149 コスプレのイベント
「お出かけしたいデス」
クリスマスよりもまだ前の頃。
夕食を済ませ、ソファーでのんびりしていたら、ガラテアがやってきて俺の腰の上に乗ってきた。
体重も預けてくる。
これは、彼女なりにとっても重要なお願いのサインだ。
普通に言ってくれれば、可能な事なら叶えてあげるつもりはある。
皆にもそう言っているけれど、あえて今みたいにするのは、どうしてもって気持ちがある時なのだろう。
だから、しっかりとガラテアの話を聞く。
「コスプレデス」
年末にある、大規模イベントのコスプレに参加したいらしい。
それも、ウチの皆でだ。
衣装は、ほぼ完成しているとの事。
……せっかくだけれど、ゴーレム達はサイズの問題で参加できそうに無いな。
写真だけでも今から撮ってあげようか。
そういう事で、イベントに参加する。
会場へは、バスを出してもらった。
日帰りができない事は無い距離だけれど、運転手さんが大変なので、1泊する。
年末の都内近郊で宿が取れるのか、心配だった。
結局無理だったのだけれど、都内でもテントを張れる所がある。
空いていたので、そこを人数分予約をする事ができた。
そして、当日。
「や~ん、ガラテアちゃん、すごく良いよ。クオリティ高すぎ! めちゃディティール細かいね」
「ハイ、ぺんとりんも再現度が非常に高いデス。ドレープのシルエットが綺麗ですネ」
『ぺんとりん』とはハロウィンでウチに来てくれたコスプレイヤーさんのハンドルネームのようだ。
彼女はソシャゲのキャラらしい。
ガラテアは、ごついパワードスーツを脱いだら中は美人な女性だったってキャラのコスプレの様だ。
今はヘルメットだけを脱いでいる。
目元のマスクはバイザーとして機能している感じだ。
2人がそうこう挨拶をしている間にも、沢山の人に写真を求められていた。
素材の美人度以上に、衣装の再現度の高さが通好みの様だ。
「マスターさんも、サイトの写真見ましたよ。みんな可愛く撮れてて、良いですねぇ」
ぺんとりんさんが、ウチのサイトの感想をくれる。
実は、ハロウィンでスライム達やクリスタルゴーレム達を表に出したので、サイトの方に写真も載せ始めたのだ。
そして、画質をわざとチープな感じにして、上手く模型の撮影をしている様な感じにしている。
人間種以外の皆が、ウチの中で自由に過ごせるように、今後を見据えたカモフラージュの一環だ。
「ありがとう。加工し過ぎたかなって思うんだけど、変じゃ無かったかな?」
「ううん、全然。凄く雰囲気出てたよ。私も混ぜてもらいたいくらい」
「じゃあ、合成オーケーなフリー素材とかあったら、喜ばれるかな」
「それ、良いかも。ガチな人とか大喜利始めちゃう人とか、色んな物が見れて楽しくなりそう」
咄嗟の思いつきだけれど、意外と良いかもしれない。
楽しい事は重要だからな。
帰ったら、さっそく手を付けてみようと思う。
さて、ウチの他のみんなはどうかと言うと。
レイナスは、緑髪の魔法使いキャラの衣装だ。
三角帽子にロングコート。
緑のミニワンピに太ももまで覆うロングブーツ。
とても彼女に似合っていた。
ただ、似合っているだけじゃなく、元となったキャラの事も勉強した様だ。
「ええ、彼女の生きざまには共感できる所が多かったわ」
レイナスに限らず、コスチュームを着る皆は、その元となるキャラについて勉強したという。
衣装と一緒に、ガラテアが作った資料を渡されて、それをしっかり読んで原作に触れたりもしていた。
ラキは、俺が第一印象を持ったみたいに、狩りゲームの衣装だった。
「どうだ? マスター。カッコいいかな?」
「うん、美しいよ」
「そ、そう言われると照れるぞ」
彼女の筋肉質な肉体美に非常にマッチしていて、生物の美しさを表現されているとすら思えた。
天狐はキツネ耳のキャラで、本領発揮という所か。
手の者の人も来ていて、五体投地をするものだから落ち着かせるのが大変だった。
「耳を付けるとゴワゴワするのじゃ」
「耳だけ狐化するのって、できるのか?」
「できん事も無いが、油断すると尻尾も出てしまうでの。せんのじゃ」
「それはそれでアリなんじゃないか?」
「ぱんつが穿けんぞえ?」
それなら、自粛してもらうか。
後でこっそりしてもらおう。
アミリアとマミリアの双子は、サッカー少年の恰好だった。
彼等も双子のキャラらしい。
「クールな俺に痺れなよ」
「ナイスな俺に見とれなよ」
決め台詞とポーズが堂に入っている。
双子ゆえの関係性や悩みなどに、シンパシーを感じた様だ。
男性キャラがメインのゲームらしく、他の女性コスプレイヤーの人達と、同作品の別キャラが一堂に会する『合わせ』というのをしたみたいだ。
沢山名刺を交換したと見せてくれた。
「アミリアもマミリアも楽しめているか?」
「「はい、スモモさんとキラリさんに指導してもらって、リフティングも練習しました」」
双子のコンビネーションは球技に向いているみたいで、ウサギ達も筋が良いと言っていた。
そのスモモとキラリは会場の問題で、今はバスで運転手さんと一緒にお留守番をしている。
エルフ達は、様々なエルフキャラの衣装を着ていた。
地球のエルフ観に戸惑う事もあったみたいだけれど、着飾る事が楽しいようだ。
彼女達はひと纏まりで行動している。
「異世界では、オシャレなんてできませんでしたから」
「耐久性と隠密性が重要だったよね」
「我々がオシャレする事でマスター殿に喜んでもらえるんだ。精一杯しないとね」
うん、オシャレしてくれるのはとても嬉しいぞ。
みんな美人だから華やかでいいね。
そして俺は何のコスかと言うと、普段着だ。
一応、足元に説明の看板を立てている。
『レイヤーを遠巻きに見て腕組みをして彼氏面する人』
ってコスプレらしい。
ガラテアが用意してくれた。
これは悪ノリが過ぎるんじゃって思ったけど、それを受け入れる土壌があるのか、何人かに写真を頼まれた。
お祭りだから、多少はね? って事かな。
因みに、当のガラテアもあいさつ回りとかが済んだらしく、ヘルメットをかぶって俺と隣り合って同じポーズをとっている。
通りがかりの人が何人か真似る様になって、更には俺達を遠巻きに見て腕組みして彼氏面する人まで現れた。
いったい、どこまで派生するのだろうか?
今回は、コズミンも参加している。
俺の隣で『スライム』って看板を立ててフルフルしている。
直径2mのお饅頭がフルフルするのはインパクトがあるらしく、多くの人に写真を撮ってもらっていた。
クオリティが高いっていうより、コスプレでも無い気がするけれど、コズミンが楽しそうなので何より。
ガラテアがパワードスーツをパージすると、その中にコズミンが入る。
コズミン、分裂ができたんだな。
ちゃんと元に戻れるのか?
……大丈夫か、それなら良かった。
ピッタリインナースーツのガラテアと一緒にパワードスーツコズミンがポーズをとった。
「なるほど、可愛いと格好いいが同時に見られて、これは良いな」
「お得デス」
「そうだな。ガラテアはこれが一番やりたかった事なのか?」
聞くと彼女はコクンと頷いた。
コズミンも、関節を滑らかに動かし、自然な動作で頷いた。
そうか、この日の為に練習したのか。
うん、すごく上手だぞ。
「作った服も沢山披露できて良かったな」
「良かったデス」
他の皆が集まっている所を、腕組みしながら眺めるガラテアは、とても満足そうだった。
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