆に楽しめば良いと思うわ。マスター、3コアで勝負しましょう」
レイナスの提案で、コアを幾つ使うかのハンデ戦になった。
コアの数が変わると、イメージの鮮明さも変わってくる。
皆は、自分の実力がどれ程のものかが分かって面白いそうだ。
因みに、コアのアシストを受けない状態の俺は……詳しくは伏せる。
そんな感じでお正月をまったりと過ごしていたら、異世界にパートナー探しに出かけていたウサギ達が帰ってきたと、コアから連絡があった。
早速、出迎えよう!




